●3Dプリンタ前夜
1980年、まだ「(美少女)フィギュア」というジャンルが認知されていなかったため、フィギュアを広めようと啓発活動を開始。武蔵工業大学の学生時代から、フィギュアモデラーとして模型誌ホビージャパンやモデルグラフィックスなどでフィギュアの作例制作と記事執筆に明け暮れる。
フィギュアモデラーサークル「OFF」を作り、ガレージキットや同人誌「OFF WORKBOOK」の販売等でフィギュアの啓発活動もいよいよ佳境に。
そんなんだから当然留年、なんとか卒業するも就職せずにデザイン学校へ入学。この頃にはフィギュアも認知され、各地にフィギュアモデラーも台頭してきたのでモデラーから原型師にクラスチェンジ。
1988年、玩具企画会社ウイズから原型師として誘いを受け、デザイン学校は中退して入社。時代の流れで原型師からゲームデザイナーへジョブチェンジ。ボードゲームやファミコン、ゲームボーイ、スーパーファミコンのゲームを制作。1992年、ウイズを退社し、フリーランスのゲームデザイナーとして活動。1996年「たまごっち」を古巣のウイズと共同開発するが、自身は儲からないというなんとも残念な結果に。
その反動ではないが、元祖MMORPG(大規模オンラインRPG)の「Ever Quest」に移住し、ゲームデザイナーを辞めて魔法使いと原型師の二足の草鞋を履く生活を始める。魔法使いとしては4年ほど電子空間の中で暴れた後、引退。原型師としてはビネットフィギュアやボトルキャップフィギュアの原型を多数制作。2007年、原型制作会社エムアイシーから誘いを受け、プロデューサーとして入社…現在に至る。
●出会い
しばらくゲーム業界にいた私がフィギュア業界に舞い戻ったのは、2000年あたり。日々楽しく原型を作っていたところ、あれは2005年くらいだったか、なんだか等高線(積層痕)のついた樹脂製の造形物を見せられ「3Dプリンタという機械で作ったものだが原型として使えるか?」と。いやこんな等高線で凸凹してちゃ原型になるわけないじゃん何言ってんの!と突っぱねました。
等高線はこんな感じ(写真は当時のモノではありません)。(クリックで拡大)
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それから約2年後、エムアイシーという原型制作会社から誘いを受けます。ホイホイ入社してみると社内になにやら大きな機械が並んでいますよ?…3Dプリンタでした。って前に突っぱねたの作ったとこ、ここかーい!
デジタル造形+3Dプリンタでの原型制作は玩具業界においてはエムアイシーがパイオニアとのことでした。PC上でデジタル造形し、出力物の積層痕やサポート跡を手作業で処理し、鋳造用原型として仕上げていく基本的な工程は昔も今も変わりません。エムアイシーでは、3Dシステムズ、エンビジョンテック(EnvisionTEC)、ストラタシスなど、各社の3Dプリンタを用途に応じて使い分けており、現在まで延べ20台くらいを使ってきています。
現在の本社機械室。(クリックで拡大)
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当時はまだZBrushなど存在せず、FreeFormという個人ではとても購入できないほど高額なデジタル造形ソフトを使っていました(今もZBrushと並行して現役です)。
FreeForm。反発力を感じるマニピュレータ付き。(クリックで拡大)
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アナログで造形してきた原型師にとって、デジタル造形に移行するのはなかなかハードルが高かったですが、仮想空間内の作業でリアルに反発力を感じることのできるFreeFormは良い感じだったのです。ちなみに私自身はエムアイシー入社後、原型は制作せずにプロデューサー役を務めています。
●出会い2
さて月日は流れ、2015年。どこだったか3Dプリンタの代理店が「金属出力するやつありますぜ?」。お? ひょっとしてそれ金型とか作れる? 作れるの? でも当然積層痕が出るよね出ますよね…これ磨くの無理よね無理だよねハイ残念!が、3Dプリンタの進歩は凄まじく、ほどなくして積層と切削を同時に行って滑らかな加工面を作れるタイプが登場、よしこれだ買った! いや実際に「買った」まではいろいろあったんですが、それでも購入決定して国内自社で金型作るぞ、と。メイドインジャパンだぞ、と。
さあもう後へは引けない。買った金属3Dプリンタと、前から使っているインクジェット印刷機複数、あと事務所に倉庫スペース…。これ設置する場所がないどころか、小さい工場建てなきゃですよね? ということで場所探しです。
近場に廃工場とかいくらでもあるだろなんて思っていたらそんなことはなく、条件にあった場所が全然見つからない。刻一刻と近づくプリンタの納品日。
やばい、間に合わない…ので手頃な倉庫を借りて工場に改築することにします。ところがこれまた大変で水回りはないわ電力は足りないわ壁は薄いわ空調はしょぼいわと、まぁ倉庫なんで当然なんですが。とにかく電力が全然足りません、どうすんのこれ? え? 電柱建てるの? マジ!? ど~ん!
燦然と輝くマイ電柱(敷地内)(クリックで拡大) |
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そして2018年、めでたく製作所が完成し、造形~金型~成型~印刷~製品まで一気通貫で行えることになったのです。
クワガタはエムアイシーの親会社ですぞ。(クリックで拡大) |
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しかし金属3Dプリンタといってもいきなり金型が作れるわけはなく、さまざまな補助機械や、もちろん人材も必要です。樹脂を射出成型する金型なので流体力学的な勘所などノウハウも必須だし。
オリジナル商品を作るんだから在庫管理や販売…そうだよ販売どうすんのよ! ウワー課題山積みじゃん! …なんて言ってる場合じゃないので皆で頑張りましたし、良い人材にも恵まれました。
●誕生
それから3年…。
いろんなことが…ありました。
そして…生まれた!!
妖精ピコ((C)M.I.C.Corp./ Keisuke Hirota)。(クリックで拡大)
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3年間で培ったノウハウを注ぎ込み、小さな妖精が生まれました! もちろん原型制作会社という土壌と立体物にインクジェット印刷を施す技術があった上でのことです。製品までの流れを追ってみましょう。
FreeForm造形。なにはともあれまずは原型。原型師の腕の見せ所。(クリックで拡大)
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このタイプは2台所有。バランスを見るために仮出力します。。(クリックで拡大)
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仮出力品。すでに可愛い。ここで造形的な微調整を行います。(クリックで拡大)
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分割したパーツをランナーに配置。このパートはかなりノウハウあります。熟練の設計技術者あっての技。(クリックで拡大)
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これが金属3Dプリンタだ! (クリックで拡大)
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絶賛金型作成中。これは妖精ではなく飛行機を掘った時の写真です。(クリックで拡大)
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完成した金型。後加工で突き出しピン作成や翅の磨き等やってます。熟練の金型技術者あっての技。(クリックで拡大)
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成型機。金属3Dプリンタで製作した金型専用の射出成型機です。(クリックで拡大)
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成型品。PVCとクリアABSの2枚セットです。(クリックで拡大)
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印刷完了! 顔や翅にインクジェット印刷を施しました。(クリックで拡大)
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パッケージ。台紙を作ってパッケージングして製品完成! こうして作ったMICオリジナルシリーズは「プリプラ(R)」として展開しています。(クリックで拡大)
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プリプラ(R)。妖精ピコが生まれるまでに、さまざまなアイテムをたくさん作りました。(クリックで拡大)
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3年間の蓄積。まだまだ増やすよ! (クリックで拡大)
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●まだ見ぬ未来へ
3Dプリンタがさまざまに普及していくにあたって、出力物の耐久性能は重要なファクターになってくるのかなと思います。
風雨に耐えるもの、紫外線に耐えるもの、海水に耐えるもの、腐食に耐えるもの、数十年数百年の間、耐久可能な出力物。土に還るもの、海に還るもの、紫外線で分解するもの、環境に配慮して数年で朽ちる出力物。
これらが自在に出力できるようになれば、3Dプリンタは一部の職業人の手から人類全体へと広がっていくのではないかと。
●妄想アイテム2021
◎スマプリ
スマホサイズのハンディ3Dプリンタ! レーザー照射で造形思いのまま! 手に持ったプリンタから射出されるレーザーを材料に当てていくことで造形されていきます。綺麗に造形するには上手にレーザーを当てるテクニックが必要なので、ゲーム感覚で楽しく出力!どなたでも扱えますが、上達するには練習あるのみ! …売り方としては3Dプリンタではなく、ハンディ彫刻機の方が良いかな?
◎デジタルシェフ
三ツ星シェフのアノ料理が美味しさそのまま自宅でプリント! データと食材のセット販売です。2食目以降は食材を近所のスーパーで代用してもOK(味はまぁそれなりに)。…これスタートレックのフードレプリケーターですが、昨年末に発表されたVAM方式というのがトリガーになっていつか実現する予感。
(2021年4月9日更新)
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