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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
  Imagination for 3D Printer

第1回
ブーム後の萌芽

水野 操

米・Embry-Riddle航空大学修士課程修了。1990年代初頭から、CAD/CAE/PLMの業界に携わり、大手PLMベンダーや外資系コンサルティング会社で製造業の支援に従事。2004年に独立し、独自製品開発の他、3Dデータ、3Dプリンタを活用した事業支援などを行っている。著書に、『AI時代に生き残る仕事の新ルール』(青春新書インテリジェンス)など。
http://www.nikoladesign.co.jp/

 


●確実に進化を続ける3Dプリンタ

3Dプリンタブームは去ったと、昨年あたりけっこう言われた気がする。実際去ったと思うが、一方で定着すべきところには定着してきている。むしろ堅実な成長曲線に戻ったというところだろうか。そして3Dプリンタ自体の進化も着実だ。

2012年の終わり頃から3Dプリンタブームが起きた頃、正直なところ3Dプリンタそのもの、そして3Dプリンタを活用する業務がここまで、ほんの5年くらいのうちに進化するとは思っていなかった。筆者はそのブームの最初で本を何冊も書いたり、雑誌、Webメディアにも記事を書きまくったりしたおかげで、テレビにまで出ることができた。 で、その時の自分の発言を振り返ると、結果的には相当コンサバなことを言っていたようだ。

業界で仕事をしていて、その時点で3Dプリンタ(というかRP)を触っていた人たちならおそらく同意していただけると思うが、その当時きちんと仕事で使える3Dプリンタと言えば、数百万円から数千万円以上で、数十万円以下のプリンタは趣味には使えても仕事には無理というのが相場だった。筆者もそう思っていた。

それが今はどうだろうか。Formlabs社の「Form2」は今や業務でも使用する人が多いプリンタだ。筆者はForm2が出始めの時に購入した。購入した時は正直半信半疑だったのだが、いざ使ってみると使いやすさや出力物のクオリティにびっくりした。試しに依頼されたモデルを相手の許可をもらってForm2で出力したものを納品した。で、問題がなかった。そして、そのまま業務で使い始めた。

もちろん話題はこれだけではない。 例えば「3Dプリンタで作った部品は試作用途だよね」というのがけっこう決まり文句だったのが、航空機の部品が3Dプリンタで製造されるとか、あるいはそれこそ量産を目指すデジタルモールドだとか、3Dプリンタが活躍する領域がこの5年で驚くほど広がっている。機械自体の進化もあるし、材料の種類も広がっている。

3Dプリンタのブームの良し悪しについては、いろいろな意見があるかもしれないが、間違いなく3Dプリンタでできることが一気に広がる起爆剤になったことは間違いがない。

さて、これまでのことはともかくとして、これからはどうなるのだろうか。正直なところ何でもあり、かもしれない。とはいってもこれからもどんどん変化することと、変化しないことがあるだろう。


写真1:2017年のDMS展示より。新規参入したHPの3Dプリンタ(写真上)とその出力物の一例(右写真2)。(クリックで拡大)

写真2:(クリックで拡大)



当たり前の生産手段に

5年前は、3Dプリンタは何かもの珍しい生産手段だった。しかし、この数年のうちには、切削加工や射出成形、プレス成形などと同様に、スタンダードな生産手段になるのではないだろうか。それは3Dプリンタ全体の価格の低下とともに材料の種類の急速な増加も貢献していくだろう。

もちろん課題がないわけではない。安価な光造形機などの登場とともに、材料の単価も安くなってはきているが、それでもまだ高い。本当の意味で「量産」となると今の材料単価ではエラい高いものができてしまう。

間違いなく当たり前の生産手段としてさらに普及が広がるとは思う。機械も安くかつ高機能に、扱える材料もさらに幅広く、とはなっていくだろう。プリントのスピードもさらに速くなっていくことに想像は難くない。大きさも巨大なものから、非常に微細な精度が要求される小さいものまで、サイズのバリエーションも増えるであろう。

あとはコスパ良く材料が提供されれば、小ロットから中規模のロットまで普通に生産手段としてその活躍の場としてもっと当たり前になるのではないだろうかと思う。


誰もが3Dプリンタでモノ作り?

誤解を招かないように言っておくと、3Dプリンタブーム初期によくメディアが言っていた「一家に1台、3Dプリンタ」ではない。そんなことは起きないと当時も言っていたが、今となってはみんなそのことに同意していただけると思う。

主なユーザーは、すでに何らかの形で何かを作っているという人たちだ。例えば、メーカーとしてモノを売っていても、自分たちは設計のみで製造そのものはどこかに頼んでいることは当たり前だ。もっと言えば自分たちは企画だけで、設計も製造もどこかに頼んでいるかもしれない。しかし、3Dプリンタはこの状況も変えたといえるだろう。

3Dプリンタも紛れもない工作機械であり、その使用にもノウハウが必要なことは間違いがない。しかし、使うためのハードルは例えば切削加工機と比べれば明らかに低い。最近では小型の射出成形機まであるが、そのハードルも高い。価格が下がったとしてもやはり誰もが使うというには難しいのだ。そのハードルが3Dプリンタならないとは言えないが、明らかに「製造」に縁がなかった人たちでも使えるのだ。

つまり、今までなら作るモノの企画や設計をしたら「必ず」外に頼まなければいけなかったが、それを内製化できる、ということを意味する。現代版でのクールな家内制手工業がもっと普及するかもしれない。

もちろん、これには1つ条件がつく。それは、自分で3Dデータが作れることだ。幸いにもこのハードルも低くなりつつある。最近のオートデスク社の「Fusion360」は、これまで技術力はあるのに3D CADを使いたくても使えなかった層にも確実にリーチを伸ばしている。

データを作る道具とそれを作る道具の民主化によって、自分で考えたモノをそのまま製品化するというアプローチをすでに実行している人たちも出始めているが、これがもっと広範に広がってくるのではないだろうか。ようするにその辺にあるような当たり前の存在になるということだ。


写真3:同じく2017年のDMSよりストラタシスの展示。こういった街並みもミニチュアでなく現実でも3Dプリンタが随所に活躍していくかもしれない。(クリックで拡大)
 

3Dプリンタによる航空機のパーツも目前?

3Dプリンタブームの初期から、デモンストレーション的に例えば自動車を3Dプリンタで作っている例などがあった。しかし、実際に走っている車にはまだ存在していない。筆者は元々の出身が航空工学なので、航空機に使用されるパーツの一部が3Dプリンタ製という言葉についつい反応するが、いずれにしてもまだ3Dプリンタで製造されたパーツが主要な使い方をされている状態には至っていない。

それが近い将来、もっと主要なパーツを3Dプリンタで製造しているという状態、例えば小型機の大部分が3Dプリンタで製造される状態を夢想する。形を作れることと実際に耐空証明などを取るような状況は違うことは分かっているが、そんな未来も案外そこまで来ているのではないだろうか。

筆者の会社では、太平洋セメントや法政大学とともにセメント用の建築に使うことのできる3Dプリンタの開発に関わっている。3Dプリンタはこれまでの産業分野の垣根を溶かしつつあるのは間違いない。発想しだいでなんでも作れる世の中がすぐそこにあるのではないだろうか。


写真4:右のプリンタで出力したセメントによるモデル。(クリックで拡大)

写真5:セメント用の3Dプリンタ実験機。(クリックで拡大)




次回の執筆は水野操さんの後半です。
(2018年1月29日更新)


 

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