TOP ■ニュース ■インタビュー ■コラム ■インフォメーション

3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第11
魔法の箱と
設計楽しすぎた人生

北村茂之/庄松屋


名古屋造形芸術大学卒業。職業はCAD/CAMオペレーター。「エアーマンを作ってみた」でニコニコ動画デビュー。「ガンランス作ってみた」ではミリオンヒットの代表作となった。現在はSEGAのゲーム、ファンタシースターオンライン2のコスプレ/クラフトコンテストに毎年作品を応募している。3年連続で最優秀賞。「庄松屋」とは実家の屋号です。一族の呼び方になります。庄松→庄吉→庄一→親父→わたくし、と代々庄松屋と呼ばれています。写真右は息子で、次代の庄松屋を継ぐ。

Webサイト:
http://www.shoumatsuya.com/
Twitter:
https://twitter.com/shoumatuya
ニコニコ動画:
https://www.nicovideo.jp/mylist/6005310



 


●3Dプリンタとの出会い

本コラムは、3Dプリンタ関係のオピニオンリーダーが語るという企画で、西村さんからバトンを受け取りましたが、わたくしは3Dプリンタのオピニオンリーダーと呼ぶには、少し違うかもしれない。けれど、ホビーで3D技術を利用してきたオピニオンリーダー、とするなら多少の自負があります。

わたくしが就職した時代は、3Dが製造業に普及しつつある頃で、自分より年長者は3Dが使える者は生き残り、使えない者は淘汰されていました。新卒のわたくしには、これからは3Dが当たり前に使える人材になる必要があるからと、3D CADが1台割り当てられました。

病める時も健やかなる時も雨が降ろうが槍が降ろうが、わたくしの年代以後の製造業のはしくれは、毎日3D CADを扱い、レベルの差はあれど、脳と3D空間がマウスで直結しているような人材です。
そのうえで物好きなわたくしに、あるとき社長が神の言葉を投げかけました。「いま仕事が空いてるから、勉強で好きなものを作っていいよ。エアガンのパーツとか?」このとき、わたくしの「ホビーで3D」がスタートしました。

仕事が空いていなければ会社に居残ってでも、3D CAD&マシニングで遊びました。材料を自分で買っていたからって、会社の電気や刃物を使っていることに先輩は思うところがあっただろうし、なかなか家に帰ってこないのでヨメは時々怒りました。でもそんなことはお構いなしでした! 楽しいから! いっときニコニコ動画に作品を投稿しては、ブイブイ言わせてました。当然です、ホビーでプロの機材が使えるなんて、なかなかありえません。

しかしあるとき思いました。就職して10年も過ぎた頃。もう「勉強」ではないやろ~と。

会社の機材に依存する製作から脱却せねばと思っていた頃、本コラムのバトンをパスしてきた西村さんとは、すでに知り合いでした。そして彼は言うのでした。また、彼でなくてもわたくしを知っている人はみんな言うのでした。「えっ? まだ3Dプリンタ買ってないの!?」とか「庄松屋さんが持ってないなんてアリエナイヨー!」と。

わかった買うよ! けど…。


●とりあえずオススメは熱溶解(FDM)方式

けれど、巷で3Dプリンタという言葉が聞かれるようになっても、すぐには購入しませんでした。家庭用では、どんなタイプの出力方式が主流になるのか、見定めていたからです。熱溶解積層型、光造形型、粉末型を確認していました。それぞれ出来栄えが違うので迷いましたが、重要なのは、使う材料の流通量が多い3Dプリンタを買うことでした。VHS対ベータのような、規格戦争になると感じていたからです。現在のように、フィラメントもUVレジンも、簡単に手に入るとは思っていませんでした。
そして1年以上迷って、当時は熱溶解型のフィラメントの入手が容易だったのと、西村さんがMakerBot Repricator 2を強く推したので、熱溶解型を購入しました。

いま本コラムをご覧の読者さまは、どんな方でしょうか? まだ3Dプリンタを所持しておらず、情報を得るためこちらへ辿りついたのでしょうか? 3Dプリンタはすでに所持していて、ステップアップの情報収集でいらっしゃったのでしょうか? すでにブイブイ言わせるレベルに達した猛者でしょうか?

もし貴方がまだ3Dプリンタをお持ちでなく、入門のために購入を検討しているならば、熱溶解積層型(FDM方式)がオススメです。材料のフィラメントは環状に束ねられ出荷されるので、取り扱いがラクです。足の上にでも落とさない限り、事故はありません。出力されたものは、すぐに手に取ることができます。強度もあります。

現在主流になりつつある光造形型は、綺麗なモデルはできあがりますが、材料であるUVレジンが液体なので、こぼしてしまう事故があります。

レジンは臭いがあり有毒で、洗浄液のイソプロピルアルコールも同様です。ちなみに我が家では、流し台の下の収納に置いてあります。時々排水の臭いが気になるような場所なので締め切っています。収納の外までレジンの臭いが出てきたら、換気扇を点ければ良いのです。そうすれば光が入らず、プール内のレジンが自然光で固まったりしません。造形後は、アルコール洗浄とUVライトでの二次硬化が必要です。ちょっとめんどくさいです。臭いが気になるイソプロピルアルコールの代わりに、メタノールを代用するテストをしています。上手く洗浄できているように感じます。

粉末型はフルカラーが魅力的ですが、粉もこぼしてしまう事故があります。なにしろ粉末型は所持していません。所持していないものをオススメなんてできません…! いずれ購入したい。

熱溶解型は、光造形のような精密さも、粉末型のようなフルカラー印刷も、できません。最大のメリットは、取り扱いの容易さです。アイデアをすぐにカタチにしたい時、設計を修正しながら形状を何度も確認したい時、ちょっとめんどくさい機材では腰が重くなります。


「MakerBot Repricator 2」。メイン機。一家に一台ボール盤の時代から、一家に一台3Dプリンタの時代に。(クリックで拡大)


「ANYCUBIC PHOTON」。流し台の下にある。(クリックで拡大)


●わたくしがこの場で一番伝えたいこと

上にいろいろ書いた上で、3Dプリンタを楽しむのにもっとも重要なのは、「設計力」だとわたくしは言いたいです。

3Dデータがなければ、3Dプリンタはただの箱です。3Dさえ描ければ、3Dプリンタは「魔法の箱」になります。魔法の箱は魔力(設計力)によって真価を示します。

3Dプリンタは魔法の箱ではない、ただの機械だという人もいます。
いいえ! 魔法使いにとっては魔法の箱です…!

ホビーでは、ギミックや動きのある作品をマシニングセンタや3Dプリンタで作ってきました。ギミックを動かすまでの試行錯誤は大変です。最初の設計で機構がスムーズに動いたことはありませんでした。

設計し、作っては、動作を試み、うまく動かず、設計を修正して、パーツを作り直す。何度も、何度も、なんども、なんども繰り返し……。そうして、スムーズに機構が動いた時は感動です。

難しいギミックのない、壁にかける簡単なフックでも、一発で使い勝手の良い設計ができるとは限りません。一度作って、使い難い形状になっていないか、強度が不足していないか、手にとって観察し、そこからネガティブを潰す再設計をして、使えるものができます。

このように、次々と形状を検討したいなら、FDM方式はマストです。

設計を検討する作業は大変です。一度作ったものを捨てるわけです。納得するものができるまで産みの苦しみがあります。あえていうと、そこが楽しいです! それを手作業でやっていたら大変ですよ。
3Dさえ描ければ、3Dプリンタではない別の機械が発明されても、この楽しみは永遠です。



競技用に使用しているエアガン。外装パーツに3Dプリンタを利用している。デザインを何度も変えプリントし、使いやすさを追い求めた。(クリックで拡大)

ロボットのコスプレ。一部に3Dプリンタを利用している。同じ形状のパーツをいくつも揃えたり、ミラー形状が必要なら、3Dプリンタは便利。(クリックで拡大)


我が家のリビング。作品を飾っています。どの作品も3D CADで設計している。マシニングで作ったものと、3Dプリンタで出力したものがある。どの作品もギミックがある。もちろん作動する。(クリックで拡大)

このような素晴らしい賞をいただいたのは、3D環境があったからです。(クリックで拡大)

●未来の3Dプリンタ

ここまでさんざん自分の趣味に3Dプリンタを活用することばかりを書いてきましたが、将来の展望としては、医療用3Dプリンタの発展を望んでいます。

わたくしの父は、胃がんと大腸がんになりました。さいわい、早期発見で手術は成功し、元気です。しかし、内蔵の一部を切除しました。父はがんの家系なのか、親戚で、声を失った叔父さん、胃を全部摘出した叔父さんがいます。叔母は乳がんで亡くなりました。

3Dプリンタで臓器や失った身体の部位などが作れる未来を望みます。その未来は、もうすぐそこまで来ているように感じます。



次回の執筆は足立 正さんです。
(2018年11
月20日更新)

 

[ご利用について] [プライバシーについて] [会社概要] [お問い合わせ]
Copyright (c)2015 colors ltd. All rights reserved