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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第5
3Dプリンタの次は、3Dスキャナーの進化に期待

織田隆治/FULL DIMENSIONS STUDIO

イラストレーション、造形、模型、モノ作りを、これまでの経験により幅広く製作。展示会やミュージアム、ショールームに使用する模型や映像などの製作。3Dプリンタを使った新規事業のコンサルタントも行う。3Dプリンタの基礎や応用など、筑波大学、大阪芸術大学プロダクトデザイン科にて非常勤講師としても従事し、若いクリエイター育成にも力を入れている。日刊デジタルクリエイターズ「3Dプリンター奮闘記」連載中。

http://www.f-d-studio.jp

 


●3Dプリンタとの出会い

僕が3Dプリンタというモノを初めて知ったのは、かれこれ6年前。その頃の僕の仕事は、3D CG制作と内装インテリアのデザインや広告宣伝系デザインでした。

少し前に、リーマンショックがあり、少し仕事が少なくなってまして、そこに東日本大震災がありました。その時、僕のメインの仕事である広告宣伝関連の業務は自粛することとなり、数ヶ月仕事がストップしました。

その時には、大阪市内に個人事務所を出しており、家賃がきつくなり、小さなワンルームに借り換えて細々と仕事をしていたんですが、ある時、友人が「3Dプリンタを扱っている会社さんに行くが、一緒に打ち合わせに来ないか?」と誘ってくれました。

まったく関係ない打ち合わせの現場に「借りて来た猫」状態で座り、打ち合わせが終った後に紹介していただき、それが「3Dプリンタ」との出会いになりました。

以前、博物館や科学館の模型の制作会社にいた際に、手作りで模型や造形、機械の設計等をしていましたし、その後に勤めた会社でCGを独学で取り入れ、独立してからは3DCGとデザイン。そういうことから、この「3Dプリンタ」は僕が使うべきモノだ! と直感したんですよね。

そこで拝見したのは、FDM方式の3D Systems「BFB 3DTOUCH」という機種でした。


最初に導入した3D Systemsの「BFB 3DTOUCH」。コンシューマ向け3Dプリンタでは、初期に発売された機種。(クリックで拡大)
 

当時で60万円弱。当然、仕事もゲッソリ減ってしまって、余分なお金なんてありません。導入したくても先立つものがない状態…。

そこで、友人、知人、当時のクライアントの取締役の方などに相談し、皆さんから出資してもらうことで、その3Dプリンタを購入することができました。みなさんには、今でも本当に感謝しています。

この機種は本当に3Dプリンタの勉強になりました。それまで、3D CGやデザインのみだったのが、模型の仕事も受けるようになり、少ししてから、3Dプリンタがいろいろなメディアに取り上げられるようになりました。

4年くらい前までは、毎日どこかしらのTVニュース番組で取り上げられていて、うちにも取材が来て、テレビのニュース番組にも一度出たこともありました。

めちゃくちゃ狭い事務所に、レポーターさん、カメラマンさん、音声さん、ディレクターさんが入って、撮影が大変だったのが良い思い出ですね。

●3Dプリンタの進化

あれから6年。僕の仕事はどんどん模型や造形製作の方に移行していき、今ではずっとお付き合いのあるクライアントさんも、僕のことを「模型屋」さんだと思っています。仕事もどんどん増えてきて、やっと普通に「飯が食える」くらいになりました。今では立体制作が8割を締めるくらいです。

その間にも、どんどんと3Dプリンタは進化をしてきました。そして、うちの3Dプリンタも、FDM機をどんどん増設していくことになります。

今では、本当にいろいろな種類の3Dプリンタが販売されるようになり、狭い工房事務所に7台の3Dプリンタを置いて制作をしています。FDM機5台、光造形機2台。後、レーザー彫刻機も導入しました。




これまで導入してきた3Dプリンタ(FDM機)。左上はシステムクリエイト製「Bellulo」、右上はエス・ラボ製「MothMach222」×2台、左下が武藤工業製「MF2200D」、右下は久宝金属製作所製「Qholia(クホリア)」。(クリックで拡大)

同じく導入3Dプリンタ(光造形機)。左がFLASHFORGE製「Hunter」、右3D Systems製「Projet 1200」。(クリックで拡大)


レーザー彫刻機も使用している。システムクリエイト製「Cut-Key SP500」。(クリックで拡大)
 

1年くらい前までは、コンシューマ向けFDM機がどんどん発売され、ここ1年で光造形の3Dプリンタもどんどん良いものが安く出るようになりました。

このサイクルは、その造形方法や仕組みの特許がからんでいると思われます。ここ1~2年の光造形3Dプリンタの増殖は、これらの特許が切れたことによって、さまざまな会社が開発、生産、販売が可能になったからでしょうか。

そういった縛りがなくなったことで、爆発的にいろいろな3Dプリンタが登場してきています。日本メーカーの製品がまだまだ少ないのは少し寂しい限りではありますが。

使いたいものの選択肢が増えるのは、ユーザーにとっては喜ばしいことですね。逆に、機種、種類が増えることで、やりたいことに合った機種を選定することも重要になってきています。どんなに3Dプリンタが出て来ても、使える人が増えないことには普及も難しいですね。

現在、僕は3Dプリントデータ制作の方法、3Dプリンタの使い方や、出力物の仕上げなどを、いろいろな学校で学生に教えることもしています。今後は若い人たちに、どんどん使えるようになってほしいですね。これからのモノ作りは、3Dプリンタの需要がより一層増えていくことが容易に想像できます。


●3Dプリンタの今後の発展分野と妄想

現在、3Dプリンタの活躍が考えられることとして、以下の分野が上げられます。

(1)プロダクト
これは、一番先に思いつく分野ですね。プロトタイプの試作が、これまでより、よりスピーディーに行え、なおかつコストダウンを計ることが可能です。

最近では、金属を3Dプリントする機種にて、実際に使用される部品を制作可能になってきています。また、古い部品のストックの代わりに、3Dデータを保存し、必要な物だけを出力するようになるのもかなり近い将来だと思います。

将来は、コンビニや店舗などに設置され、例えば家電製品の修理や破損した部品をそこで出力し、ユーザーに渡すというサービスなんかも進むのではないかと思います。

企業も運送費や倉庫代などのコストを抑えることができるようになりますし、ユーザーもこれまでより便利で安価に使えるようになり、そういったサービスなんかも普及するのではないかな~と妄想しています。

(2)医療
僕もたまにお手伝いするのがこの分野です。 現在では、CTスキャンなど、3D解析による診断がどんどん増えてきています。 そのデータを元にし、3Dプリンタでいろいろなものが作られています。

僕が協力させていただいているのが、心臓血管外科による施術前のモデル制作です。実際に施術をシミュレーションすることで、施術にかかる時間やストレスを軽減でき、患者への負担も少なくなります。

この他、人工関節などの成型にも非常に期待されています。最近では、臓器の造形出力なども研究されていて、この医療分野での3Dプリンタの発展は、大いに期待できるものだと思います。

DNA情報から、その人に合った臓器をプリントすることも可能になり、臓器提供などで苦しんでいる患者さんを救う手だてになれば良いなぁと思います。発展するに従い、倫理的な問題も出て来るのかもしれませんが…。

(3)建築
建築関係の設計も、最近では3D CADが多く使われるようになり、そのデータを使った建築模型なども3Dプリンタで作られるようになってきました。

こちらも、プロダクトと同じく、これまでよりよりスピーディーに行え、なおかつ、コストダウンを計ることが可能です。最近では「家を3Dプリンタで作っちゃおう」ってことも行われていますね。

(4)食品
最近、3Dプリント食材ってのもたまにニュースで見かけるようになりました。 ちょっと味気ないような気もしますが、こういった分野でもいろいろと出て来るんでしょうね。

面白そうなのがチョコレートの3Dプリント。バレンタインなんかには面白いと思うんですよね。例えば、自分の姿を3Dスキャンして、それをチョコで立体にするとか、しまいにはCTスキャンした自分の心臓なんかをチョコで3Dプリントして、「私(僕)のハートを受け取って!」とか(笑)。ちょっと重すぎて受け取る側も覚悟が必要になるかもしれませんが…。

その他、砂糖を原料とした3Dプリント。これは砂糖菓子を作る3Dプリンタで実際にフルカラーで作れる機種も発表されていますが、まだ実際に発売はされていないと思います。 これができると、結婚式などにも甘い3人を3Dスキャン、そのまま甘いお菓子で! ってことも可能なんでしょうね。 発売が期待されますが、まだ…ってことは、食品安全基準かなにかでひっかかってるのかな~と妄想しています。

その他、いろいろなジャンルでも今後、3Dプリンタが活躍すると考えられ、今後の発展が楽しみです!

●まずは技術者を育てる!

前述のように、今後、3Dプリンタはさまざまな分野で、もっと便利に、もっと簡単になってくるとは思います。しかし、現状を見ていると、使える人がまだまだ少なすぎます。これは、機械に精通した人が少ないということも要因の1つでしょうね。

一般的に使われるのは、もう少し先になるかとは思いますが、産業という分野では、もっと使える人を増やしていかなければいけないと感じています。 やっぱり、使うのは人ですからね。人材育成こそが目の前の課題でしょう。


●超妄想

最近ではたまに、家電量販店などで3Dプリンタを置いている店を見かけます。 国民行事である年賀状も、プリントゴットやインクジェットプリンタが普及したような行程を経て、3Dプリンタも普及していくのではないかとも思います。

ですが、3Dプリントするには3Dデータが必須です。今ではまだその3Dデータを作る、という行程が敷居が高いんです。そこで、簡単にできる3Dスキャナの開発なども3Dプリンタの普及には必須ですね。現段階では、まだこの3Dスキャンの技術が未成熟な感じです。 今後の3Dスキャンの技術発展が期待されます。

3Dスキャナーと言えば、近頃人の全身をスキャンして、そのまま3Dプリンタで出力するようなことも始まっています。これを読んでくださっている方も、見たことがあるかもしれません。まだまだ浸透していないように思いますが、こちらも私の所で導入しました。


武藤工業製の全身撮影用高速3Dスキャナ「3D PhotoScan System」。(クリックで拡大)
 


3Dプリンタを使うようになると、本当にこんな便利なものはありません。

海を隔てた、もっとおおげさに言うと地球外からも3Dデータさえ送信、受信できればモノを転送するようなことができるわけです。 これはもうスタートレックの転送装置みたいなもんですよ。正確には複製ですけどね。生き物はできないですけど、もしかしたら将来そういったこともできるようになるかも! ちょっと怖いけど…。

と、いろいろ妄想は膨らみます。SF小説でも書けそうな気になりませんか、皆さん?



次回の執筆は古川多夢さんです。
(2018年5月17
日更新)

 

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