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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第21
映画や広告のプロップから日常へ

岡本卓也

電気関係の制御盤などの設計をしていた26歳の頃、学生時代の後輩に呼ばれるがまま、2014年に3Dプリントサービスを行う株式会社アイジェットに入社。間もなく呼んでくれた後輩が失踪。訳の分からないまま顧客と会っては、よくは分からないがウケるものをあれこれ作る仕事に面白さを感じ、3Dプリントで生きていくことを決める。現在は某3Dプリント関連業者に在籍し、ハード的な知識を付けるべく勉強中。

 


読者の皆さん、こんにちは。岡本と申します。特に肩書きもなく恐縮ですが、2014年より主にBtoBにて、3Dプリンタやその周辺の技術を仕事にして、ごはんを食べさせていただいています。多賀さんからのご紹介にあずかり、身に余ると思いつつも、簡単にですが私の妄想する3Dプリントの明日への期待を共有できればと思います。

●爆破解体と3Dプリントの社会的立ち位置


初っ端、まったく関係のない話題で大変恐縮なのですが『解体屋(こわしや)ゲン』という漫画をご存じでしょうか。


ヘルメットの男がゲン、オールバックがダイナメンションのジョージ富田です。ダイナメンション登場回は、言ったら名探偵コナンの中での黒の組織回みたいな感じです。
 


朝倉巌、通称ゲンは海外で身につけた爆破解体技術を日本に持ち帰り、その技術を核とする解体屋として開業するに至ります。爆破解体はセンセーショナルかつ、一定の条件を満たせばコストメリットを生むことができる画期的な技法でありつつ、爆破に伴う騒音や粉塵、行政とも折衝が必要な火薬使用など様々な制約を受ける業務でもあります。結局、爆破が行えない構造物解体をも請け負い、時にはゲン自らハンマーを抱えて古典的手法で解体するケースも少なくありません。

あるときゲンに立ちはだかった強力なライバルである外資系企業 ダイナメンション・インクは、爆破解体そのものの認知向上のために積極的な広告宣伝を行ったり、爆破解体そのものを映画撮影の要素としてエンターテインメントに組み入れるなど、大胆かつ効果的な戦略をとります。

ライバル意識から対立していたゲンの会社も故あって、あるときダイナメンションに協力し映画ロケの撮影を支援します。価値観の異なる2社ですが、いがみ合いながらも同じ目標を掲げ、互いのことを認めつつ、日本での爆破解体の発展に寄与していくのです。
僕はこの漫画に衝撃を受けました。爆破解体と3Dプリント、それぞれの置かれている状況が、あまりにも似ていたからです。

●3Dプリントとの出会い


最初から余談でしたが、(やっと)本題に移ります。私の個人的な経験を振り返れば、私が3Dプリントに初めて触れた2014年にはすでに十分と言っていいほどの数、3Dプリント技術もしくは3Dプリンタ販売に関わるプレイヤーが存在していたと思います。いや、むしろ一種のバズワードのように「3Dプリント」という単語がメディアに露出するようになった2012年~2013年直後の数年間は、(大小交々ながら)新規参入もかなり多かったでしょうから、関わる業者の数だけで言えば過去最大だったかもしれません。

3Dプリンタ製ピストルのニュースが世の中を賑わしていた頃、入社してすぐの私が最初に触れた3Dプリンタは「ZPrinter※」という石膏造形機でした。


いまだに銃っぽい部品は身構えるときがあります。(クリックで拡大)

限りなく見た石膏のチャンピオンモデル。(クリックで拡大)

器用かつ丁寧に使えばそこそこ見栄えのいいものを作れるが、強度はとても低くて、まさかピストルが作れるはずもありませんでした(※Z Corporation社は当時すでに3D Systemsに買収された後で、Projet x60シリーズとしてリブランドされていました)。
強度が低い素材しか扱えない機械ではありましたが、フルカラー造形ができるなかなかユニークな機種ではありました。

この機械で生産するものは、人物フィギュア、キャラクターもの、建築物模型、デザインレビュー用のモックアップなんかが精一杯でしたが、FDMに比べれば造形速度も比較的高速※だったこともあり、また、「3Dプリンタで作った」こと自体に未だ新鮮味のある頃でしたから、キャンペーン景品なんかに使っていただいたりもして、作ったものがテレビに出たことも一度や二度ではありませんでした。

誤解を恐れずに言えば、3Dプリントバブルのスポットライトがよく当たる場所にいられたと思います。話の種には困らなかった時期です(※石膏モデルは造形自体は高速でも、けっこう大変なポストプロセスがあるんですけどね…)。


いかにも広告的な案件、これはなんかめっちゃバズってました。(クリックで拡大)
 


●3Dプリントは製造業のためのもの?

さて、過去から現在に至るまで、3Dプリンタは工作機械であるというコンテクストが存在します。私も、機械の構造や技術的結節、SubtractiveではなくAdditiveであるという言葉の意味する部分からして、その分類は間違っていないと思います。

が、如何せん、その時私の前にあったのは石膏を固めるマシンです。私の3Dプリントキャリアの半分は、石膏に色を染み込ませながら、いかにして見栄えのいい”ハリボテ”を作るかに費やしてきました。見栄えのいいハリボテを作ることもまた製造業に違いないはずですが、航空機の部品も建築模型もどちらも「3Dプリンタで作成した」というのはさすがに、あまりにも言葉の幅が広いと思います。

きっと誰かが3Dプリンタという名前を付けた頃、「3DプリントとはAdditiveな製造アプローチである」という一点においてのみ、すべての3Dプリンタは十把一絡げのように纏めてられていただけで、それぞれの機種ごとにできることも、適したユーザーも、使いこなすために必要な付帯設備もなにもかも異なっていたことがあまりにも伝わりにくかったのでしょう。私はいまだにときどき、3Dプリンタって何でも作れるんだよね? って聞かれます。

●3Dプリンタで何を作っていくのか

3Dプリンタが何でも作れるなんてとんでもない幻想で、もちろん3Dプリントにできることしかできません。より正確には、そのときそこにある3Dプリンタでできることしかできないのです。

ジェネレーティブデザイン的な形状は確かに、3Dプリンタでしかできないかもしれませんが、お手元のFDM機でジェネレーティブデザインされた形状を出力するのはあまり賢いとは言えません。フルカラーの石膏機で実弾が撃てるピストルを作ろうとするのも、正気の沙汰じゃありません。

「金属の3Dプリンタを丸の内のオフィスに置きたい? ええ、不可能じゃないと思いますが、茨の道ですよ…」。住宅街のひと棟だけを爆破解体することが困難なのと同じに、3Dプリント手法もその機材も適材適所、選ぶことが大事です。

爆破解体がセンセーショナルなことと、これも同じに3Dプリントは確かに革命的なのです。今までできなかったことが少しずつ、できるようになりつつあることは確かなことです。以前に比べれば、強度・精度・機能性・生産性を改善した手法や新しい機器が続々生まれていますし、金属3Dプリントもようやっとトレンドらしくなってきたと思います。

3Dプリントであることを生かした製品も、今後もっと増えるでしょう。そして、3Dプリント製品が今も盛んに映画の世界のハリボテ(プロップ)の制作に使われることも、確かな事実です。


●製造業という言葉にとらわれなくてもいいのでは

製造業が3Dプリントをフル活用するには、まだまだ多くのハードルがあると、私は思います。強度・精度・機能性・生産性ももちろんそうですが、そもそも製造業が「3Dプリントを活用してみようか」と考えるときの起点が、ほとんど設計のあとに来ているからです。

すでに他の製造法で作っていたり、作ることを想定した形状・機能の部品をそのまま3Dプリントしても、コストや機能性で劣ることがほとんどです。設計者が最初から、3Dプリンタで作ってみようと考えて、使おうとする3Dプリンタの制約や特性を踏まえて設計すれば、コストも機能も解決できる場合も多いのに。

映画のプロップやキャンペーン景品には、むしろ3Dプリント以外の方法でどうやって生産できるのか? と思うようなデータが数多くあります。また、こういった案件は「3Dプリント」という言葉が社会に出て行く切っ掛けを作ってくれることも多くあります。ですから、エンタメや広告っぽい3Dプリントの活用が今後も続いていけばいいな、と願っています。

センセーショナルなインパクトはもう望めないかもしれませんが、誰の手にも届く3Dプリントがずっとそこにあってほしい。3Dプリンタに興味を持つきっかけが日常のあちこちにあるような世界を、私は空想しています。

異なる2つの価値観が両輪となり、3Dプリンタと爆破解体の明日を拓くと信じて…。




次回の執筆は坪島悠貴さんです。
(2019年9
月23日更新)

 

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