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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第10
ゴールは何度も夢見た「デジタル的な可逆性を持つ立体造形の世界」

Dai/西村大
ハナハナワークスおきなわ
STARTUPCAFE KOZA ミライファクトリー管理人



学生時代からWeb制作と立体造形にハマる。成人後はWeb制作者と立体造形師として変わった二足の草鞋を履く。Web(デジタル)に対して立体造形(アナログ)の手間がかかり過ぎることに悶絶していた頃に3Dプリンタを知り即購入。Webやニコニコ動画で作品を発表している内にDMM.makeの3Dプリント事業部に拾われる。その後は何故か南へ。現在は沖縄STARTUPCAFE KOZA ミライファクトリー管理人に収まる。現在、造形方面では「デジタル工作機を使用してのコスプレ造形師」として活動中。

StartupCafeKOZA:
http://startup-cafe.okinawa/
Twitter:
https://twitter.com/Dai_Herreria
ニコニコ動画:
http://www.nicovideo.jp/mylist/32066275



 


●アナログの不可逆世界

第9回のGOROmanさんからバトンを受け取り、執筆させていただきますDai(西村 大)と申します。人の縁とは不思議な物で、まさか回ってくるとは思いませんでした。私は昔からWebと立体造形と言う相反する分野でいろいろな物を作っております。詳しいことはニコニコ動画を見ていただくとよく分かります。


完全に手作業の産物。写真右、下も。(クリックで拡大)

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さて、Web(デジタル)と立体造形(アナログ)は、ありとあらゆる部分で正反対です。

Webを作ろうと思ったらPCを立ち上げ、エディタを開き、コードを書いて、サーバーにアップロードして、ブラウザでチェック。大体こんな感じでしょう。使う物はPC1台。保存、やり直し、「色間違えたからすぐ変えよう」と言った修正作業も思いのまま。とても簡単です。可逆性があると言っても良いかもしれません。

一方、立体造形(アナログ)はそうはいきません。図面を起こして、厳密に寸法や重量を測ったり、粘土をこねたり、木を削ったり、張り付けたり、さまざまな工具を使用したとてつもない手間の嵐です。しかも、一番きついのは「間違えたら振り出しに戻る」可能性が常に付きまとうこと。一度作ってしまった物は(ほぼ)修正が効きません。不可逆の世界です。


よく分かる不可逆の世界:フル稼働石仮面を作っテミタァ!! (クリックで拡大)
 

どんな分野でもアナログ手作業の世界は「経験から来る職人芸」がそのクオリティを支えてきました。つまり、不可逆な世界に対して膨大な知識・経験から、最適手段をチョイスできる人材が重要だったわけです。手作業が良い悪いの問題ではなく「作業の不可逆を解決できない以上、制作者の知識・経験に寄るしかない」ということです。

●アナログ・ミーツ・デジタル

中学生の頃に、PCを与えられながら「刀鍛冶師になりたい!」という意味不明な夢に目覚めた私は、かなり早い段階から「作った造形物をWebで公開」と言う手段を取り始めました(そこら辺の詳しい部分はマッハ新書を読んでいただければと思います)。

年を重ねPCに詳しくなるにつれ、デジタル技術をアナログ制作に転用し簡略化する技法も自然と覚えていきました。つまり図面作成や、デザインのトレーシングをIllustratorやPhothshopで行い、手間を省きながらクオリティを上げていったわけです。

しかし、この時点での簡略化はあくまで「2次元」的なものでした。「絵を描く代用」はできても「粘土をこねたり、木を削る代用」は効きませんでしたので、造形の全体工程を見た時に簡略化割合は小さなものでした。

しかし、世に3Dプリンタが出た時「これで3次元もデジタル化できる!」と直感で理解しました。2013年、当時それほど3Dプリンタの情報はありませんでしたが「見た目がカッコイイ」と言う理由だけで、ボーナスをすべてつぎ込み「Makerbot Replicator2」を米国直輸入で購入しました。


すでに7,000時間ぐらい使用してる愛機。(クリックで拡大)
 

●3Dプリンタと格闘の日々

3Dプリンタが到着したその日から機械との格闘が始まりました。操作自体は簡単なので比較的すぐに覚えられましたが、3Dデータ制作は全く未知の領域。

ポリゴン? 法線方向? ソリッド? メッシュ? STL、OBJ、PLY、WRLなんでこんなに拡張子あるの? MMDのミクさんを出力できるんじゃないの?

数多の3Dソフトを試して、中華製フィラメントに酷い目に合わされ、機械トラブルが起きたら分解修理する事約1年程。機械自体のソフトウェアもバージョンアップしようやく安定して出力できる頃に気づいたのです。 「これは造形精度が低い・・・」。


●3Dプリンタにできることを考え始める

「こんな精度が低いんじゃ使い物になんねぇ」

手作業の腕前に自信がある人ほど、3Dプリンタの造形精度に不満を持ちます。ご多分漏れずに自分もそう思いました。しかし、自分の場合はWebの経験が役立ちました「初期のWebは電話回線で滅茶苦茶遅かったけど、利便性や面白さはあった。それと同じで要は現状で何ができるかだ」と

【考え方の変換】
・手作業の方が早い → 3Dプリントの方が効率的な部分だけやればいい
・単色プリントしかできない → 色分けしてパーツを出せばよい
・出力が遅い → 絶対に同じ時間で終わるからスケジュールが組みやすい
・サポートが汚い → サポートが発生しない3Dデータを作ればいい
・積層面が目立つ → 積層が気にならないプロダクトデザインをすればよい

そこから始めたことは「性能限界を知ること」。

何ができて何ができないのか? サポートなしで造形可能な最大斜度は何度か? あるいはサポートが発生しない凹の深さは最大何mmか? フィラメントの色の違いによる造形精度の差は? 何を3Dプリントすることが最大効率なのか?

「こいつは道具、使いこなせるかどうかは自分次第」

何てことはありません、アナログ造形でさんざん経験してきた金槌や鋸と同じように「道具の使い方」をトライアンドエラーで学習していったわけです。ただし、ゴールは自分が何度も夢見た「デジタル的な可逆性を持つ立体造形の世界」でした。


●3Dプリンタでビジネス

3Dプリンタでビジネスと言うと猫も杓子も「オリジナルフィギュア!」と言いますが、オタク大国日本が生み出すフィギュアメーカーのクオリティや価格に、現時点での3Dプリンタが太刀打ちできるわけがありません。むしろデータ制作にかかる人件費ですぐに赤字です。

自分の場合はもとより「コスプレ小道具」をマーケットに定めていました。アニメやゲームのキャラに扮するコスプレ市場は「衣装の供給は多いが、小道具の供給は少ない」と言う現実があったからです。ついでに言えば「少数だが絶対に需要が存在する」市場でもありました。

【コスプレ小道具が3Dプリント造形市場として有望な理由】
・最大需要数が1万ロットを超えることはないためメーカーが参入しづらい
・しかし、小ロット(1000以下)で確実に需要が存在する
・デザインが細かく、手作業でやる人間は少ない
・ネット通販で行えば世界中を相手に販売が可能

コスプレ小道具のマーケットは3Dプリンタでのプロダクト販売で十分に勝算がありました。そして、実際に今現在、東方Projectのコスプレ小道具を中心に販売し十分に投資を回収しています。


Boothで絶賛販売中の「魔理沙のミニ八卦炉」 (クリックで拡大)

(クリックで拡大)

特に在庫リスクがゼロ、注文があってからでも生産が間に合う、人間のやることはボタンを押すだけで工数が恐ろしく低い。まさに3Dプリンタ様様です。

●3Dプリンタのこれから

正直なところですが、自分としては「こんな機能が欲しい」と言うのはありません。と言うのは現時点で自分が所有している3Dプリンタでプロダクト生産ラインを最適化してしまったからです。ハッキリ言って不便がないです。

よく「こんな機能があれば3Dプリンタも使えるのに」と言う製造業の人もいますが、いつ来るかも分からない未来を待っていたら時間がかかってしようがありません。それに「こんな機能」が「安定して稼働できるようになるまでに」また再び時間がかかることは明白です。

3Dプリンタを使いこなすには少なくともデジタルの感覚が不可欠です。加えて、アナログ(物理)のことも分からなければなりません。双方の有利・不利、得手・不得手。

私の場合は両方とも最初から理解できていたレアなケースでしょう。故にスムーズに3Dプリンタでプロダクト販売が軌道に乗せられたのだと思います。

逆説的に「3Dプリンタが一般普及している世界」とはデジタル(データ)=アナログ(物理)で完全に差異がなく、同一の価値で共有されている世界でしょう。まさにスタートレック!
個人的には早くその世界が来てほしいです。何故ならデータ販売の方が、より手軽で、距離の概念もなく、世界中の人たちに届けられるのですから!


Thingverseでデータ公開もしてるんですが、まだまだ。(クリックで拡大)
 



次回の執筆は庄松屋さんです。
(2018年10
月22日更新)

 

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