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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第19
3Dプリンタを電子レンジ的存在に

藤森研伍/テックショップジャパン株式会社

美大の工芸科を卒業後、金属科の研究室に所属する中でさまざまな技法や材料学への興味を持つ。コンテンポラリーアートに触れる中で、テクノロジーが新たな造形の可能性を切り開くことに着目。クリス・アンダーソンの「MAKERS」に触発されメイカースペースへ興味を持ち、いくつかのファブスペースの立ち上げに関わった後、2019年3月からテックショップ東京の店長を務めている。趣味は3Dプリンタの分解とカスタム。
https://www.techshop.jp/

 


●3Dプリンタとの出会い

思い返せば5年ほど前までは、まだまだ「3Dプリンタ」という言葉さえ知らない人が多くいたに違いない。知っていたとしても、それは夢と希望に溢れたSF的な世界を思い描いていたのではなかろうか。今後近いうちにモノ作りが、物流が、大きく変わる。そんな未来型マシンの代表格が3Dプリンタであったと個人的には記憶している。 しかし、現状それはまだまだ発展途上のテクノロジーであることは言うまでもなく、「一家に1台3Dプリンタ」の時代はまだ来ていない(我が家は4台)。

我々の生活を大きく変えるまでには至っていないというのが実際のところであろう。3Dプリンタはどこから来てどこへ行くのだろう。今回は私を取り巻く3Dプリンタ感について改めて振り返ってみたいと思う。

プロフィールにも書いた通り、私がクリス・アンダーソンの『MAKERS』という本に出会ったのが2013年頃。その本には3Dプリンタにより新たな産業革命、物流革命が起こるとされていた。物を買う時代は終わった。データをダウンロードして出力すればよいのだ。そんな内容だったと記憶している。 これはある意味で一種の転送装置のような捉え方もできる。送る側でスキャンしたデータを、受け側がダウンロードして出力する。

この方法だとモノは既存の移動手段を介さずして瞬時に移動したことになる。クオリティに目を瞑ればこれはすでに実現している技術とも言えるが、スタートレックの転送装置のようにはまだまだいかないのも現実だ。もしもほんの数秒で出力が完成するようになれば本当に未来が来たと思えるだろう。いずれにせよ、我々が(あるいは私が)当初思い描いていた3Dプリンタの未来とはまだまだ隔たりがある事は間違いない。

クリス・アンダーソンの『MAKERS』。(クリックで拡大)

 


●もしも3Dプリンタがなかったら

最初からCADを経て3Dプリンタに至った人はある意味本当にハッピーだと思う。 今からほんの10年前くらいまでは、スケッチから形状を想像し、そこから油土で原型をモデリングし、さらに石膏で型を取り、雌型に張り込んで石膏原型を作る。そこから石膏原型を修正し、形状を整え、面のつながりを滑らかにして、磨いて、塗装する。

実際この様な工程を踏んでいた自分がいたかと思うと、この10年で時代は唐突に進化したなと思うのも無理はない。鼻をつく油土の匂いも、こびりつく石膏の飛び汁もまったく体験せずに造形が完了してしまうのだから隔世の感がある。

ある意味で、その頃すでに産業レベルでは3DプリンタもCNC切削機も、世の中にはあったが、果たしてそれが一般レベルまで浸透していたかと言うと答えはNoだ。ハードは安くなりソフトも使いやすくなって、我々一般消費者の手の届く範囲に降りてきたのは本当にここ数年の話である。

初期の3Dプリンタには相当細かな調整を強いられたお陰で、基本的な原理原則を知ることができた。大変といえば大変な作業だが、3Dプリンタによってでき上がるものは今までとは別次元のクオリティとなった。そう言えば、かれこれ何年も粘土をこねていない。


●3Dプリンタのちょっとした落とし穴

3Dプリンタの大きな課題は、3Dプリンタで量産できない限り、最終製品を作るにあたって型の制約に縛られ続けるという点だ。つまり、今まで不可能であった形状が造形できる3Dプリンタの良さが本当に発揮されるのは、そっくりそのまま最終品までできてしまう場合であって、何の気なしに金型に起こそうとすると造形不可能になることも十分にあり得る。

だから3Dプリンタの生産スピードと量産コストが改善されて、すべてをそれで完結できるようにならない限り、型の分割位置や抜き勾配など、その他諸々量産を意識した設計にしなければならない。

そういう意味では、あの超原始的な石膏型からの複製は、型を抜くことを想定し、必然的に型の分割やアンダーになってしまう部分の形状を補正するため、制作を進めながら合理的な形状に落とし込んでいけるという意味で理にかなった部分もあった。

デザイン的な観点で言えば3Dプリンタが出てきたことで、造形の自由度は格段に上がったが、同時に制約がなくなったことにより必然性を失ったのも事実だ。機能美は必ずしも使いやすさだけによってもたらされるものではなく、効率的に生産可能な方法の中で生み出されるものでもあった。

しかしこれらの悩みはいずれは、3Dプリンタでの量産が主流になり、ジェネレーティブデザインのような手法が盛んになれば、それぞれの制約の中で四苦八苦することも少なくなるであろう。

プロトタイピングから最終製品まで一貫した流れで効率的に設計が可能になれば、今までとは比べ物にならないくらいのスピードで素晴らしく淘汰された形状を設計可能になるはずだ。果たしてそれが美しいのかどうか疑問が残るが、この些細な問題もいずれ解決するであろう。


●メイカースペースにおける3Dプリンタ


東京・赤坂にあるテックショップ東京の店内風景(クリックで拡大)

 

メイカースペースに勤務して3年半になるが、自分が家でも職場でも3Dプリンタ漬けなためか、新規ユーザーの方との感覚に大きな隔たりを感じることがよくある。前述の通り、当初私が3Dプリンタに抱いていた夢と近しいものがあり、初心者講習などの際には落胆と感動の入り混じった反応が見て取れる。

それはどのような落胆で、どのような感動かと言えば、3Dプリンタが思ったよりも原始的なものであるということだ。失敗することが前提としてあり、しかし一度仕組みが分かってしまえば、それはそれで奇跡の連続に溢れていることに感動する。ハイエンドな3Dプリンタを導入すれば、また反応も変わってくるわけであるが、個人で扱えるレベルの機種は、そういうものだということを一度知っておいて損はない。

3Dプリンタ初心者の方が3Dプリンタに思い描いていた未来があるとすれば、もっとも近しい答えが「電子レンジ」だ。
ご存知の様に電子レンジは食べ物を入れてスイッチを押せばそれで終了。でき上がりのチンを待てばよい。これを3Dプリンタに当てはめるとすれば、人々が操作するのは、出力したいデータを選ぶだけ。後は難しい設定も高さ合わせも必要ない。正にスイッチ1つであっという間にでき上がり。なんてことになったら本当に未来がきたと思うだろう。皆が想像していた3Dプリンタというのはきっとそんな感じではなかっただろうか。



●3Dプリンタの電子レンジ化

ペットショップ型3Dプリンタ棚。小型機を増やしたことで利用頻度が上がった。(クリックで拡大)

 

数千万円台の3Dプリンタは今やさまざまな素材を複合的にプリントしたり、金属などの高強度な素材をプリントすることができるようになっている。しかしそれは巨大であり高額であり、ランニングコスト的にも個人が扱うには非現実的なものだったりする。

そういう意味では、あくまで個人の視点で言えば、FDMの3Dプリンタは使い勝手やランニングコストの面から見てももっとも合理的な仕組みになっていると感じる。またメンテナンス性や運用面から考えても、誰でも使える3Dプリンタはこの方式がもっとも優れているのではないかと、いまさらながらにFDMを推してみる。

これを何とかして電子レンジに近づけるとなると、あと必要になってくるものは、考えるための「脳」と監視するための「目」を与えることではないかと想像する。

ユーザーなら誰しも一度は、虚空を彷徨い続ける3Dプリンタや、ヌードル製造機と化した3Dプリンタを見たことがあるに違いない。

もし過去の経験に基づき設定を最適化できる脳があり、造形が上手くいっているかを常に監視しながら補正できる目があれば、造形を重ねるたびにスライスは秀逸さを増すであろうし、造形中にも自ら軌道修正することができる。
さらにそうした3Dプリンタをネットワークで世界中とつなげてあげれば、経験を共有できるようになり、学習スピードは格段に上がるのではないだろうか。

「センシング」と「AI」は今まさに重要なキーワードとなっているが、3Dプリンタにも間違いなく効くだろう。さまざまな失敗を経てユーザーが育っていくことも重要だが、それは一部の3Dプリンタオタクにしか受け入れられないことだ。

加えてもう少し妄想を膨らませてみれば、FDM機ももう少し多軸化が進むとオーバーハングを気にせずにクオリティを上げることができるのではないかと思う。5軸6軸の研究が進んでいるようだが、ロボットアーム的なもので分割的に造形する方法などが出てきても大変面白そうである。必ずしも下から造形するのではなく、常に造形しやすい方向に傾ける。あるいは一度造形した表面にパーツを付加していくなどのことができれば、FDMもまだまだ息の長い技術になるのではと考える。

これらの技術が我々の手元に届く日はまだまだ先になるかも知れないが、いつしか過去の自分には想像もできなかった未来がくるに違いない。「一家に1台3Dプリンタ」もそう遠くはないかも知れない。



次回の執筆は多賀重雄さん(義肢装具士)です。
(2019年7
月16日更新)

 

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