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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第6
3Dプリンタによる
自立した生態系に夢を感じる

古川多夢
株式会社久宝金属製作所


株式会社久宝金属製作所 代表取締役社長。今までにないものをつくる、他にないものをつくる「ないものづくり」を掲げて試作協力や自社ブランド製品を開発を行っている。最近は自社製品として熱溶融樹脂積層型3Dプリンタ「Qholia(クホリア)」を発売し、幅広い支持を得る。JIDデザインアワードやグッドデザイン賞、ForbesSmallGiantsAwardなど実績多数。
http://q-ho.com/products/Qholia/Qholia.php


 


●ないものづくりエージェント

多夢と申します。「ないものづくりエージェント」を自称し、大阪で株式会社久宝金属製作所という町工場を営んでおります。小さな会社ですが下請けをせず、自社ブランド製品の製造、一点ものの製作、小ロットプロダクトの立ち上げ協力などに力を入れております。

「なんでも作れる夢の機械」としてマスメディアに煽られて、3Dプリンタは大きな期待とともに導入され、瞬く間に広がりました。しかし、素材も設計もソフトもまだまだ発展途上だったため、多くの人が描いた夢が失望に変わりました。

その「失望に変わった夢をかたちにする」ことに「ないものづくりエージェント」としての意義を感じたのが3Dプリンタ開発のきっかけでした。

順を追って説明いたします。まずは私の履歴と3Dプリンタ開発から現在までのいきさつから。


●3Dプリンタとの出会い

私は1999年の入社をきっかけにモノ作りに関わるようになりました。

素人からのスタートでしたが、企画、設計、開発、製造、営業(ようするに全部)を担当した自社製品がグッドデザインやJIDデザインアワード(日本インテリアデザイン協会賞)などの賞をいただいたり、ロングセラーとなったりと徐々に成果をあげながらモノ作りの方法論を身につけていきました。

2012年に製品の試作のために3Dプリンタを導入しましたが、すぐに既製品の3Dプリンタに限界を感じ徹底改造。 改造した結果の出力品質を「これなら買いたい」と 知り合いに褒められたことをきっかけに、2015年初秋より熱溶融樹脂積層型3Dプリンタの開発に着手しました。

試作機はすぐに完成しましたが、その後、さまざまな素材やモデルで良い造形をするための検証、公開するソフトの設定に半年以上を費やしました。

その検証には次回執筆をお願いしている造形師の浅井真紀さんにも多大なご協力をいただいております。

多くの方々のご協力を得て、翌2016年より熱溶融樹脂積層型3Dプリンタ「Qholia(クホリア)」を発売しました。以来順調に販売とサポートを続けながら現在に至っております。


同社の3DプリンタQholia(クホリア)による出力例「ワシリー聖堂とアンコールワット」(ばーちゃわーるど氏作)(クリックで拡大)
 


●個人向け3Dプリンタの黎明と流行、そして幻滅

3DプリンタはReprapの登場、モノ作り補助金、メイカームーブメントなどの影響で2010年頃から話題に上がるようになりました。当時の熱と課題を振り返ってみます。

(1)
誇大な情報が先に広まった
「何でもつくれる夢の機械」とマスメディアが煽ったために過大な評価と過度な期待が先に広まりました。このことは導入の起爆剤にはなりましたが、評価のハードルが上がりすぎる弊害を生みました。

(2) 設計や素材やソフトが発展途上だった
マスメディアが「メーカームーブメント! モノ作り新時代!」と煽るなか、3Dプリンタはたくさんの機種が発売されました。しかしそのほとんどがオープンソースそのままのコピー品、問題点も改善されていませんでした。また、ソフトや素材もまだまだ課題だらけでした。

(3)3Dプリンタへ入力するデータの問題
紙への印刷でも校正やチェックが必要です。ましてや多様な造形をする3Dプリンタは、より厳しいチェック工程が必要なはずなのですが、その手法が確立していません。 難しい形のモデルを無茶な設定で造形させるデータを入力しても、3Dプリンタは頑張って造形しようとしてしまいます。

それはほとんどの場合失敗に終わります(最近はソフトも賢くなり、エラーで教えてくれるものもありますが、やはり完璧とはいきません)。 また、強度、正確、精緻、速度、耐久性、コストのどれを重視するかで設定の勘所は変わります。

これは3Dプリンタやソフトが進化した今も続いている問題で、汎用の機械と設定では解決しません。現状もトレードオフの関係の中で、人が関与してバランスをとる必要がある場合がほとんどです。見た目や触り心地など、人の心で評価が変わる条件まで考えると現時点での自動化は難しいと思います。今後はAIや機械学習を用いた、対話型で設定できるソフトが出てくるかもしれません。

(4)売らんかなと売りっぱなし
流行と行政の施策に乗って販売を始める業者が多数表れました。マスメディアの作り出したイメージそのままの煽り気味な宣伝をしていました。3Dプリンタへの評価が定まらぬ状況のなかでは無理からぬ部分もありますし、だからこそ普及したという功の面もあります。

しかし、使い手とその要望ごとに多くの課題があり、手間がかかる機械であることを周知せず販売されてしまったことと、その課題を共有して解決するサポートの姿勢が不十分だったため、高まりすぎた期待に比例した大きな失望が広がってしまいました。

(5)使い手にかかる負担
3Dプリンタを導入しても、サンプルデータを造形したあと続かず放置という話をよく聞きました。実は3Dプリントに適したデータを1から自分で作成するにはそれなりに手間と準備が必要なのでした。その上に機体の扱いや出力後の仕上げを覚える必要があります。これらは切実な理由や、強い情熱がないと越えることが難しいハードルでした。

3Dプリンタはメディアに喧伝された「何でもできる夢の機械」ではなく、甘めに評価しても「知識と経験と手間、そしてなにより情熱と妥協を使い手に求める」機械だったのでした。

それでも、かっては高額だった設備に近いことが個人の手元で可能になるインパクトは大きかったです。
私自身も導入し、苦難と幻滅というみそぎを乗り越えて、アイデアが形になる喜びを体験した人間の一人です。しかし、 造形した本人は成功しただけでも大喜びなのですが、失敗と地道な努力の果てにできた造形物は地味な単色、シマシマだらけ、受ける絵にはなりません。

それに画期的で価値のある成果物は公表できない場合が多いと思います。そんなこんなで次第にマスメディアが3Dプリンタを取り扱う機会が減り、見当違いの注目や過剰な期待が注がれることはなくなりました。


●今後も緩やかに普及

現在はトラブルやその対策、活用事例などのユーザー発の情報が充実しています。また、機体の品質が上がり、有用なソフトも揃い、データの書き出しや変換の手法が確立してきました。 等身大に評価できる情報と、導入しやすい環境が並行して充実してきています。

メーカーとしてサポートをしながらいまだに導入ハードルの存在を実感していますが、沼の中で1人のたうつような状況から、泳ぎ方を覚える程度には道が整ってきたと思います。

では、これから普及が一気に進むかというと、ぼちぼちというペースは変わらないと思います。それは3Dプリンタがテレビやスマホのような受信のための機械ではなく、表現したい人やモノ作りをしたい人のための道具だからです。

商品もサービスもエンタテインメントも、安価で手軽に受け取ることが出来る時代です。でも、作る側はなかなか大変で、 表現もモノ作りもリスクと付き合いながら情熱を保ち続けることを求められます。それを乗り越えてでもやらずにおれない人が分母になりますので、しばらくは機能向上と環境整備に伴って緩やかに普及するのだと思います。


●他に代わるものがない3Dプリンタの価値

まだハードルのある3Dプリンタではありますが、私のようなモノ作りに関わる人には、やはり画期的で代えがたい価値のある道具です。その理由を以下に述べます。

・初期投資、ランニングコストが桁違いに安い
切削など今までの3次元加工に比べて安いというだけでなく、材料の入手、設置場所、騒音などが個人で負担できる程度であることが画期的です。

・多少の手間と妥協を許せば試作に必要なことはだいたいできる
3Dプリンタは何かを重視するとトレードオフで犠牲にせざるを得ない要素があることが多いです。しかしながら、製品と同じものを作ることは難しくても、材料、見た目、触り心地、耐久性など検証する要素を単一に絞ればたいていの用途に使えます。

・造形が速い
数時間から数日は長い時間かもしれませんが、外注に比べると別次元の速さです。終業時にセット、翌朝完成というサイクルで造形すれば待ちも最小限で、毎日検証とブラッシュアップができます。

・情報が外に漏れない
3次元データは設計そのもの、ノウハウや秘密の詰まった大切な情報です。また知財や版権の絡むキャラクターなど、守秘の観点から外部に依頼しづらい場合もあります。データを外に出さずに仕事を進められると、多くの手間やリスクから解放されます。

・現物のインパクトと説得力
現物サンプルは自分が確認と検討をするときも役に立ちますが、プレゼンテーションでとても大きな力を発揮します。見た目、触りごこち、使い勝手など、言語で伝えることが難しいことを表現できて、ものとしても共有できるのです。

コンセプトモデルをパネル展示か縮小模型を展示するか決めるプレゼン用に、精巧なサンプル出力のお手伝いしたことがあります。そのサンプルを手に取ってもらってのプレゼンは大盛り上がりで、なんと実物大を製作展示する大きなプロジェクトに発展したのです。 もちろんアイデアとデータのレベルが高かったからなのですが、百聞は一見にしかずならぬ、百見は現物にしかずです。


Qholia(クホリア)による出力例「河童の指輪(1/2サイズ)」(小林康之氏作)。。(クリックで拡大)

同じく「ナイト君」(大上竹彦氏作)。(クリックで拡大)


●これからのモノ作りと3Dプリンタ

クリエイターにとっても、私のようにモノ作りに携わる人間にとっても、作れば売れるという時代ではありません。すでに市場にも暮らしにも必要なものは行きわたっています。

そして、研究開発が必要な先端技術、多くの人が使う製品、日々求められる消費材は大企業の戦場です。
膨大なデータと分析、世界規模の販売網、資金力を活かしたプロモーション…大多数の人が必要とするものを効率よく買える仕組みができ上がっています。

大きな経済活動が生み出す製品やサービスは 便利と安価を武器にして中小を駆逐吸収しながらより巨大化しました。多くの人が求めるものの質は高まりましたが、寡占による画一化が進み、個人や小さな想いは効率の外にはじかれるようになりました。

これだけだと零細のモノ作りは絶滅寸前に追い込まれ、小さな需要は無視されと悲劇的でさびしい話です。

実際にそのような厳しさはありますが、その反作用としてローカル、小規模の珍しさや希少性、個人が発信する尖った個性が注目を集め渇望されるようになりました。

そして今はネットやSNSで人がつながり情報を共有する時代。作る人の情熱と求める人の切実な想いがめぐり合える場があるのです。グローバルとローカル、マスとパーソナルが相克し入りまじるなかに、私はモノ作りの可能性を感じます。資金やプロモーション力が乏しい小規模のモノ作りにとって死活にかかわる最大のリスクは、作ったものが評価されないことです。前項で述べた3Dプリンタの価値は、このリスクに立ち向かう大きな力になってくれます。

何を目的として何を作るかの確信を得てそれを共有できることは、意思決定を確かなものにしてくれます。またどのように作るかという段階でも、3Dプリンタはコスト、期間、手間を軽減してくれます。そして、やはりモノ作りに携わる人間は、出力のたびに改善されていく試作品を見ると嬉しくてモチベーションが上がります。これらはリソースに乏しい小規模のモノ作りや個人のクリエイターの大きな助けになっていると思います。

ネットやSNSと3Dプリンタは、小さな需要とモノ作りに新しい可能性を与えてくれました。それも一時の美談ではなく、持続可能な経済活動であることに大きな意味があります。スケールメリットが出る規模にしにくいからこそ外圧に脅かされない、大儲けは難しいけれど採算が合う。この自立した生態系から生まれる「ものとストーリー」に夢を感じます。

●今後3Dプリンタはますます進化

「3Dプリンタが作る」ではなく「3Dプリンタで作る」。道具ですのでやはり主役は作る人。マスメディアが報じた夢の機械ではありませんが、作る人の夢の実現のための道具であり続けて欲しい。これは機械だけではなく人や社会に対する私の願望でもあります。

人は人に何かをしてあげる時、してもらう時、そして自分の可能性に気付いた時に幸せを感じる生き物だと思います。誰かのためにものを作ることは、とてもポジティブな行為で幸せな時間です。わたしも「ないものづくりエージェント」として作る人、使う人を縁の下で支えることを通じて実践を続けるつもりです。

最後に少しだけ宣伝? を。

光造形機とその材料が安価になり普及が急速に進んでいます。この流れが一巡したあと、あえて溶融樹脂積層型(いわゆるFDM方式)を選ぶ方は用途を明確に意識していらっしゃると思います。適材として適所にお使いいただけるように、3Dプリンタ「Qholia(クホリア)」もまだまだ改善を続けます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。



次回の執筆は浅井真紀さんです。
(2018年6月19
日更新)

 

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