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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第26
さらなる低価格化とフルカラー出力の進歩に期待

加茂恵美子/デジタル原型師

2000年頃から独学でCGを始める。静止画、3D CGソフトの解説書の執筆などを手がけ、現在はフリーランスで主にデジタル原型の仕事に携わっている。
twitter
https://twitter.com/emikokamo


 


●3Dプリンタのこれまで


3Dプリンタの未来を妄想する、という内容を聞いたとき、まず思ったのが「未来を妄想するには過去を振り返ろう」でした。ですから、まずはこれまでの私と3Dプリンタの関わりや感じたこと、それから今を述べさせていただきたいと思います。

初めて3Dプリンタに接したのは2011年頃だったと記憶しています。それまで私は3D CGを使った静止画を中心に作品を制作していたので、モニターの中にしかなかったものが手に取れる物になったとき、ちょっとした衝撃でした。「未来が来た」と思ったものです。某猫型ロボットがポケットから出す秘密道具かと。実際には、そんな手軽さはなく、静止画を作るときとは違った知識や技術も必要でしたが。

それでも、モニターの中のものが手に取れる物になる魅力にとりつかれて、仕事でもプライベートでも3Dプリンタで出力できるデータを作成することが多くなり、私の活動に大きく2つの流れができるようになりました。
その1つが、フルカラー石膏出力で一点物(ないし少数)のフィギュアなどを作ること、もう1つが、出力物を原型にして複製することを前提とする物を作ることです。

後者の方は、仕事の他に個人的にワンダーフェスティバルなどで複製した物を展示販売するなどするようになりました。その時に利用していたのは、精度や強度面から、出力業者を通してProJet 3500HD Maxという機種で出力しておりました。これがなかなか、出力費が高くつくのが辛いところでした。

前者の方は、仕事ではペットのフィギュア化などを多く手がけていましたが、プライベートでは平面の情報しかないものを立体にする面白さから有名絵画の立体化などに挑戦しておりました。ここまでが、「これまで」です。


筆者の作品から。立体模写、ムンク「叫び」。フルカラー石膏出力。(クリックで拡大)


筆者の作品から。立体模写、フェルメール「真珠の耳飾りの少女」。フルカラー石膏出力。耳たぶ部分にビーズパーツを装着するための穴が開いている。(クリックで拡大)


●現在の状況


そして、「今」ですが、まず原型用の出力がずいぶん変わってきました。いまでは「Form2」など個人でもなんとか購入できる価格帯の3Dプリンタで、原型に耐えうる物が出せるようになってきています。結果、プライベートでは以前に比べると比較的お安く出力物を手に入れることができるようになりました。普及と低価格化、わずか10年ほどでずいぶん状況が変わってきたと感じます。

フルカラー出力も、石膏では強度が不安であったり、発色がもうひとつ…と思うことがあったのですが、ミマキエンジニアリング社製フルカラー3Dプリンタ「3DUJ-553」で出力してもらうようになりました。石膏の頃に比べて色は想定通りの色が出ますし、何より透明が出せるのが凄い。作品の幅が広がりました。

特に、ミュシャの「黄道十二宮」の立体模写は、数年前石膏で出そうとしましたが、髪の毛の部分の細さから強度面での不安があり、一度断念したものでした。それが無事出力することができ、技術の進歩を感じました。


筆者の作品から。立体模写、ミュシャ「黄道12宮」。フルカラー樹脂出力。
(クリックで拡大)


筆者の作品から。同作品。冠の宝石など透明で表現されている。まつげなど細かいパーツも出力されている。(クリックで拡大)


筆者の作品から。オリジナル作品「金竜」。透明を使って水などを表現。(クリックで拡大)



●3Dプリンタの未来

さて。ここからがやっと未来です。ここまでの流れから私が妄想する3Dプリンタの未来は、まずはさらなる低価格化と扱いやすい機種の登場です。原型に耐えうる出力ができる3Dプリンタにも現状いろいろありますが、手軽に扱えるものはやはりちょっと高い。手が出しやすい価格のものはそれなりに知識や試行錯誤が求められる場合があるのが現状だと思うのですが、そのハードルはもう少ししたら越えられるのではないかと思います。この10年ずいぶん前進したのですから、あと数年もすれば紙のプリンタを買う感覚で3Dプリンタも買って使えるようになって欲しい…と思います。

もう1つの未来はフルカラー出力の進歩です。石膏、樹脂と来て、ずいぶん進歩を感じましたが樹脂の方、さらに精度が上がって、そのうち、商業フィギュアの彩色見本の代わりになる日が来るのではないか…と思います。すると、デジタル原型師の他にデジタル彩色担当の人、というのも現れるのではないでしょうか。手作業からデジタルへの移行…という流れは、
もしかしたら原型だけではなく彩色の方にも来るのでは? という私の妄想です。ここまで短期間で進歩を感じられた3Dプリンタだからこそ、妄想は絶えません。

最後に、3Dプリンタがなければ、フィギュアの原型を作ったり絵画の立体化などに挑戦しようとは思わなかったと思います。3Dプリンタは、私のような「フィギュアや造形作品を作る人」の層を増やした、とも言えます。そもそも、3Dプリンタも初期は工業製品の試作目的で使われることが多く、その頃は私のようにフィギュアやアート方面の用途で使われるようになるなど、想像してなかったかもしれません。これから、どんどん、フィギュアやアートの方面で3Dプリンタは活躍することと思います。作家の層もきっと裾野が広がることでしょう。10年後、20年後が楽しみです。



次回の執筆は大上竹彦さんです。
(2020
年2月13日更新)

 

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