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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第20
3Dプリンタで義足を

多賀重雄/義肢装具士

元東京都庁警備隊隊員。義肢装具士という国家資格を持ち、アフガニスタンでは義足支援に携わり、日本では義肢装具士養成校の教員でもあった。空白の時を経て、TechShopの初期スタッフとしてほとんどの機材のメンテナンスとトレーニングを担当。その後はMarkforged社の認定トレーナーとなり、日本人初のMetalX認定技能者でもあった。現在は某スタートアップに創業メンバーとして参加中。

 


●本人は妄想はしていないけれど、傍から見れば妄想に憑かれた人

けっこう初期の頃からずっと、3Dプリンタと義肢装具士について話すほどに、たいていの人には妄想と捉えられました。聞いてくれる人でも「そんな未来が来るといいねぇ」「私たちがお爺さんお婆さんになるころはすごい未来なんだろうね」とか良い話で終わらせる感じの反応でした。「いいねぇ」じゃねぇだろ、Facebookかよお前は。ジジババになる前にできることがあるだろ。

個人的にはいずれ訪れる未来の話しかしていません、いたって真面目に。たとえ聞く人にとっては妄想に思えたとしても。まず、3Dプリンタで義肢は作れます、だから3Dプリント義足が普及する未来はたぶんやってくる。つまりそれは義足を作るための専用CADも発達することを意味し、義足のCADデータは国境を越えて、国をまたいで義足が作られるようになる。それはユーザー自身も自分の義足を作ることを可能にするし、むしろ人間が作るとかを超えて、AIが義足を作る未来もあり得ないことではなくなる。

こうした話を大真面目に話してるお前は誰なんだ? と言われれば「多賀さんです」と答えます。多賀重雄です。


3Dプリンタによる義足カバー。(クリックで拡大)

義足部品。(クリックで拡大)

●義足と3Dプリンタ

自分は義肢装具士と言う資格を持っていますが、これは簡単に言えば義足を作る国家資格です。医療職であり、職人でもあります。「義足を3Dプリンタで作る」というのは、3Dプリンタブームのかなり早い段階から取り上げられている話題ですが、その割には本職である義肢装具士が3Dプリンタで義足を作った話は聞きません。

手でやったほうが早いですからね、今でも十分に作っていける。日本は国民皆保険で生活保護まであり、福祉制度もあり義足の負担額は大抵の場合は数万円で済みます。例えば3Dプリンタを駆使して5万円で作れる義足があっても、国に認可された50万円の義足との勝負になってしまう世界で、3Dプリンタで義足を作ることにどんな意味があるのでしょうか?

ましてや義足を作るプロである義肢装具士は整形外科額やリハビリテーション医学だけでなく、電気炉や真空成型の取り扱いやグラインダーや溶接技術など、さまざまな工具や暗黙知の技術を目で盗みます、何も3Dプリンタでわざわざ義足を作る必要もありません。工房ではおよそたいていのものは作れます。職人、職人&職人。

●突然の人生終了のお知らせ

かくいう自分もその1人でした。男なら技術で生きるなら1番になりたいとか思うじゃないですか、誰にも負けたくない、達人と呼ばれたい、「私失敗しないので」とか言い切りたい。そして世界中の人に義足を届けたい、生きている限り人々を救いたいですブラックジャック大先生。余談ですが、義足を作りたくてアフガニスタンにいたこともありました。若かったなぁ。

そんな青臭い志で生きていた時代が自分にもありました、努力は報われる、いや報われない人もいるけど自分だけは報われる。そう信じていました。

あの日、身体を壊して倒れ、職人として再起不能になるまでは。

身体を壊してから生活は荒れに荒れ、あっという間にアル中のオッさんのできあがりです。最終的には「もう俺は二度と義足を作れない身体になったんだなぁ」と涙を浮かべながら離婚届にハンコを押したのは今では良い思い出です。手が震えていたのは悲しみではなく、たぶん、アルコールのせいです。

アフガニスタン時代(クリックで拡大)

 

●誰に会って何を聞くか? 必要なことはGoogle先生が教えてくれる時代

だから、そんな「終わった人」として余生を過ごしていた時に出会った3Dプリンタというものは、シンプルにすごかったです。でも、正直な感想は自分とは無縁だな、でした。イメージが浮かばなかったんですよ、どんなに近未来的なプロダクトを目にしても「どうやって作るか?」が理解できなかったのです。妄想できなかった。

しばらくして、データを作るのに3D CADというものが必要だと気づいた時、ようやく「3Dプリンタでどうやって義肢を作るか?」という思考に至りました。具体的にどうやるかが理解できないとまったく想像ができなかったわけです。まったく知識はありませんでしたが、思いついた疑問はどんどんGoogle先生にぶつけます。かつて自分が手技で行ってきた作業の意味を因数分解していく作業を経て、ほんのりとですが3Dに関して理解してくるとGoogle先生はより深い知識だけでなく、疑問の解決のために誰に会うべきかを教えてくれるようになりました。


デジタルクレイツールFreeFormでモデリングを試す。(クリックで拡大)

義足のスキャンデータ。(クリックで拡大)

Google先生の導きのもと、いろんな人の協力がありました。そもそもの3Dプリンタというものを教えてくれた金型やの親父さんだけでなく、Freefromなどを体験させてくれたケイズデザインラボのスタッフの方や、3Dプリンタや3Dスキャナを使わせてくれた世田谷ものづくり学校の方、データデザインの方、ほかにもMissionArmJapanというNPOの方々、exiiiの皆さん、Xiborgの方や、東大で義足の膝の研究をされて起業した方、フィリピンで3Dプリント義足を作ろうとしていた方。

数え上げればきりがないほどたくさんの人に出会い、「3Dプリンタでどうやって義肢を作るか?」ということを現実にするための教えをこい、援助や機会をいただいてきました。そしてそれらの活動を、義肢装具電子設計同好会というサークルで行い、一緒に活動してくれたメンバーたちにも感謝がたえません。


●3Dプリンタがどうなるかではなく


3Dプリンタでどうするか? 結局これに尽きるんじゃないかと思います。とにかくやってみる。こうなればいいな? と思ったら、そうなるような工夫をする。たとえそれがつたなくても。何よりも今できることをやろう、そして間違いなく、3Dプリンタで義肢は作れる。そこはもう大前提で、やろうと思えばできる。

問題はその先で、ユーザーの課題に対して広義の意味で「3Dプリンタでどうするか?」を考えられるか。つまり、これは単純に3Dプリンタ以外の選択肢を持たずに何でも3Dプリンタで作るというよりも、選択肢の1つとして3Dプリンタで解決できることを洗い出すことができるか? ということです。それは3Dプリンタで何ができるかを理解していなければできないことです。

あれ? やっぱりここまで来て妄想的なものがないように見えますね、そうなんです、やはり妄想はしていないんです。

たとえば、今すぐに日本で3Dプリンタで義足を作っても、最初に話した通りすでに充実した福祉制度に取り込まれるにはまだ時間がかかります、しかし福祉制度が成り立っていない途上国では現実味のあるプロダクトに変わります。

何千何百のスキャンデータがあれば、機械学習にかけて最適な形状を見つけ出すことができるかもしれません、少なくとも理論上は可能です。そしてそのためにも義足用のCADが必要で、CADを学び、自分がいかにして義足を作ってきたかを反映することで作ることができます。


義手のCAD画像。(クリックで拡大)

義足カバーのイメージ。(クリックで拡大)


●人は妄想の中を、現実として生きる

ある程度自分を客観視すれば「ああ、相変わらず妄想どっぷりだな」とも思えますが、不思議と本人にとっては別に特別なことでもなく、まだ早い未来を今日無理やり再現しようとしている感覚です。どうやればよいのか? どんな方法があるか? 毎日が試行錯誤です。

結局のところそれは純粋に、初めて3Dプリンタや3D CAD、これらに触れた時の「これでまた俺は義足を作ることができるぞ」という確信。そこから見えた未来の姿を再現しているに過ぎないんですけどね。
3Dプリンタで義足を、AIが作る未来。

たぶん、その日からずっと長い妄想に憑かれているのかも知れません。




次回の執筆は岡本卓也さんです。
(2019年8
月13日更新)

 

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