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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第9
アトム to ビット・ビット to アトム

GOROman/近藤義仁
株式会社エクシヴィ代表取締役社長


1975年愛知県豊橋市生まれ。幼少期から電子工作やパソコンにハマる。ゲームプログラマーとして上京。コンシューマゲーム開発、ゲームエンジン開発に従事。2010年株式会社エクシヴィ創業し、代表取締役に。2012年にVRブームの火付け役となった「Oculus Rift DK1」にクラウドファンディングKickstaterにて出会い、そのポテンシャルから自らVRエヴァンジェリストへ。2014年 Oculus Japan Teamを立ち上げに参画、国内のVRの普及に務める。個人でも”GOROman”としてVRコンテンツの開発、VRの普及活動を広く行っている。代表作は『Mikulus』、『Miku Miku Akushu』など。VRアニメ制作ツール「AniCast」を発表。東雲めぐ©Gugenkaの生配信に技術提供。著書『ミライのつくり方2020-2045 僕がVRに賭けるわけ』。マッハ新書 発案者。
http://www.xvi.co.jp/


 


●3Dプリンタとの出会い

第8回のボンクラーズ総長さんからバトンを受け取り、今回書かせていただくGOROmanと申します。普段はVR系の仕事が多いのですが、昔から新しいモノやガジェットが好きで、「面白そう!」と直感的に思ったら採算度外視ですぐ買ってしまいます。

その中で出会ったモノの1つが3Dプリンタです。2013年1月に最初に購入した3Dプリンタ「Solidoodle」が現在に至るキッカケです。残念ながらSolidoodle社は倒産してしまったようです。当時400ドルという低価格だったので、日本で購入された人もTwitter上でチラホラいました。しかし、当時はSolidoodleの情報も少なく、Python(汎用のプログラミング言語)での設定やシリアル接続など難易度が高かったように記憶しています。設定を失敗し、モジャモジャの遊星からの物体X的な何かを製造する日々でした。

数少ないWebの記事を手探りで調べつつ、ファミコンのカセットをモデリングしてプリントしたり、クッキー型を作ったりと楽しみました。


当時Solidoodleにてプリントに成功したコップ。(クリックで拡大)

Solidoodleで3Dプリントしたクッキー型で作ったクッキー。(クリックで拡大)

その後「Makerbot Replicator 2X」を購入し、3Dスキャンした唐揚げをプリントしたり、謎なことをして遊んでいました。


3Dスキャンした唐揚げと3Dプリントした唐揚げ。(クリックで拡大)
 


●初音ミクと握手をしたい

転機となったのは、この作品「ミクミク握手」を個人的に作った時です。


3D modeled by Tda (C)Crypton Future Media,INC.www.piapro.net.

2013年当時からVRを使ったコンテンツをたくさん作っていたのですが、どうしてもみんな手で触ろうとします。VR空間に出現したキャラクター。でも手を触れると虚しく空を切る。そこで思いついたのが、Novint Falconというフィードバック付きのゲームコントローラに手をつけて握手させる方法でした。寝ずに1日で作ったプロトではネイル練習するためのマネキンの手を使いました(Amazonで1,000円くらいだったと記憶しています)。手を握れば、VR内のミクも連動して動きますし、ミクの方から握手で上下に動かす機構が入っています。

この作品をVRイベントに展示したところ大変好評でいろいろとメディアでもバズりました
ねとらぼさんの記事)。

折角なので、より肌の感じやスケール感を合わせたい! それは3Dプリンタを使うことでした。3Dプリントによるハンド部分は、石仮面を3Dプリンタで自作してしまったDaiさんとコラボし、最終版はプロノハーツ社の白川さんに制作を依頼。骨の部分を3Dプリンタで作成し、シリコンで皮膚が再現されました。

ヘッドマウントディスプレイの視覚情報と3Dプリンタで再現された「手」。その2つがVRによって融合した瞬間でした。

「ミクミク握手」は2017年についに海を超え、中国のMaker Faire西安で展示。現地にて講演も行いました。もし自分が3Dプリンタに触ってなかったら、この展示や数多くの出会いもなかったでしょう。


中国 Make Faire 西安 での展示(2017.7.15)。(クリックで拡大)
 

●アトム to ビット・ビット to アトム

昨今、ありとあらゆるモノがどんどんビット化していると思います。昔はレコードやCDだった音楽も今やiTunesやSpotifyでデジタルで聴きますし、レンタルビデオ店でレンタルしていたVHSテープも今やオンラインでNetflixやAmazon Primeで見ることができます。書籍も電子化されていますし、デジタルで伝送可能なものはどんどん増えていくでしょう。

例えば「名刺」です。今はデジタル入稿したものを紙(アトム)に印刷しています。紙で貰った名刺をスマフォで写真で撮ってEightのような名刺管理アプリでわざわざデジタル情報に戻しています。これは二度手間、三度手間になっています。最初からデジタル(ビット to ビット)で交換すればよいはずです。

銀行に預けた「お金」も銀行のサーバー上ではビットという数値です。でも人はわざわざATMで紙幣(アトム)に戻しています。毎月25日はATMは長蛇の列です。これらはいずれ利便性の上からどんどんビット(デジタル)化され、ビット to ビットで済むものはどんどんデジタル化するようになっていくでしょう。

最近見つけたニュースで面白かったのはiPhoneを使った現実のコピペです。
https://twitter.com/laanlabs/status/1037739442650243072


iPhoneを使った現実のコピペ。(クリックで拡大)
 

このようにリアル側のアセットをスキャンし、VR側に持ち込む。そういった世界もどんどん広がっていくと思います。特に日本は部屋が狭いので、すべてをアトムで持ち続けるのは難しいのです。逆にデジタルアーカイブされたビットは元に戻したくなる時もあると思います。その際に3Dプリンタは活躍していくと思います。アトム to ビット デバイスとして。

かつてのコンピュータがパーソナル化してパソコンになって人々の生活を変えていったように、3Dプリンタのパーソナル化に期待します。


次回の執筆は西村 大さんです。
(2018年9
月18日更新)

 

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