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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第41
何故3D CGを活用した教育が必要なのか

戸田かえで/生物専門CGアーティスト/3D CG講師

1992年東京生まれ。愛知を拠点にCGで骨格標本や古生物の復元を制作。生物専門CGアーティストとして活動中。法人向け、専門学校でZBrushの講師、また、「かえでおねえさん」の愛称で、専門的なCGを分かりやすく、小学生から楽しく学ぶ、3D CG専門キッズスクール「みらいのおねんど教室」を立ち上げ、教育関連事業に参入。全国で特別教室や、スクール、Youtubeで活動中。
みらいのおねんど公式HP
https://sono-saki.jp/

 


●3D CGとの出会い

はじめまして、古生物学者の荻野様からバトンをいただきました、愛知を拠点に生物専門3D CGアーティストをしております、戸田かえでと申します。

私が3D CGと出会ったのは25歳くらいの頃でした。それまではまったく関係のない、一般企業で働いておりました。将来性に不安を感じる中で、ちょっとしたきっかけで、3D CGに出会いました。元々、ゲームや映画、生物が好きで、CGがどうやってできているのか、どういうところに活用されているのかを知り、とてつもない衝撃が走ったのを覚えています。

そこからどっぷりとCGにハマり、有機的なCG制作が得意なソフトである、ZBrushというソフトをメインツールに、今では生物専門で博物館関連のCG制作や、海外向けのCG制作をしております。また、制作だけでなく法人様向けや専門学校様でZBrush講師もしております。


ZBrushで制作した古生物のスミロドン(サーベルタイガーの一種)の骨を1個ずつすべて制作。(クリックで拡大)

ZBrushで制作した古生物のケレンケン(恐鳥と呼ばれる肉食性の飛べない鳥)と被食されているプロティポテリウム。(クリックで拡大)

 

●CGの認知が低いことに対しての疑問

CGは知れば知るほど、本当にすごい技術で、世界的になくてはならない存在です。しかし、CGに対しての認知度はかなり低く、クルマのCMが90%以上、CGでできていること、時計やカメラなどのカタログに写っている製品がCGで作られていること、手で描いたようなアニメの中には、フル3D CGでできているものがあるなど、世の中にはたくさんのCGで溢れているのに、それを知っているのはほんの一部の人間だけというのが実態です。

日本で3D CGに対しての認知度が低いのは、CGに携わる方が圧倒的に少なく、また、CGが世の中に馴染み過ぎて、「CGで作られている」という認知がそもそもされていないためかと思っています。


3D CGで作られているものの一例。(クリックで拡大)

3D CGで作られているものの一例。(クリックで拡大)


3Dに関連する職業の一例。(クリックで拡大)

●3D CG教育の可能性

CGの先進国である、アメリカやイギリス、オーストラリアやフィンランドなどでは3D CGを活用した教育が国の施策として導入され始めています。 イギリスでは2012年からすでに3D教育の導入を進めており、小学校~大学まで3Dプリンタを導入したり、3Dプリンタを活用したモノづくり教育を5歳から始めています。またアメリカでは、2017年時点で全米5,000校以上に3Dプリンタが導入されていて、また中国では40万校の小学校に3Dプリンタを導入する計画を打ち出し、3D教育を教えるための講師向けの教育プログラムも実施。3Dプリンタを導入して終わりではなく、生徒に学習をしてもらうための仕組み作りも同時に行っています。

海外ではSTEM教育という、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering (工学)、Mathematics(数学)の4つの分野を横断的に考えて、作る力を学ぶ教育方法も取り入れられており、小学生のうちからグループを組んで新しい製品企画をゼロから始める教育プログラムもあります。実際に、企画、設計、制作、試作、改善、完成、完成発表会として、実際にプロの制作現場で行われているプレゼンテーションが、小学生の頃から実施されているのです。

日本では、上記の4つの分野にArt(芸術)を加えて、STEAM教育と呼ばれていますが、認知度はまだまだ低く、関東を中心に実施した調査では、74%の方が知らないと答えました。しかし、一方で、日本の教育に対する不安に対しては、全体の75%の方々が不安と答えています。不安と思いつつ、教育について自主的に調べたり、考えたりする方々が少ない結果となりました。


3Dで学べることの一例。(クリックで拡大)


教育に先進的な国に対し、日本は何もしていないのか? というと、そういうわけではありません。日本でも、プログラミングが必修化になったり、2019年文部科学省から技術革新等を踏まえた教材として、中学校に3Dプリンタを導入することを発表しています。国としても他国との差を広げないためにも、動いています。



STEAM教育の思考力サイクル(多角的に考えながら、トライアンドエラーをする事で思考力が身に付く)。(クリックで拡大)

●日本の課題

何年も前から3DやIT、教育ICTのEdTechに力を入れている先進国に比べ、何故日本はこんなにも遅いのか? ここからは私の想像ではありますが、高度成長期からの日本の教育方針と、社会事情によるものかと思っています。高度成長期のものづくり産業が盛んな時代では、良質な製品を仕上げる、上司の言うことを聞く…そういった方々が優秀と言われた時代ではないでしょうか。

この「優秀」を育てるためには、理由は問わず物事を忠実に覚える、いわゆる暗記型の教育が正とされました。この教育が未だに引き継がれ、時代が変わった今でも暗記型教育が抜けないのが現状かと思っています。

これからの時代は、AIやロボットが当たり前の世界に変化していき、職業も大幅に変わってくるため、今までの暗記型の教育では優秀な人材は生まれません。自分で考えて、解決する。思考型の育成が必要不可欠になります。さらに高齢化の進む日本では、さまざまな課題を1つずつ解決しなくてはなりません。


日本でプログラミングが必修化になった理由。(クリックで拡大)

●私たちSonoSakiにできること

現在、主人の戸田勝也とともに、子供たちの未来を豊かなものにするために、SonoSaki(その先)という名前を付けて事業を立ち上げました。まず、私たちができるところとして、3D CGに対する認知度の底上げ、3D教育やものづくりの大切さ、付随してSTEAM教育の認知度の底上げを目的として、全国でイベント、Youtubeで動画配信、3D CG専門のキッズスクールを開校し活動しています。


小学4年生と小学1年生の兄妹がみらいのおねんどで色塗りをしています。(クリックで拡大)

小学2年生の女の子がみらいのおねんどでCG制作をして、3Dプリンタで出力をして、オリジナルフィギュアを作りました。(クリックで拡大)

私のメインツールであるZBrushは、直感的に触れるデジタルねんどと呼ばれるCGソフトであるため、初心者の方、特にお子様には取っ付きやすいCGソフトです。さらに分かりやすさを追求し、「みらいのおねんど教室」というキャッチーなフレーズを付けました。

もちろん、ZBrushだけでなく、Blenderと呼ばれるCGソフトやゲームを作るためのソフト(通称ゲームエンジン)UE4、3Dプリンタで出力するためのスライサーソフトなど、CGに携わるものを多角的に取り入れて、プロの制作フローをお子様に分かりやすく落とし込んで提供しております。最近では、モーションキャプチャーと呼ばれる、演者の動きも取り入れて、子供たちに幅広く興味を引いてもらい、CGや、ものづくりを知ってもらうきっかけ作りをしています。


小学1年生の男の子が、スミロドンの頭骨を頑張って作っているところ、かえでおねえさんが優しくレクチャーしています。(クリックで拡大)

幼稚園の年長さんもみらいのおねんどでCG制作を初体験して、上手にオリジナル作品を作りました。隣にで見てくれているのは、お兄ちゃんです。(クリックで拡大)

●イベントや教室でCGと3Dプリンタに触れる

実際にデジタルで作った作品が、自分の手で触れられる、現実世界に出てきた時の感動や衝撃は今でも忘れません。この感動や興味を子供の頃から体感することで、少なからず考え方や物の見え方も変わってきます。


初めてのイベントは2021年1月23日に行いました。ZBrushの伝道師として活躍されていた、故 福井信明さんとのつながりもあり、Fabcafe Nagoya様で初めて「みらいのおねんど特別教室」を開催させていただき、CG制作と3Dプリンタでのものづくり体験会が始まりました。3Dプリンタでものづくりをすることは、かなり印象も強く、毎回チケットは即完売いただき満員御礼でした。このつながりは、全国にも広まり、日本に3箇所ある学術研究都市の1つである、京都府のけいはんな学研都市 精華町様でも開催をさせていただくこととなります。


けいはんな学研都市 精華町様でみらいのおねんど特別教室を実施。今後も継続的に開催予定です。(クリックで拡大)


精華町は特に学術に力を入れている地域のためか、子供たちの考え方もすごく、3Dプリンタで出力した後に、どう活用しようか? と2時間の短い間でCG制作中に考え、制作していました。

結果、3Dプリンタで出力後、絵の具で色を塗り、UVライトを当てて見え方の研究や、穴を開けたら貯金箱にもなるかもしれない。と出力後も探究心が止まらず、やはり3Dプリンタを活用したものづくり体験をすることで視野が広がり、大きな学びへと変わっていくと感じました。



特別教室で初めて作ったCG作品を3Dプリンタで出力しました。(クリックで拡大)

お家に届いたら、絵の具で実際に塗ってみたり、使い方や遊び方を考えます。(クリックで拡大)

2021年9月から立ち上げた、みらいのおねんど教室オンラインでは、リモートデスクトップを活用した最先端な学びが功を奏したのか、経済産業省が実証事業をしている「未来の教室」のEdtechデータベースに登録がされました。
https://www.learning-innovation.go.jp/db/ed0189/



経済産業省、未来の教室とみらいのおねんどのロゴ。(クリックで拡大)

●今後の展開

私たちSonoSakiは、CGを活用した3Dプリンタでものづくりや、デジタル制作を日本の義務教育まで持っていきたいと思っています。教育機関の方にその話をしたら、笑われましたが、猪突猛進で進みたい。

全国の小学校、中学校に3Dプリンタを導入し、プロフェッショナルの先生による本格的なものづくりを体感する環境を整えたいと思います。ここでももちろん、さまざまな分野の横断的な学びが必要になりますので、すべてがデジタルではなく、アナログとの融合が大切です。

例えば今話題の、ロボットプログラミングも、ロボットの3D設計図を自分で作り、3Dプリンタで出力をして、電子基盤を入れて、プログラムを組んで動かした方が、圧倒的に学びの幅が広がります。手を動かして、時間内に完成させるだけの、見える教育も大事ですが、作るまでにたくさんの時間が掛かり、試行錯誤をして、チームでコミュニケーションを取ったりする、見えない教育が思考型の教育につながり、大切になってきます。

もちろん課題は山積みで、何処までできるのかは正直分かりませんが、少しでも多くの子供たちや保護者様に知っていただけるように、真っ直ぐ精一杯走り続けていきます。


名古屋市主催Hatch Technology Fes 2021で開催したみらいのおねんど特別教室。(クリックで拡大)





次回の執筆はウオシャンさんです。
(2021
年12月9日更新)

 

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