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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第42
自助具を制作するための3Dプリンタ

ウオシャン/理学療法士、鍼灸師、クリエイター

1984年生まれ。富山県出身。理学療法士として愛知県を拠点に、整形外科クリニック、訪問看護ステーション、障害福祉分野にてリハビリテーションに携わる。2020年よりICTリハビリテーション研究会理事、東海支部長。またFabCafe NagoyaのFabクルーとして、デジタル工作機器で拓く医療、福祉の可能性を追求している。一般社団法人ICTリハビリテーション研究会
https://www.ictrehab.com/

 


●出会い

私が3Dプリンタと出会ったのは、2019年に一般社団法人ICTリハビリテーション研究会が主催の、1DAY Mini Make-a-thonに参加したことがきっかけです。最初はメイカソン(Make-a-thon:メイクとマラソンを掛け合わせた造語)と聞いて、ハッカソンみたいなイベントを想像しており、少し敷居が高いイメージがありましたが、参加してみるととても気軽に参加できる有意義なイベントでした。

会場に到着すると、3Dプリンタで作成したさまざまな自助具が展示されており、ワクワクした思い出があります。10年ほど前に友人が3Dプリンタを購入した時よりも、安価で便利になっていたことにも驚きました。このイベントに参加した後に早速「Anycubic mega-s」を購入して自助具などのデータ作成と印刷を繰り返していきました。


1DAY Mini Make-a-thonにて。会場に並べられていた自助具。(クリックで拡大)

Anycubic mega-sで作成した自助具たち
。(クリックで拡大)

 

●ウオシャン

3Dプリンタを購入後、最初に作成したものとして、「ウオシャン」があります。心が穏やかになるような? ゆるキャラを作ってみよう! と最初はイラストやLINEスタンプから作り始めて、少しずつバージョンアップを重ねていきました。そして2016年頃に台湾を訪れた際に、路上で造形師の方に出会ったことがきっかけで人形に進化しました。人に作っていただいたものですが、平面から立体の形になった時は感動しました。

しかし旅の途中で紛失したり、手の部分が壊れたりもして(しかも1個1,000円ほど)実際に、この造形師の方には2回も人形を作っていただいています。3Dプリンタに出合ってからは自分で量産もできるようになり、最近はTPRフィラメントでも印刷可能な3Dプリンタを入手したので、人形の手の部分が壊れることもなくなりました。


台湾の造形師さん 黄色の粘土でウオシャンを作成中。(クリックで拡大)

造形師さん作 初代のウオシャン人形。(クリックで拡大)


TPRで作成した手が折れないウオシャン&アマビエ(PLA)。(クリックで拡大)


●リハビリテーションと自助具


病院やクリニックなどの医療機関では身体機能の回復のために理学療法などの治療をしますが、病気によっては機能的には改善がみられずに障害が残るケースもあります。機能的な治療と同時並行でも、そのような方に役立つ道具(自助具)を活用することで、できないことや諦めていたことができるようになることがあります。

既製品を組み合わせて自助具を作成することもできますが、3Dプリンタを活用することで、よりその方にピッタリと合うモノが簡単に作成できたり、素早く修正もできるので便利です。

また、ICTリハビリテーション研究会のインクルーシブメイカソンや、FabLab ShinagawaさんのFabCare Japan Projectでは、作成した自助具の3D CADデータなどをオープンソースとして公開することで、似通った困難を抱えた世界中の人が使えるようにも工夫しています。この活動や情報がより多くの方々に届くとよいなと思っています。

Fabcare Japan projectについて


ルーペを適切な高さで保持する自助具、両手でインシュリン注射のメモリを調整しやすくなった例。(クリックで拡大)

ボールペンを把持しやすくする自助具。病気の進行により書字ができなくなっており、自助具によって再び職場で署名ができるようになった例(Fusion360で作成)。(クリックで拡大)

●インクルーシブ・メイカソン

メイカソンは、ニードノウア(障害のある方やその支援者)をチームに迎えて、3Dプリンタなどのデジタル工作機器も活用し、その人が本当に欲しい道具作りに挑みます。限られた期間で成果物を作り、イベントの最後に成果物の発表を行います。そしてメイカソンの終了後にも必要に合わせて、オンラインでもつながり共創していきます。

最初は参加者として始めたメイカソンでしたが、その後は主催側としてこのイベントに携わるようになりました。Covid-19以降もオンラインメイカソンを2度開催しており、オンラインでも、各チームで協力してアイデアを形にできたことは貴重な経験になっております。

ここで毎回思うことは、ニードノウアの方も、アイデア出しの段階から、一緒になってモノづくりに参加されており、共創の場になっていることです。

そして、その方が本当に欲しいモノができ上がり、ニードを満たした瞬間に参加者の溢れ出る笑顔や喜びには感銘を受けます。今後は東海地区でもインクルーシブ・メイカソンが開催できるように準備をしていきたいと思います。



2019年に開催したメイカソンの様子(協力:Good Job! Center KASHIBA)。(クリックで拡大)

2021年 TOMメイカソンTOKYO(オンライン)を開催した時に作成した自助具(協力:FabCafe Nagoya)。(クリックで拡大)

●FabCafe Nagoyaでの活動について

FabCafe Nagoyaでは、お客様の作りたいモノに合わせて、レーザー加工機やUVプリンタ、デジタル刺繍ミシンなどのデジタル工作機器を活用して、モノづくりの支援をしております。来店される多くは、美大生や、建築学生などをはじめ、会社や個人の方でものづくりに纏わる方などがFabサービスを利用しにいらっしゃいます。

現在3DプリンタのFabサービスはFabCafe Nagoyaにはないのですが、試作用の「Anycubic Chiron」が置いてありますので、他のスタッフが働きやすいように、ちょっとした便利な道具を作ったりもしています。


レーザー加工機でアクリルにカットと彫刻をしたサンプル。(クリックで拡大)

レーザー加工機にちょっとしたモノを掛けれるハンガー (PLA)。(クリックで拡大)


チラシなどを入れておける引き出し (PLA)(クリックで拡大)

●3Dプリンタのこれから

これまでにもさまざまな機能を兼ね備えた3Dプリンタが出てきたので、あとは高性能でありつつ価格帯が安くなるといいなと思います。その他には、ペットボトルをカット、加熱してそのままフィラメントが製造できる道具を見たことがあるのですが、そのような機能が付いた3Dプリンタがあるといいなとも思います。

フィラメントを購入しなくても自宅に余ったペットボトルを使って、子供でも使えて工作できるレベルになってもよいかもしれません。必然とアップサイクルをする人が増えていく感じがしてよいですね。これからも3Dプリンタがより便利なものに進化していくことに期待しています!



次回の執筆は萩森大介さんです。
(2022
年1月18日更新)

 

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