●私と3Dの出会い
「3Dって難しそうだしよく分からない」。
小さい時からイラストばかり描き、2Dの世界に没頭していた自分にとって、フィギュアなどの立体物は、遠い世界にあって私とは縁のないものだと思っていました。
とは言え、海洋堂のガチャポンフィギュアを集めたり、父の部屋にある『S.I.C.匠魂』シリーズのフィギュアを眺めることは大好きだったので、造形にまったく興味がなかったわけではありませんが、自分で作ってみようと図書館の本を見ながら粘土と向き合ってみても、なかなかうまくできませんでした。
まず針金にアルミホイルを巻いて芯を作るのですが、その段階で思うような形にならず苦戦。何とかそれっぽい形になった芯に粘土をくっつけていきますが、粘土がアルミホイルごと剥がれたり、せっかく作ったところをうっかり触って形を崩してしまったり。
なんとかできたものは左右非対称な、呪いの人形のような出来でした。今の私が挑戦したらもう少し良いものができるかもしれませんが、当時10才の私にとってはかなりショッキングな経験でした。
転機が訪れたのはイラストを勉強するために進学した、大阪総合デザイン専門学校でのことでした。担任の先生の勧めで選択したデジタル造形の授業。その授業で出会った、帽子と眼鏡と笑顔が素敵なワクイアキラ先生という講師、ZBrushというモデリングソフト、そして学校にあった3Dプリンタ(From2)のおかげで3Dの世界に足を踏み入れることになりました。
大阪総合デザイン専門学校でForm2に触れる。(クリックで拡大)
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ところで、なぜ私が「3Dってなんか難しそう」と思っていたかと言いますと、
・360度、破綻のない形にしなければならないよな~?
・磨いたり塗装したり複製したり、過程が多くて大変そうだし、専門知識がいっぱいるんじゃないのかな?
この2つが大きな理由だと考えます。
実際、ちょっとしたキャラクターであってもこの工程は必要で、気軽に始めるにはハードルが高く感じました。専門学校でワクイ先生のZBrushの授業をうけ、経験を積んでいくことで、ある程度破綻のないモデルを作れるようにはなりましたが、専門知識についてはなかなか学ぶことはできませんでした。
●2次元と3次元をつなぐ
現在私はロイスエンタテインメントという3Dデザイン会社で、3Dデザイナーとして働いています。お客様から依頼をいただき、3Dのモデルを作る、というのが自分の仕事です。
ロイスエンタテインメント社内より。制作見本が並ぶエントランスホール。(クリックで拡大)
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ロイスエンタテインメントで用いている3Dプリンタ「guider2」。20台近くあり、フル稼働することも多い。。(クリックで拡大)
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3DモデルをWebやシミュレーション用途で使いたい、といったデータ上で完結する要望もありますが、多くの場合はなにかしらを実物の「モノ」として作ってほしいという内容です。
ペットの造型。ペットの写真から3Dモデルを起こし、着色後フルカラー3Dプリンタで出力する(クリックで拡大)
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人物の造型。ペットと同じく写真から3Dモデルを起こし、着色後フルカラー3Dプリンタで出力。(クリックで拡大)
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なかでも自分が手掛けている依頼はキャラクターのデータ制作が多いです。ちょっとしたゆるキャラだったり、キモカワ系のキャラをイラストから制作したい、しかも色を付けてほしいということがほとんどです。
会社に入ってから初めて「フルカラー3Dプリンター」というものの存在を知りました。作ったデータに色を付けて出力すればその色がそのまま、3Dプリントに反映される、つまり塗装がいらない!? データで同じものを出せるから複製もいらないし、なんなら磨くのも必要ないじゃないか…今まで私がエベレスト登頂しなければと思っていたのが、実は剣山(標高1,955m)登頂でよかったのか…くらいの衝撃をうけたことを覚えています。
そんな魔法のような3Dプリンタで、キャラクターの色付きデータを出力すれば、色のついた実物のキャラクターを作ることができました。
イラストから3D出力した例。(クリックで拡大)
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従来の手法で必要とされた多くの過程をとばせるので、造形物の完成までが速く、また小さいものであれば比較的安価にお客様の元へ届けることができるというのはすごいことだと思います。
とは言え、フルカラー3Dプリンタには積層線の目立ちや発色のムラなどまだまだ課題はあると感じました。手造形での過程がいかに大切で難しいかというのを痛感する課題ではありますが、これから先もっと改善されていけばいいなと思います。
●3Dプリンタのある未来
私自身、元々イラストばかり描いていて3Dに触れたことのない人間でしたが、1つのソフトを使うことができれば造形ができて、データをフルカラー3Dプリンタに入れれば簡単にモノができる。そんな時代が訪れているのは素晴らしいことだと思います。モノを作ることへのハードルが下がることで、造形の世界以外から気軽にいろんな人が入ってきて、いろんなアイデアが生まれていくといいなと思います。
そんなミマキのフルカラー3Dプリンタ、いつもお世話になっておりますが、ゆくゆくはお家で稼働させたいです。
頑張ってお金をためて、まずはこの3Dプリンタ(外形寸法 2,250mm×1,500mm×1,550mm)が入る3LDKくらいの家に住みたいですね。本体、インク、その他もろもろの合計金額…が払える頃には多分私は80歳くらいになっているのではないでしょうか。
ということで、できれば今の1Kの家でも設置できるように小型化、あとはもう少し価格が抑えられるとうれしいです。
以上が私の、3Dプリンタへの希望と妄想でした。最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の執筆は下岡英司さんです。
(2020年6月17日更新) |