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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第34
オリジナルフィギュアと
3Dプリンタ

藤本圭紀/商業フィギュア原型師・造形作家

大阪芸術大学彫刻科卒。2007年株式会社エムアイシー入社。商業原型を手掛つつ、2012年よりオリジナルフィギュアのデザイン・造形を始める。2017年よりフリーランスとなる。美少女から怪獣まで、幅広くも隙のない造形を目指して活動中。
https://twitter.com/YOKKI_munchkin_

 

●初めてのデジタル造形と3Dプリンタ

私がデジタル造形と3Dプリンタに出会ったのはエムアイシー入社の頃で、もう10年以上前になります。そのころはまだまだデジタル造形黎明期と言える時代。フィギュア業界=アナログ造形が常識だった当時、すでにデジタルを導入していたエムアイシーの先見には今更ながら驚かされます。

当時のメイン使用機器は「EnvisionTEC Perfactory」で、造形精度としては近年とほぼ変わらないクオリティでした。3Dプリンタを使うには当然データが必要です。そのデータを作成するために使用していたのが「Geomagic Freeform」。こちらは画面上の造形物に触れると実際に感触が得られるデバイスを用いた、まさに未来のアイテムでした。

そんな中でも私自身はまだまだアナログ造形が主体。元々が粘土好きかつ模型やガレージキットを嗜んでいましたので、2012年より開始したオリジナル作品も当初はすべて粘土造形でした。

理由はまずアナログで根本的な造形力を養いたいという思いと、デジタル造形のフローを個人で完遂するにはまだまだハードルの高い状況だったということが挙げられます。3Dソフトや3Dプリンタなど、とてもじゃないけど個人で手の届くものではなかった…高かったんですねぇ~何もかも。


「みならいウィッチ~THE GREAT PUMPKIN~」(2016年制作)。粘土などを使用したアナログ造形では今のところ最後の作品。(クリックで拡大)



●ZBrushとForm2の登場

そこへ登場したのが「ZBrush」。厳密に言えば以前から知られていたソフトではあったのですが、当初はいまいち馴染めませんでした。操作性や使い勝手がFreeformと大きく違うため、敬遠してしまっていたのです。

そんな中、当時後輩でもあった大畠雅人氏がZBrushを使い素晴らしい作品を次々と産み出し始めます。同じ頃に出始めていたForm2もいち早く導入、まだまだ未来の物語だと思っていた「個人でのデジタル造形フロー」を実現している姿に大きな衝撃を受けました。それと同時にZBrushでの造形への抵抗もなくなり、個人的に購入。使い始めこそチンプンカンプンでしたが、なんと言いますか「つかめた」感覚を得た瞬間がありまして、非常に興奮したのを覚えています。

私はとにかくトライ&エラーを重ねて造形していくタイプなので、アナログ特有の「待ち」時間を大幅に短縮できる便利さに大きな可能性を感じました。


●確立したデジタル造形

2017年よりフリーランスとなり、以後は完全にデジタルメインとなりました。商業原型での打ち合わせもオンラインでの画面共有で行うことができるので非常に便利。またクライアント側も、以前は飲みこんでいた「あとほんっっっのちょっとだけこうしたい…」という意見を言いやすくなったようです。

オリジナル造形に関しても完全にデジタルに移行しました。行き当たりばったりな造形もありますが、キャラクターデザイン的な要素の大きい作品の場合はまずラフスケッチからおこす場合が多くなってきました。必ずしもラフ絵の通りに作るわけではありませんが。

デジタル造形はあらゆることが可能なので、選択肢が増える分、迷うことも多いのです。そうなってくると決断との勝負なので、ラフスケッチは迷わないための道しるべですね。

ファーストインスピレーションからすぐに実行に移せるデジタル造形のフットワークの軽さ、これはもう何事にも代えがたいものがあります。そして3Dプリンタで出力・完成までたどり着くと、毎度のことながら「これが自宅でできるのか…」と感動してしまいます(笑)。


「City of cats」(2020年制作)。左からラフスケッチ→3Dデータ→3Dプリンタ原型→彩色完成品。ラフスケッチのおかげで大きく迷うことはありませんでした。当然「こうすれば良くなる」という可能性が見えればデザイン変更はためらいません。彩色検証がデータ上で行えるのもデジタル造形の大きな魅力。(クリックで拡大)


モデリングした3Dデータ(クリックで拡大)




3Dプリンタによる原型(クリックで拡大)


彩色した完成品(クリックで拡大)


●これからのデジタル造形と3Dプリンタ

近年3DスキャナやVRなどの周辺機器も充実し、デジタル造形につきまとう「モニター上のデータと出力物との差異」問題にも少しの光が射し始めています。

誰でも造形が始められるようになった分、オリジナルに限らず「何をどう作るか」という部分が重要になってきている昨今。それでも単なるアイデア勝負だけに終わらず、立体物として魅力あるものを目指していきたいものです。

3Dプリンタに関しては、やはり多くの方が望んでいる、「出力後の洗浄・仕上げが不要」なプリンタの登場が待たれます。それでいて安価であり、かつ長期的に安定した出力が可能であること。現状の家庭用3Dプリンタはメンテナンスも含めて取扱いがなかなか大変。マシン自体の「ゴキゲン」次第で、仕上がりに大きな差が出ます。苦労して制作したデータの出力がうまくいかない時のストレスは相当なモノです(笑)。

そしてもう1つは、ガレージキットの基本素材であるウレタン樹脂や、市販フィギュアによく使われているPVCのような物性のレジンが登場しないかなぁと。プリント後も気兼ねなく加工できる、モデラーライクな素材といったところでしょうか。経年劣化が少なく、熱や溶剤に強い素材。

私もやはり根っこは「模型少年」ですので、そんなホビーライフを満たしてくれる3Dプリンタの登場を願ってやみません。


「Take your time」(2021年制作)。今のところの最新作。Zbrushで制作後にForm2で出力。オリジナル作品はレジンキャスト(ウレタン樹脂)で量産、ガレージキットとしてワンダーフェスティバルや通販で販売しております。(クリックで拡大)


そして…次回作のプリントが完了! ここまでくればとりあえず一安心。しかしこれはまだまだ通過点で、この後のチェックでおかしい点があればデータ修正・再出力と可能な限り煮詰めます。その後はサポート除去・磨き仕上げという過酷な工程が待っています…。(クリックで拡大)





次回の執筆は大畠雅人さんです。
(2021
年5月24日更新)

 

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