今回、下岡先生よりご紹介を賜りコラムを書かせていただくことになりました、ジュエリーデザイナー、玩具原型師、企業コンサルをやっております小林康之と申します。
●3Dプリンタの活用
我々ジュエリーデザイナーにとって、3Dプリンタは今やなくてはならないものになっています。Rhinocerosなどの3D CADソフトを使って作ったものを立体で確認、修正 地金に置換していきます。
以前は頭に浮かんだものをワックスやシルバーなどで原型を作りだすまで、立体として手に取ることができませんでした。3Dプリンタが登場したことにより比較的早く頭の中のものを思った通り立体化できるようになりました。
●3Dプリンタとの出会い
私は1991年からジュエリーデザインを学ぶために香港へ渡りました。当然その頃は原型はワックスやシルバーで作られていました。工場へデザイン画を渡し思い通りになるまで何度もやり取りする時間がもったいなく感じるようになり、自宅でワックスの勉強をしてワックスを職人さんへ渡すようになりました。とはいえその作業にも結構な時間が取られ、すべてを自分が作るなんてことは到底できません。
アメリカの展示会へ出張したときにパソコンでデザインし特殊な機械で出力しているのを見かけ、これだ! と思い、いろいろと調べ始めました。当時はソフトを個人が購入するにはとても敷居が高く断念しました。それから5年ほど経った頃にShadeという3Dソフトにめぐり会い試行錯誤を重ねました。そして、松村金銀店さんにジュエリーデザイン用にカスタムされたRhinocerosというソフトがあると伺い、すぐにとんでいき勉強させていただきました。これが20数年前の話になります。松村金銀店の加藤社長、ありがとうございました。
その後すべてのデザイン作業はデジタルに移行することができましたが、アウトプットする3Dプリンタがまだまだ高額な上、ガタガタの表面処理に時間がかかることもあり、手を出せずにいました。
当時は切削機がよいと聞きローランドさんから発売されていたMDXを即購入しました。表面はとてもきれいでまたワックスを加工できそのまま石膏で型をとれるのですが、どうしても逆テーパーや斜めからの切削ということができず、思い通りの形状ができるとはまだまだ言えませんでした。
途中FDMの3Dプリンタを使ってさまざまな研究をしましたが、ジュエリーに使うことは出来ませんでした。
そんな時、中国工場でインクジェットタイプの3Dプリンタを買うことになり、出力問題をクリアできるようになりました。当時ワックスライクの出力物を出せると言うことで非常に感動を覚えました。
●低価格になってきた光造形タイプ
2010年を超えたあたりから光造形機が比較的低価格になり、100万円を切る製品も出てきて、すぐに「B9 Creator」と言う3Dプリンタを個人で購入しました。自分が慣れていないのもありこの機械は当時かなり苦戦しました。
また当時ジュエリーよりも大きな玩具などの原型のお仕事を徐々にいただきはじめていたのでB9ではサイズが足らず、精度の高いFDM機「Qholia(クホリア)」を購入しました。これはFDM機なのにとてもきれいに出力され、「Form2」を購入するまではメインの出力機として活躍してくれました。比較的成功率の高いQholiaとForm2を手に入れたことにより、趣味の造形がどんどん増えていきました。もちろんForm2はジュエリーにも使えるレベルのものを出力することができ非常に重宝しました。
ここ数年は3Dプリンタが低価格で販売されるようになったので、片っ端から購入し研究いたしました。ジュエリーの原型として出力するために高級な3Dプリンタを買う必要はなくなりました。わずか30,000円ほどの3Dプリンタでも原型を出すことが可能となりました。
この頃から趣味の造形もすべて3Dに移行しました。3Dプリンタを使っての趣味の造形は当初アナログ原型の人たちの受けは良くなく、かなり批判的だったのを覚えています。よくズルいと言われました(笑)。
私個人はあくまでも道具の1つと思っておりましたので気にせずにどんどんと進めていきました。以前あんなに批判的だったフィギュア原型師や宝飾原型師が現在こぞって3Dを活用し始めたのは良いことだと思います。
当時いち早く100万円を切った光造形3Dプリンタ「B9Creator」。 |
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FDMながら精度の高い3Dプリンタ「Qholia」。(クリックで拡大)
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●当時の海外と日本の3Dデザインに対する考え方の違い
私は1996年頃から中国と香港を行ったり来たりしている時期があったのですが、広州は夜の飲茶と言うものが盛んで、当時よく飲茶に出かけました。2010年頃でしょうか、23時頃、寮に帰る間にうなぎの寝床のような一見ゲームセンターのようなところでたくさんの人がパソコンの前で何かをしているのを見かけ覗いてみました。
そこではなんと3D CADを勉強していたのです。当時3D CADを使えると3倍以上の賃金がもらえるので、皆寝る時間を惜しんで真剣に勉強していました。
その当時日本ではまだまだ3Dデザインと言うものを理解できる人が少なく、仲間のデザイナーや職人、フィギュア原型師たちに話しても興味を持たれることはほとんどありませんでした。あーこれはいずれ日本は原型製作部分で確実に中国に抜かれるなと思ったものです。ここ5年ほどになりやっとで一気に日本でも3Dに移行し始めました。
●3Dプリンタがあったからこそ生まれたキャラクター
弊社の名前「PAWRETTA」は、実はローランドさんで主催された「2011 CREATIVE AWARDS」で最優秀賞をいただいた私のキャラクターの名前です。これはスクーターがメイドロボに変型します。これもRhinocerosで設計しMDXで出力したものです。
オリジナルキャラクター「PAWRETTA」。(クリックで拡大)
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「2011 CREATIVE AWARDS」で最優秀賞を受賞。(クリックで拡大)
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「PAWRETTA」はスクーターがメイドロボに変型する。(クリックで拡大)
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「PAWRETTA」を構成するパーツ
。(クリックで拡大)
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また、キャラクター「みかんかっぱ」は、幸いなことに世界で活躍させていただいています。2011年のある日、急に頭の中にみかんとかっぱが結びつき新しいキャラクターが誕生しました。
それが「みかんかっぱ」と言うキャラクターです。これはいけると言う感触があったので、すぐに3Dデザインし3Dプリンタで出力してみました。これをソフビにしてワンダーフェスティバルと言う海洋堂さん主催のイベントで販売したところ非常に評判が良く、すぐにさまざまな展開をすることになりました。
みかんとかっぱが結びつき生まれた新しいキャラクター「みかんかっぱ」。(クリックで拡大)
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みかんと「みかんかっぱ」。(クリックで拡大)
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ワンフェスなどでも販売。(クリックで拡大)
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その後さまざまなキャラクターを考えては3Dプリンタ出力すると言うことを繰り返し、どんどんキャラクターが増えていきました。3Dプリンタがなければこんなに開発できたかどうか分かりません。
●3Dプリンタに期待すること
最近は格安の光造形機が数多くありますが、正直、紙のプリンタのように誰でも出せるとはいいがたく(かなり良くなりましたが)、まだまだ知識が必要です。
追い込めばすごいものがプリントされるのも面白いですが、仕事上、ボタンを押したら問題なく出力できるというのが理想です。低価格機でこれができるのも時間の問題かと、楽しみにしています。
(2021年3月26日更新) |