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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第38
撮影用の美術セットと
デジタル造形

土江田賀代(どえだ かよ)/映像美術

映像美術(主にコマ撮りアニメの美術)、ミニチュア造形に関わっています。モデリングはRhinocerosを経てfusion360、Zbrushを勉強中。参加作品にNHK連続テレビ小説「スカーレット」タイトルバック、NETFLIXオリジナルシリーズ「リラックマとカオルさん」(ともにドワーフスタジオ)など。

 


●美術セットで3Dプリンタを生かせる時代


コマ撮りアニメを中心に、映像の美術に携わっております、土江田と申します。そうそうたる面々の中、拙いコラムで申し訳ありませんが、しばしお付き合いください。

私がデジタル造形と3Dプリンタに触れたのは、特撮美術に関わっていた頃です。当時会社にあった3Dプリンタは、個人で気軽に手が出せる機械ではなく、出力も不安定で、出力されたものを仕上げながら、これは1から造形した方が早かったのでは…と思うことも多かったです。

そのような状況でしたので、社内でモデリングに特化している方も少なく、予算も合わず、まだまだ実用化には遠い、未来の機械のように感じていました。また建物のセットなど、少し大きいサイズのものを作ることが多かったので、3Dプリンタで造形できるサイズと速度に、まだそれほど魅力を感じなかったのも1つの要因です。

これはすごく魅力的だ、と感じたのはZbrushとform2に触れたときです。モデリングされたものが、精密に安定して出力されている。今では調整すれば普通のことかもしれませんが、その時はとてつもない衝撃でした。

レジンもまだ少し高価ではあるけれど、種類も豊富で、どうしてもと言うものは出力をお願いしていたのですが、モデリングしたものと、実際出力したものではどうしても違いが生じ、手元で調整できたら良いなと思っていたので、Zbrushとform2の登場には、とても興奮したのを覚えています。

●コマ撮り撮影と3Dプリンタについて

コマ撮りアニメでのデジタル造形というと、たくさん並んだキャラクターの表情パーツが思い浮かぶでしょうか。


お世話になっているコマ撮りアニメーションのスタジオ、ドワーフの企画開発中コマ撮り作品の顔パーツ。美術では最終的に、塗装したり表面ディテールを違うもので仕上げたりするため、個人的にはまだカラープリンタに馴染みがないのですが、ドワーフの人形部では、最近デジタルでキャラクターの造形をされたり、アナログで造形、スキャン、カラー3Dプリンタで出力といった方法もとられていて、同じ3Dプリントの技術でも面白いものだなあと思います。(クリックで拡大)

コマ撮り撮影の現場では、作品の違い、スケールの違いから、全部同一サイズで用意しておけばよいということがなく、作品ごとの雰囲気も違うので、造形物を毎回新規で用意します。

また、長編の撮影になると何班もが同時に稼働することになるので、同じ場面を4人のアニメーターさんが東西南北で分かれて撮影したりなど、同じ美術セットや小道具が何セットも必要になります。同じ作品内でも、人形を撮影するセットと、背景の撮影(例えば広大な街のセットなど)のようにスケールが違う場合には、それぞれに合わせて同じように見えるようにサイズを変えた美術セットや小道具を作る必要があります。

また、全体のスケールは決まっていても、キャラクターの大きさによって同じサイズの小道具を持たせると違和感がある場合があり、その都度、大きなキャラクターが持つ小道具と小さなキャラクターが持つ小道具のサイズを調整をしたり…。

と、サイズ調整が多いので、3Dプリンタの出力を用いれば、手元で何度も細かな調整ができるようになり嬉しいことばかりです。


形やサイズを気軽に出力できるようになったのは嬉しいことです。これはキャラクターに持たせるための小道具の最終サイズなどの検証中の写真。後ろのシェービングクリームもアニメ用。(クリックで拡大)


デジタル造形の利点としては、なんと言ってもすり合わせや修正の容易さが挙げられるのではと思います。打ち合わせ中の齟齬が少ないので、すぐに次に進むことができます。

モデリングデータは3Dプリンタで出力しない場合にも使用します。NHK連続テレビ小説「スカーレット」のタイトルバックの人形原型の時は、最終は粘土で仕上げることになっていたのですが、形やバランスなどの確認の第一段階で、Zbrushでモデリングしてから粘土原型を進めていました。


●光造形機と熱溶解積層方式

3Dプリンタの出力素材の違いも面白いです。主にコマ撮りアニメやジオラマなどの比較的小さなものを作ることが多く、これまでもっぱら光造形機に重きを置いていました。ただそれだと検証をする際のコストパフォーマンスがよくないためトライ&エラーを繰り返しにくい。

ちょうどその頃、手頃な値段の機種が登場しはじめ、取り入れたのが熱溶解積層方式の3Dプリンタ「Ender 3」です。

初めは検証で使おうと考えて購入したのですが、材料が比較的低価格で、また軽くて丈夫なので気軽に出力することができる。コマ撮りアニメーションで求められる、小道具が軽く丈夫であるという要望にも応えられます。

コマ撮り撮影中に、美術セットが動かないこと、丈夫なことは、気を使うことの1つなのですが、少し大きめのセットを作る場合に、FRPなどで造形したりしていたものも気軽に作ることができるようになリました。ある程度のサイズのものはレーザーカットしたものを土台に作っていたのですが、モデリングしてそのまま出力することができるようになったのも驚きです。



「企画開発中コマ撮り作品(ドワーフ)」のセットのグランドピアノ。上蓋など平面を必要とするものは素材をレーザーカットしています。黒鍵や奥の曲面などは3Dプリンタで出力して(数があるものはそこからレジンキャストで複製)、組み上げています。すべてではありませんが、このサイズのものが気楽に出力できるようになったのは非常に楽しいことです。(クリックで拡大)


(クリックで拡大)



●これからの期待、希望について

まだまだ手が届かないと思っていた3Dプリンタも、どんどん低価格で性能の良いものが現れて、これからますます身近な道具になるのだろうかと思います。

希望としては、コマ撮りアニメーションの現場は、撮影が長く続くことが多いので、細かいものでも、変形したり亀裂が入りにくい素材があればよいなというのが1つ。また、出力後の処理(積層やサポート除去などの後処理)が少なくなればと切実に思います。そうなれば、この便利で楽しい道具が、もっと身近になるのではと考えています。今後が楽しみです。




次回の執筆は吉田雅則さんです。
(2021
年9月14日更新)

 

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