●活用分野の多様化と使い勝手のハードルは
引き続き下がり続ける
2月14日(水)から2月16日(金)、「3D Printing 2018」という展示会が、東京ビッグサイトで開催されていた。2017年のこの展示会では、弊社も太平洋セメント社と法政大学と共同で前回の本コラムの最後にちらっとご紹介したセメント用3Dプリンタの出力物やその成果を展示した。諸事情で実機は展示できなかったが。そんなわけで昨年は忙しかったのだが、今年は単なる見物人として気楽に見て回った。
さて、昨年と比較して何か大きく変わったかというと、驚くほど目を引くものはなかったような気がする。出展しているプレーヤーたちも大体同じだ。まあ普通に考えれば、特別に目立つ話題の新製品とか技術が出なければ、1年くらいでそんなに変わったものが出るわけではない。ただ、それが4年とか5年経つと、変化に気が付くようなものだ。
ただ、確実に3Dプリンタの適用領域は増え続け、またかつては使用のハードルが高かった光造形ですら、その気があるなら誰でも使えるレベルのものになっている。金属で出力できる3Dプリンタも、今や展示会を歩いていると当たり前のように目につき始めている。つまり、今後も用途が広がり、使うためのハードルが低くなるということだ。ただし、これについてはすでに第1回のコラムでも書いた。単に第1回で述べたことを展示会で確認したという思いだ。ということで、他の視点から話をしてみたい。

写真1:3D Printing 2018の会場より。最新のデスクトップ系の3Dプリンタを紹介。1600万色で造形できる「ダヴィンチColor」(左)と大きなモデルが出力できる「ダヴィンチSuper」。(クリックで拡大) |
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写真2:こちらも大きなモデルの造形が可能な「L-DEVO」。(クリックで拡大) |
・3Dプリンタをもっと活かすためのソフトの進化
最近CADベンダー各社から登場しているソフトの機能の1つにトポロジー最適化の機能がある。そもそもは構造解析機能の1つの分野と考えてもよい。つまり、ある使用条件下においてそのパーツの形が最適化されるようにコンピュータに計算させるという機能だ。この機能自体は以前から存在していたが、ことにこの1年から2年くらいミッドレンジのCADのオプション機能的に広がってきている。
さて、これと3Dプリンタとどのような関係があるのだろうか。3Dプリンタは製造の現場で一般化した加工法としては一番新しいものだと言っても間違いではないだろう。他の加工法は、切削加工とか射出成型、あるいはプレス成型などだ。これらの従来からよく使われてきた加工方法に比べて3Dプリンタの一番の特徴はというと、造形できる形状の制限が少ないということだ。
切削加工であれば、例えば刃物が入らない場所を削ることはできない。射出成型であれば型抜きだとか肉厚、キャビティの中の樹脂の流れなど製造法がやはり作ることのできる形状に影響を与える。つまり、製造方法のために作る形状が制限されるのだ。仮に作ることができたとしても複数のパーツに分割する必要があるなどで、コストが掛かることも考えられる。
3Dプリンタとて、製造性に関する制限がないわけではない。しかし、基本的にはサポートが問題なく除去できるような形状であれば、作ることのできる形状に対する制限は圧倒的に少ない。
つまり、今まで製造上の制限ゆえに作ることができなかった形を作ることができるのだ。実際、すでに「3Dプリンタならではの形状を作りたい」なども声も珍しくない。
では、その3Dプリンタならではの形状ってなんだ・・・ということになる。そこで、例えばAIなどを活用して形状を最適化するということが考えられる。守らなければならないパラメータを設定したうえで、コンピュータに形状を計算させる。もちろん、最終的に判断するのは人間だ。しかし、人間が過去の経験とか思い込みに縛られがちなのに対して、コンピュータはもっと自由に発想するかもしれない。人間が思いつかないようなソリューションを提案するかもしれない。私たち人間はそれを検証し、使うかどうかを判断すればよいのだ。
このような動きはすでに出てきている。例えば、オートデスク社では、Future of Making Thingsというフレーズで、これからのモノづくりのあり方を提唱している。その中の肝になる技術の1つがジェネレイティブデザインというものだ。この技術を使ってより最適な形状を求めていく。
こういった技術は徐々に登場してきている。例えばオートデスクはその事例の1つとしてアンダーアーマー社の靴などを紹介しているし、自転車のハンドルなどの試みの例なども紹介されている。
これらは、もっと人間とコンピュータが密に連携しながらこれまでになかった形を生み出し、それを進化する3Dプリンタが実現する。そんな時代がやってきつつあると思うし、そうであると面白いなと筆者は期待したい。
次回の執筆はデザイン事務所HOPBOX代表の福井信明さんです。
(2018年2月26日更新)
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