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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第15
3Dプリンタは、趣味や考えをモノにしてくれる機械

内野博之/株式会社メルタ

内野博之(うちの ひろゆき):1991年大阪生まれ。大阪府立大学農学部を卒業。営業コンサル会社を経て、株式会社メルタを共同創業。 3Dデータ作成や3Dプリント事業を軸に、ものづくりの知識がない多くの人にも、気軽にものを製作できるようなサービスを日々考えている。
https://melta.co.jp/
https://twitter.com/uchino_hiroyuki (twitter)

 

●3Dプリンタとの出会い、起業のきっかけ

はじめまして。株式会社メルタの内野です。VOSTの三谷さん、いや三谷先生から光栄にもバトンをいただき、リレーコラムを書かせてもらうことになりました。

僕は4年ほど前に、現代表と一緒に株式会社メルタという3Dプリンタに特化した会社を創業しました。そこから今では3Dデータ作成や3Dプリント事業を軸に、いろいろな商品、サービスの企画を行っています。 今回は僕が普段3Dプリンタに対して考えていることを書いていこうと思います。

「MAKERS 21世紀の産業革命が始まる」(2012年NHK出版320P)著者:クリス・ アンダーソン
。(クリックで拡大)

 

昔から製造業に携わっている方たちには鼻で笑われるかもしれませんが、元々は「MAKERS」という本を読み、3Dプリンタのことを知りました。その本には「ものづくり領域において民主化が起こり、個人がメイカーになる時代が来る」ということが書かれていて、それまで触ったこともない3Dプリンタに興味を持ちました。

その後、製造業の知識などがまったくない状態で、全国の3Dプリンタの空き時間を活用した3Dプリントサービスをスタートさせました。当時は3Dプリンタブームの最中だったこと、ものづくり補助金が流行っていたこと、3Dプリンタが基本は1機種1素材でしか造形できないことなど、いろいろな要因が重なり、空き活用の3Dプリントサービスはある程度、軌道に乗ったのかなと思います。

●1つの工業機械としての3Dプリンタ

会社を続け、製造業の方々とも仲良くなるに連れて、起業当初に3Dプリンタに対して思い描いていたような「何でも作れる魔法の箱」のような考えは業界には受け入れられないことに気付きました。そのような表現をメディアが行ったことにより、何でも作れると思っているお客さんが増え、仕事がやりづらくなったという人もいました。

あくまで3Dプリンタは1つの工業機械でしかなく、まだまだ扱いづらく、3Dデータが必要という厚い壁もあるし、個人での利用なんて無理! という意見が実際の業界の考えでした。そして、まったくもってその通りでした。

ただ、僕らが3Dプリンタを1ツールとして割り切りガチガチの製造案件をこなしていくのは、当時は製造業における知識というアドバンテージもなかったため難しく、業界での立ち位置に悩んでいました


●僕らが考える3Dプリンターの本当の役割

そんな中、日々のお客さんからの依頼で非常に興味深い事例も増えていきました。例えば、りんご農家を営んでいるご主人が亡くなった時に、「形見として育てていたりんごを残したい」という相談がありました。そのままでは腐ってしまうので、3Dスキャナと3Dプリンタで複製を作成しました。

これまでは歴史上の遺産のように、社会的な価値が高いものでないと複製として残せませんでしたが、個人レベルでも残せるようになる。このように個人特有の視点から生まれる活用事例が多いことが、3Dプリンタの面白さだと思いました。


「複製されたリンゴの出力」。(クリックで拡大)
 

また、最近では釣りのルアーやボードゲームの駒など、趣味を発展させるような最終製品としての活用が増えてきました。既存の製品でも十分なように思えるのですが、好きな人にとっては自分の好きなようにカスタムし使うことに喜びを感じているようでした。


ボードゲーム「カタン」の立体の駒。(クリックで拡大)。3Dデータ
 

これらの事例は別になくても生活は困らないかもしれません。ただ「なくてもいいけど、あったら楽しいよね」という「不要不急の価値」を3Dプリンタでは実現できると思っています。

●個人の趣味や思想を物に反映できる未来

最近の事業としては、メロンの網目に好きなメッセージやキャラクターを入れられる「メロンレター」や、デジタルで陶芸ができる「バーチャルろくろ」などを行っています。裏で3Dプリンタや3Dデータが活用されているけれど、お客さんの体験としては手軽に自分の考えをモノにできるという軸を大事にしています。


「メッセージが入れられるメロンレター」。(クリックで拡大)
 


「バーチャルろくろ」(クリックでMP4動画再生)。
 

僕が考える3Dプリンタは単なるツールではなく、みなさんの趣味や考えなどをモノに反映することができる面白い機械だと思っています。それに対して、確かにまだいろいろな課題がありますが、スペック面での課題はこれから将来どんどん解決していくと思います。そして、今までこの立ち位置を狙えるツールは存在しませんでした。

不必要というものが逆説的に価値を持つ社会になりつつある中で、3Dプリンタが果たせる役割を日々考えています。



次回の執筆は角村嘉信之さんです。
(2019年3
月19日更新)

 

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