●3Dプリンタは欲望のトリガー
3Dプリンタを初めて使ったとき、せっかく3Dプリンタを使うんだから、人に勧めるにしても、自分で使うにしても、「使えるモノ」「役に立つモノ」「アイデア性を感じるモノ」を作らないといけない…なんてことが頭のどこかにあった。
誰かに聞かれるであろう「3Dプリンタを何に使うの?」という質問に、綺麗な答えをもっているべきだという義務感を勝手に感じていたのだと思う。いまとなっては「自分で大いに楽しめれば良い」と割り切れている。
さて、筆者の3Dプリントの用途は「自分で創作した3D CGイラストを出力する」というものだ。
3Dプリンタによって出力された、自分の3D CG作品を初めて手にしたとき、いままで使っていなかった脳の一部が動いた気がした。めったに新たな動きを見せない筆者の脳だが、このときばかりは波打つように動いたのだ。
「こう出るなら、こう作ろう。こんな形に変化させよう」という造形に対する建設的な欲求が次から次へと生まれてきた。好奇心を伴った創作欲のトリガーが引かれて、まさに「いままで脳の動かさなかった部分が動いた」瞬間だった。
モニター上でクルクル回しながらモデリングしてたときも、ある程度は立体を把握して作業しているつもりだったが、実際に出力されたモノを見たときには、「立体」に対する別次元の感動と意欲が生まれたのだ。
写真1:光造形機「Hunter」で出力。非常に高精細。(クリックで拡大) |
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写真2:これも「Hunter」。モデリングはZBrushCore。(クリックで拡大) |
写真3:「Hunter」で出力。自作のジオラマなど作れる日が来るとは思わなかった。単純に「出力」が楽しいのだ。「Hunter」は出力がスピーディーなのでせっかちな自分の性格とマッチした。(クリックで拡大) |
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写真4:「Hunter」で出力して「シタデル」という塗料で着色した。着色は面倒だと思っていたけれど、自分でモデリングしたものだとなんとも楽しい。(クリックで拡大) |
3Dプリンタによって、CGで完結していた自分にはなかった課題が出現した。それはとても喜ばしいものだ。
その課題は主に6つ、
1.重力:自立させるにはどうすればいいか
2.強度:破損しない薄さ、細さへの配慮
3.視点:鑑賞者が動くごとに変わるシルエット
4.素材:PLAやABSやレジンなどの元の素材は何が良いか
5.仕上げ:磨いたり彩色したりなど
6.出力技術:破綻の少ない元データの作り方
などなど。「3.視点」に関しては3D CGも同様だが、実際の立体物においてはCGとはまた別の課題があると感じた。これだけの新たな課題が出現したら、脳は動かさずにはいらない。
・もっと脳を動かしたい。刺激したい
表現欲は加速する。もっといろいろな素材、他の出力方法とを組み合わせて作品作りをしてみたくなってきた。あえて乱暴に言うなら、レーザーカッターも「3Dプリンタの他の出力方法」の1つだと思っている。レーザーカッターは平面のデータから木や革やアクリル板を切り出すことができると聞いたとき「極論的にはそれも3Dプリンタかも」と思ったのだ。これにも手を出せばさらに新しい課題が自分に降り立つことだろう。考えると楽しくてしかたない。
自分の作品のシリーズとして「Fabしばり」の作品を作ってみたいと思っている。出力される状態、形態、問題と、自分の中にある表現とをフィードバックさせ合えば、いままで思い浮かばなかったイメージに出合うかもしれない。そんな期待も持ちつつ、単純に楽しそうだという思いも大きい。
筆者はとても不器用だった。しかしFab(デジタルデータを立体造形物にするシステム、サービス)の登場で、自分でも工房チックな作業が垣間見られそうでとても嬉しいのだ。
・妄想:AIベースの3Dプリンタ「ミニFab工房」
3Dプリンタやレーザーカッターでそれぞれ出力したものを自分で組み立てるのもとても楽しいが、本コラムのテーマである「妄想」を膨らますのであれば・・・いっそ、組み立て機能までできる機種が登場してほしい。組み立てもできて、なおかつクリエイターとの「対話性」もあるような機種、システムを妄想してみた。これを、パソコンでのモデリングから完成まで、ハード&ソフトと対話しながら作る「ミニFab工房」とでも言っておく。
画像5:手描きのラフスケッチ。(クリックで拡大) |
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以下妄想レベルのワークフロー。
まず手描きで作りたいモノの素体をスケッチする。2面図、3面図プラス、斜め上からの絵を描く。
画像6:AIとやり取りしながらモデリングを進める。(クリックで拡大) |
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AIが素体を解釈してモデリングする。このモデリングでは、素材の強度や重力などに逆らってないか、出力する造形として破綻がないかなどを考慮しながらモデリングする。それにクリエイターがさらにアイデアを盛り込んだり、修正を加えてAIに戻す。これを繰り返しモデリングデータが完成する。
画像7:モデリング画像に要素を追加する。(クリックで拡大) |
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完成したモデリング画像はいくつかの展開図になる。それに別の素材で加えたいものを描き入れる。赤でレザーの服を描き、青で金属のキーホルダーパーツを描き込み、緑で木の土台を描き込む。これをAIがそれぞれの厚みや、素材をいくつか提案してくれる。
画像8:造形イメージ。(クリックで拡大) |
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素材や厚みなどが決定したら、その絵と素材&厚みをAIに戻し、造形スタート。この図のように流れ作業で完成までいく。ちなみにベルトコンベアになっている意味はまったくないが、絵面としてはロマンがあるでしょう?
(1)まず素体が3Dプリントされる。
(2)レーザーカットされた革が着せられる。しっかり接着させるか、仮接着程度が選ぶことができる。この時点でキーホルダー位置を再検討する。
(3)金属3Dプリントでキーホルダー部分が組み立てられる。
(4)レーザーカットされた板が組み込まれて完成。
何種類かの素材を使える3Dプリンタや、レーザーカッター内蔵モデルもすでに存在するので、このミニ工房モデルはそれほど「夢すぎる」ものではないと思う。
こういった「ミニFab工房」のようなシステムが登場したら、日々あれこれ試行錯誤しながらモノ作りにどっぷりとはまりそうだ。いくつかの素材を組み合わせた食器や、文房具などの小物類もどんどん作りたい。ガラス素材にも対応させればスノードームも作れそうだ。
・まずはまるっと学べる&体験できるワークショップを
さて、上記の妄想システムはともかく、現状の一般的な周知としては「3Dプリンタの知識」「レーザーカッターの知識」「3D CGソフト」がそれぞれ独立しがちで、まるっと楽しめる情報やイベントなどの機会が少ないと思う。
これらをまるごと自然に組み入れたワークショップがあれば、かなり好奇心を刺激されて、いままでFabに興味を持てなかった層の掘り起こしにもなるかもしれない。
「脳が動き、欲がでてくる」ということを多くの人に体験してもらいたいと思っている。
筆者は3D CG制作ソフト「ZBrush Core」のPixologic公認インストラクターを務めさせていただいていて、ちょくちょく講師としてセミナーやワークショップを主催している。
ZBrushCoreというソフトは、それほど3D CGの知識がなくても、デジタル造形を開始しやすい。入門においては、粘土のような作業でデジタル造形できてしまうソフトなのだ(先に進むと3D CGらしい操作習得が必要となってくる)。
・3Dプリントとハンドメイドの融合イベント
先日、東急ハンズ渋谷店で、「いくつかの素材と3Dプリント物を組み合わせて完成させるワークショップ」を開催した。
写真9:東急ハンズ渋谷店7階のハンズカフェで開催した。合計16名の枠は募集当日に完売。3D出力とZBrush Coreの注目度を物語っている。(クリックで拡大) |
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写真10:せっかくハンズさんでやるワークショップなのでモデリングして終わり、または3D出力して終わりとはしたくなかった。「素材との組み合わせ」をテーマにしたワークショップにした。(クリックで拡大) |
このワークショップの内容は「自分でモデリングした3Dプリンタの出力物を片手に東急ハンズ内を探検して、組み合わせる素材を購入し、組み立てて1つの作品として完成させる」というもの。
皆さん自分でモデリングしたデータの出力物を見て感激されており、中には「ここはこうした方がよかったな」と前向きに思考されてる方もいた。いずれにしてもモニター上にある姿と実際出力されたモノとでは印象が変わったようだった。その後15名それぞれの個性を発揮して、出力品と合わせる素材を選び、組み立てを楽しまれていた。
参加された皆さんはとても勘がよく、スムーズに習得しつつ創意工夫して素敵な作品を作られていてとても楽しかった。
シンプルなモノとは言え「モデリング」「出力」「仕上げ」までの流れを体験できるワークショップはとても興味深いものになったと思う。
今後もこういった「データ作成」「出力」「仕上げ・組み合わせ」が一体となったワークショップを企画していきたいと思う。
若干大げさにまとめさせていただくと、データ性、出力性、素材性、組み合わせ性など…複数の要素が交差する上では、脳が動く余地は無数にあり、可能性に満ちている。その中の一部としての「3Dプリンタ」が、他の要素を吸収しつつ「次の形」になっていくのを楽しみにしている。
・余談:「自作のボードゲームを作るのも楽しい」
筆者は将棋が好きだ。日本将棋連盟認定のアマチュア3級でもある。昔からチェスみたいにフィギュア性(キャラ性)がある駒があればいいのと思っていた。
そういった駒は、3Dプリンタと3D CGソフトがあればできる! 将棋盤もレーザーカッターで作れば素材感も楽しめる! と思い、数日前からモデリングしている。それが写真11だ。
写真11:ZBrushでモデリング。これもHunterで出力するつもり。(クリックで拡大) |
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将棋は「成る」という変身システムがあり、コマをひっくり返すことによって強くなれるというルールがある。その辺もちゃんと落とし込んだ駒にもしてみたので、フィギュア的な将棋駒や、チェスの駒より難易度が高い。
前にくるんと回転させることで別の顔が上がるようにしてみた。作ってみるとなかなか楽しそう。
写真12:駒の完成イメージ。(クリックで拡大) |
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将棋盤はマス目ごとにブロック上にして組み替えていろいろな地形(合戦場)を作れるようにする予定だ。ブロック状の駒をこれだけ3Dプリンタで出力するとなるとどえらい時間もかかってしまうので、この部分はレーザーカッターが良いだろう。それぞれの出力形式の個性を生かしたFab作品となると思っている。
このように「キャラクター作品づくりの楽しみ」「モノ作りの楽しみ」が合わさって、脳が動きまくる今日この頃なのである。
次回の執筆は吉井 宏さんです。
(2018年3月15日更新) |