●大谷氏の主な使用3Dプリンタ
2012年~「Printrbot」購入当時価格:544ドル
2013年~「Bukito」購入当時価格:624ドル
2014年~「The Micro」購入当時価格:299ドル
2016年~「M3D Pro」購入当時価格:499ドル
2017年~「ダヴィンチ Jr.2.0 Mix」購入当時価格:84,960円(クラウドファンディング価格)
2017年~「SparkMaker」購入当時価格:469ドル
2019年~現在「ダヴィンチ Color mini」購入当時価格:129,000円(先行予約特価)
・3Dデザインツール
Tinkercad、Fusion 360 など
・工作好き+技術検証目的で購入
テクノロジーライターの大谷和利です。3DCreators.jpや姉妹サイトのpdweb.jpでコラム連載をしていたこともあるので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
最初の3Dプリンタの導入は2012年で、企業やプロのデザイナーさん以外の職種では、かなり早いタイミングだったと思います。それまで10万円以上していた3Dプリンタが、キットとしてアメリカからの送料込み5万円代でクラウドファンディングサイトに登場し始めた頃にあたり、「Printrbot」という製品を購入しました。
入手の動機としては、子ども時代から工作好きだったこともありますが、テクノロジーライターとして3Dプリンタのような製品の可能性に大いに興味があり、実際にどのようなことができるのか、また、できないのかを検証した上で記事を書きたかったという点が挙げられます。
いずれにしても、ソリッドな樹脂製の作品を、目の前で出力できるというのは魅力的でした。そして、パーソナルコンピュータと同じく、どこかにあるマシンを使いに行くのではなく、3Dプリンタも手元に置いて常時使えるようにしなくては意味がないと感じたことを覚えています。
Printrbotはキットで、しかも組み立てマニュアル代わりのYouTubeビデオが、開発者の本業の合間を縫ってステップごとにアップされるというマイペースぶりだったので、完成までに2週間くらいかかりました。
さらに、スライス用アプリもプリント用アプリも見たことのないオープンソースのものであり、3Dプリンタが動作する様子も初めて目にするという有様だったため、果たして正常に動いているのかどうかすら分からない状態でテストプリントを行うはめになったのです。
それでも、数回のトライで何とか初回の出力にこぎ着けられたのは幸いでした。また、ゼロから仕組みを理解したことで、後々、別の製品でトラブルに遭遇しても、何とか自分で対処できるようになったというメリットもありました。
▲最初に入手したPrintrbot。完成までに2週間ほどかかったものの、出力できたときの喜びもひとしおだった。。(クリックで拡大) |
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Printrbotは、金属パーツとプラットフォーム以外がすべて3Dプリントされており、足りないパーツは木で作った仮部品で補いつつ、完成後にその部分を自分で出力して組み付けるなどスリルに満ちた(?)製品で、使い込むうちに精度も落ちていきました。そこで、次に、やはりキットながらアルミ押出材による高い剛性と可搬性の良さが特徴の「Bukito」という製品を、同じくクラウドファンディングで入手したのでした。
Bukitoは、オープンソースソフトウェアを使う点ではPrintrbotと一緒でしたが、完成度や信頼性ははるかに高く、ときには家から持ち出してデモを行ったりしたのですが、問題なく機能してくれました。
▲グリップ付きで可搬性に優れたBukitoは、出先でデモする際にも活躍した。(クリックで拡大) |
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ちょうど同じ頃に、3Dプリントされたパーツなどでミニ四駆をカスタマイズして競うFabミニ四駆(現Fab Racers)というレースイベントがあることを知り、これが良い目標となって、ボディやシャシー作りに活躍することになります。運良く優勝した際には、賞品として台湾に遠征し、現地のFabミニ四駆と競ったりもしました。
▲Bukitoは、自作のFabミニ四駆のボディやシャシーを製作する上でも重宝した。(クリックで拡大) |
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▲(クリックで拡大)
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その次に購入した「The Micro」は、専用のスプールを利用するとフィラメントを本体内に内蔵して使えるコンパクトなマシンで、300ドルを切りながら工業製品として完成された外観を持ち、3Dプリンタの新時代の到来を予感させるものでした。
Bukito以上に可搬性にも優れていたため、合宿イベントなどにも持って行って、即興でモデリングや出力を行うこともありましたが、プリント速度的には遅く、メインのマシンはBukitoであり続けました。
The Microの上位機種で、ビルドボリュームが大きく、プリント速度も改善されたという触れ込みの「M3D Pro」も購入してみましたが、Proの名を冠するほどの差は体感できず、今は、The Microともども知り合いに譲って、第二の人生を歩ませています。
▲The Microは、コンパクトなサイズと洗練されたデザインが特徴だが、出力速度の面では遅い部類に属する(その後、改良版のThe Micro+も発売された)。(クリックで拡大) |
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▲The Microの上位機種のM3D Proは、ヒートベッドなども備えてより安定した出力が可能となったが、我が家の3Dプリンタが増えすぎたこともあり、The Microと共に知人に譲ることにした。(クリックで拡大)
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・趣味の域では価格も含めて十分に満足
個人的には、3Dプリントの出力物で仕事をしているわけではないので、精度や仕上がりよりも、製品としての面白さやテクノロジーライターとしての興味から新機種を購入するケースが多いといえます。その意味で、次に入手した「ダヴィンチ Jr.2.0 Mix」は、2つの異なるフィラメントを使って、上下方向の色分けやカラーミックスができるという点に惹かれました。
メーカーのXYZ Printingの製品は、初期には不良も多かったようですが、ダヴィンチ Jr.2.0 Mixの頃には安心して使えるようになり、東京の実家に置いて上京時のメインマシンとしています。
上下方向の色分けやカラーミックス(グラデーション)はうまく機能しますが、自由なカラーリングとは異なるため、現実には単色のフィラメントでプリントすることが多くなりました。しかし、出力速度がそこそこ速いので、パーツごとにフィラメントの色を変えて、プラモデル的な作りを実現するのに重宝しています。
▲ダヴィンチ Jr.2.0 Mixを使い、プラモデル的にパーツごとの色分け(黒、赤、灰色)を行って出力したFabミニ四駆の例。(クリックで拡大) |
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さらに、最近ではスマートフォン用のLCDパネルを利用してコストダウンを図った光硬化型のSLA 3Dプリンタが増えてきたため、その中の1つで、出力後の洗浄をアルコールではなく水道水で行えるレジンも利用できる「SparkMaker」も使うようになりました。
ビルドボリューム的には小さいものの、細かなディテールまで再現できるので、校章のようなピンバッジを作る際などに利用することが多い製品です。
▲自分にとって初めてのSLA 3DプリンタとなったSparkMaker。ローコストな割に精度が高い点が魅力だ。現在、さらに解像度の高いLCDパネルを含む、アップグレードキットを手配中。(クリックで拡大) |
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このように、3Dプリンタを利用して得た経験を間接的にライティングの仕事に活かしていても、基本的には趣味の工作物のために利用することが多いため、単純な投資対効果は、さほど高くはないといえるでしょう。しかし、造形物を出力サービスに出す手間や費用、そして何より閃いたアイデアをその場で形にできる利便性を考えると、個人的な導入効果は非常に高く、満足のいくものとなっています。
・待望のフルカラー3Dプリンタと欲をいえばキリがない出力速度
そして、つい最近、手元に届いた製品が、「ダヴィンチ Color mini」です。その名の通り、フルカラーの3Dプリントを実現した製品で、定価は248,000円ですが、先行予約特価では約半額の129,000円で購入することができました。
FDM方式の3Dプリントと2Dのインクジェットプリントを組み合わせたXYZ Printing独自のカラーリング方式を採用し、モデリング時のカラー情報を含むobjデータと専用フィラメントを用いて、一層分を出力するごとにCMYのインクジェットによって着色を行います。インクカートリッジを交換するたびにキャリブレーションを行う必要がある点は少々面倒ですが、それさえ済ませれば、あとは機械任せでカラーの造形物が出来上がります。
ビルドボリュームも、130mm×130mm×130mmと、自分の用途には十分なサイズがあり、色合い的にはやや沈んだ感じにはなりますが、この点も趣味的な造形(業務用途でもサンプル的な出力)であれば実用域にあるという印象です。個人レベルで定価で買うかといえば微妙かもしれませんが、半額であれば精度を含めて満足できるレベルにあるといえるでしょう。
ただし、これはこれまでに購入したすべての3Dプリンタで感じることですが、出力速度の点では一層の高速化が望まれます。特に、ダヴィンチ Color miniの場合、意図せぬ色素の飛散や滲みを防ぐためか、一層ごとにインクジェットのヘッドを待機エリアに戻してクリーニングを行うと同時に、着色部分の乾燥を待つようで、その分、時間がかかってしまうのです。
もちろん、原理的になかなか難しいということは理解できますし、放っておくだけで出来上がるので、本業の合間に出力するなら、この程度でちょうど良いのかもしれません(早く出来上がってしまうと、次々に改良・改造したデータで出力したくなり、仕事が手につかなくなる恐れもあるため)。
とりあえず、フルカラー3Dプリントができる環境が整ったことで、しばらくは新機種を購入せずに済みそうです。その分、3Dプリントにおけるカラーの活用方法をいろいろと探ってみたいと考えています。
▲従来は数十万~100万円以上の価格帯の製品でなければ出来なかったフルカラーの3Dプリントを、個人でも何とか手の届く範囲で実現したダヴィンチ Color mini。(クリックで拡大) |
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▲ダヴィンチ Color miniのサンプルデータ出力例1。噛み合った状態で出力でき、カラー部分を回すことで簡単に移動できるが、外すことはできないネジのような物体。長さ9cm程度で出力時間は約6時間。インクカートリッジの使用量は約7%だった。(クリックで拡大) |
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▲同じくサンプルデータ出力例2。細かい模様まで再現されていることが分かる。縦約9cmで出力時間は約8時間だが、興味深いのは、こちらのほうが着色面積が広いと思われるのにインクカートリッジの使用量が出力例1と同等の約7%だったことだ。おそらく着色面積が小さい場合でも、一層ごとのインクジェットのヘッドのクリーニングによってそれなりのインクが消費されているためと考えられる。(クリックで拡大)
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次回は大林万利子さんです。2019年5月下旬掲載予定。
(2019年5月13日更新)
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