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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第22
金属造形作家が3Dプリンタに出会って

坪島悠貴

美術大学在学中に金工を専攻。打ち出しという彫金技法を応用し銅や真鍮、銀を加工した金属造形作品を制作。現在では彫金技法に加えCADや3Dプリンタを利用し、活動の幅を広げる。変形機構やカラクリ仕掛けを持つ「可変金物」と名付けた作品シリーズを展開している。
https://tsuboyuki79.wixsite.com/website
https://twitter.com/hau9000


 

金属造形作家の坪島と申します。前職でお世話になった岡本さんからのご紹介でコラムを書かせていただくことになりました。

最近では安価な光造形3Dプリンタや鋳造可能なレジンが登場し、出力品を金属にするハードルはだいぶ下がってきたと思います。ただタイミング悪く、そうなる少し前に3Dプリントに手を出してしまった私があれこれ試したことを、本コラムでお話しますので、何かの参考になれば幸いです。

●アナログ人間がデジタルに挑戦した切っ掛け


大学院修了制作の作品「魴鮄」。(クリックで拡大)
 


大学で金工を学び、2013年の大学院修了後もありがたいことにいくつかの展示の機会に恵まれた私は、1つの作品を作るのに時間がかかってしまうこともあり、展示のたびに締め切りに追われる日々でした。


マンマルコガネをモチーフにした作品「可変蓮華黄金」。手作業のみで作った変形作品。(クリックで拡大)
 


作品は主に「打ち出し」という、銅板などを鏨(たがね)で叩いて立体的に加工する技法で、生き物をモチーフにした立体作品を作っていましたが、作家としての個性を追い求めるうちに“変形する”という要素をプラスするようになりました。

もともとトランスフォーマーなどの変形ロボット玩具が大好きだったことから、それを作品に取り入れてみようと思ったのですが、それにより作品は複雑化し、制作時間はさらに伸びることになってしまいました。

作品が機構を重視したものに変化していくうちに、周りの方からは3D CADや3Dプリンタの利用を薦められるようになりました。よく利用している鋳造業者でも出力サービスをやっていたので存在は気になっていたのですが、価格が高く、そもそも当時デジタルモデリングはおろかPC操作自体怪しいアナログ人間の私には、とても利用できるとは思っていませんでした。

そんな状態でしたが、作品に取り入れたい要素を手作業だけで実現するのが難しくなってきていた自覚はありました。2015年頃のある日、ふと好奇心から無料の3D CADがないか調べてみた時、運命的な出会いをすることになります。FUSION360という3D CADソフトです。私の3Dプリント人生は、正にこのソフトとの出会いから始まったといって過言ではありません。

苦手なりになんとか操作を覚えるうち、このソフトなら私のやりたいことが実現できると確信を持つようになりました。一瞬で作れる左右対称や正確な製図、そしてわざわざ型紙など作らなくてもデータ上で可動検証などが行えてしまうのは、1つひとつ手作業でパーツを作っていた当時から見れば正に夢のような話です。

●金属を3Dプリントするまでの試行錯誤


ソフトをある程度使えるようになった頃、いよいよ作品制作にも導入することにしました。そこで初めて3Dプリントにも挑戦することになります。 3Dプリントにおける大きな問題はやはり金額。しかも出力品を金属にしなければなりません。


金魚から鶏に変形する「可変金鶏」。外装となる赤い部分は手作業、グレーの内部骨格は3Dプリント。(クリックで拡大)

(クリックで拡大)


3Dプリント初挑戦の1作目で利用したのは、彫金や歯科技工向けの鋳造業者のサービスで、おそらく「3Z PRO」という機種による出力でワックス素材を一層ずつ積層していく方式でした。

サポート跡が残らず鋳造も確実ですが出力価格が高額でしたので、徹底的にパーツ数を削りサイズも抑えるなどして予算内に収める必要がありました。結果、設計の幅は限られてしまい、そうまでしても1作品に約10万円の出力費がかかったと記憶しています。彫金関係での3Dプリントの用途は基本的に指輪やペンダントなど小型で単品ものの出力ですので、そもそも部品が多くなる前提の変形作品に使うのは無謀でした。


「可変卵鳥」卵からペンギンに変形。アクリル出力の原型を型取りして制作。(クリックで拡大)

(クリックで拡大)


2作目ではアクリル出力を試すことにしました。機種は「Projet 3500HD」。そのまま鋳造はできませんが、1作目に対して桁違いに安価でした。前者で15万円かかるデータが1万円以下での見積りです。

光造形のような柱状のサポートは付かない反面、サポート面が荒れてしまうので磨くなどして処理する必要があります。アクリル出力された原型を型取りし鋳造可能なワックスに置き換えるという方法で金属にしましたが、形状によっては型取りの際に歪みが出てしまうことがありました。

他にも「Projet CPX 3500 MAX」は3500HDに近い品質の出力品を直接鋳造できるという優れものでした。価格もアクリルよりは高額ですが桁違いまではいきません。しかし積層やサポート跡の処理を金属になってからやらないといけないので複雑な形状の場合はやや手間です。出力された樹脂は非常に脆いそうなので鋳造前に仕上げるのも難しいでしょう。


表面処理したアクリル原型。(クリックで拡大)


いろいろ試した結果、現在はアクリル出力品を型取りする方法に落ち着いています。寸法精度に関してはかなり正確ですし、型取りや仕上げを考慮した設計ができればコストや手間、仕上がりの綺麗さのバランスは一番とれていると思います。

●今後の期待

妄想ということで好き勝手言わせてもらうなら、金属3Dプリンタのハードルが個人レベルで使える程度に下がるといいなと思います。現時点でもサービスを行っている業者はありますが、より低コストかつ実用的な精度で地金の種類も選べるようになったりしたら最高です。

現状の方法で作れる形状には鋳造や型取りを考慮した制約があります。それらがなくなりもっと自由に作れるようになった時、3Dプリントで作品を作る本当の意味が見出せると思います




次回の執筆は小林武人さんです。
(2019年10
月11日更新)

 

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