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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第43
ハンドメイド作家としての3Dプリンタ活用

萩森大介/ピアニスト、造形作家

大阪芸術大学音楽学科卒、大阪市立大学創造都市研究科修了。ピアノ演奏・伴奏活動、造形作家としてイベント出展活動、2019年に「造形集団animato」を結成し、オリジナルのアニメーション作品を制作している。
https://www.instagram.com/hagihagi_/

 


●はじめに

個人のハンドメイド作家が立体作品を作成するにあたっての3Dプリンタの活用方法について、現在の制作プロセスの紹介、3Dプリンタを利用するメリット、デメリット、そして私なりの3Dプリンタの活用方法などご紹介したいと思います。

・3Dプリンタ導入のきっかけ

私が最初にFFF方式の3Dプリンタを購入したのは2016年のことでした。当時3Dスキャナ付きの3Dプリンタが発売され、この機械があれば立体物を複製して簡単に増やせるのではと思い飛びついたのがきっかけです。

しかしそんなにうまい話はなく、スキャナの精度も悪く結果のデータも穴だらけで使い物になりませんでした。

・3Dプリンタを使いこなせるまでの道のり
とりあえず3Dプリンタを使うには3Dデータを作成しなければならないことは分かりました。しかし、3D CGのソフトは何を使えばよいかも分からず、調べて出てきたソフトも、個人が購入するには高価なものが多く手が出せないでいました。

そんな中、2016年10月に「Zbrush Core」が発売されました。造形用のソフトであること、価格も手が出しやすかったため予備知識なしで飛びついたのですが、独自のUI、3Dの専門用語も分からず、起動後に何をどうすればよいのか、呆然としたことを覚えています。

また、使いこなそうにも当時は英語版のZbrushの情報しかなく、チュートリアルを読み解いてもZbrush Coreとは画面も機能も異なり参考にできず、途方に暮れることになります。
そんな私を救ってくれたのは本コラムの第3回に登場している福井さんのチュートリアル動画でした。基本的な動作は福井さんの動画や本で学び、その後第27回に登場した大上さんが講師をされたZbrush Core講座を経て、ようやく自分の作りたいものが作れるようになりました。

その後、光造形3Dプリンタを導入し、第5回に登場した織田さんにシリコン型を使った複製について教わり、フィギュア制作で一般的な3D原型+複製の手法を一通り身につけることになります。そして現在はFFF方式のクホリアを導入し、少量多品種の複製に行き着きました。

●制作工程における3Dプリンタの活用

・立体のハンドメイド作品の量産手法の模索
ハンドメイドの作品として販売するためには、キットではなく塗装済の完成品である必要があります。また、美術やフィギュア界隈と異なり、あまり高額なものは売れません。ですので、3Dプリンタを活かしてより安価に、より楽に、コストと品質のバランスを取りながら量産する方法を探すことになります。

ここでは私が過去に行っていたシリコン型とレジンキャストによる複製と、3Dプリンタを用いた複製の比較を行います。なお、出力品をそのまま使用するため、3Dプリントは光造形プリンタではなくフィラメントを用いた熱溶融型FFF方式、主にPLAフィラメントでの出力を想定して比較します。

・複製にかかる時間の比較
複製1回あたりの作業時間の比較を行います(おおよそ高さ5cm程度の立体を想定)。


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複製の時間だけ比較すると、シリコン型+キャストレジンによる複製が圧倒的に速くなります。しかし、キャストレジンでの複製にはシリコン型が必要となり、あらかじめ型作成の時間が必要です。その点を踏まえ複製の前後も合わせると、おおよそ以下のような工程となります。


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それでもシリコン型+キャストレジンでの複製が効率が良いことが分かります。しかし、3Dプリンタ出力の場合、出力時につきっきりで見る必要がないため、人が直接携わる手作業の時間合計では3Dプリンタをによる複製のほうが短くなります。


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ただし、数が多い場合は出力時間が長くかかるため、数時間で完了するシリコン型による複製に比べ、数日余分にかかります。また、後工程の積層痕処理以降もすべての印刷完了後となるため、イベントなどの締め切りがある場合は余裕をもって準備する必要があり、手作業時間の投入による直前の追い込みはまったくできません。

・コスト
次に、材料費の比較ですが、シリコン型複製用のキャストレジン、3Dプリンタ材料のPLAフィラメントを比較してみます。


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単純にグラム換算だとPLAフィラメントは高く感じるのですが、実際に印刷する際は中空で出力するため、ざっと重さは1/3になり材料も安価になります。また、キャストレジンは複製するための型が必要となり、シリコン型の材料費が別途2,000円~かかります。

・導入するメリット
趣味で3Dプリンタを使用する場合、平日の昼間、夜間など、作業できない時に印刷を行い、週末にまとめて後処理を行えばシリコン型の複製より時間を有効に利用して作業が行えます。自分の求める品質に見合うFFF式の3Dプリンタが購入可能な価格であるなら、導入する価値は十分にあります。特に時間のない社会人であれば、空いた時間を他に活かせるのはメリットが大きいと感じます。

・3D出力品を効率よく処理するTips
さらに効率化のため、さまざまな先人の知恵から学び、確立した工夫をいくつか紹介します。
(1)積層痕・シーム(継ぎ目)の処理
3Dプリンタを使用すると、どうしても上部に積層痕、印刷の開始と終了個所にシームができてしまいます。そのままでは見た目も美しくなく、塗装時にも段差が分かってしまいます。ただ、削ろうとしてもPLAやABS樹脂はとても固く、時間がかかってしまいます。
そこで今私が行っているのは、光造形プリンタ用の透明または白レジンにベビーパウダーを混ぜ、出力品の表面に塗って固める方法です。パテと違い色も変わらず、UVに当てると即硬化するため待ち時間もありません。削る際もそれほど固くないため効率よく後処理が行えます。


サポート痕の処理。(クリックで拡大)

積層痕の処理 。(クリックで拡大)

(2)印刷時の工夫
3Dプリンタの出力物で問題になるのが、
(a)積層痕・シーム、
(b)サポート面の荒れ

この部分については後処理を行う必要があるため、できるだけなくす必要があります。
(a)の積層痕については、印刷時の頂点部にできますので、頂点に目立たない部分を持っていくなど、印刷の向きで制御できます。印刷を縦に重ねていく個所では出ないため、顔など重要な部分はなるべく最上部に来ないような印刷が必要です。

(b)のサポート面の荒れについても、目立たない個所にもっていくことで後処理を減らすことができます。


立てたまま印刷した例。(クリックで拡大)

印刷の向きを工夫した例 。(クリックで拡大)

たいていは頭と体のどちらかを犠牲にする必要があることが多く、その場合は頭と体のモデルを分割する場合もあります。単純に分割すると後で手作業の結合作業が増えてしまいますのでモデルそのものをはめ込める形にして回避する方法もあります。


分割とはめ込みの例。(クリックで拡大)


(3)後処理で利用できる工具について
積層痕の処理には、手作業だとスポンジやすりを使いますが、指が疲れます。私はピアノを弾くため演奏前には指を使う作業ができないため、電動工具をよく使います。一番おすすめが電動リューターとセラミックピットです。電動リューターを使用すると摩擦熱でPLAやABSが溶けてしまい、うまく加工ができない場合が多いですが、セラミックピットは熱を持ちにくいため、金属性のピットより作業効率が上がるのでおススメです。

製作は、これらの(1)(2)(3)の組み合わせで一番手作業が少なくなるように進めていきます。後処理の面積が広くても、電動リューターで処理できる部分のみであればそれほど時間はかかりません。逆に手作業でしかできない細かな部分が多いと後処理に時間がかかってしまいます。


●その他

・デジタル造形による時間の活用
アナログ造形の場合、造形用の粘土、スカルピーなどは固める際に熱処理するオーブンやヒートガンが必要となります。石粉粘土だと手も作業台も汚れてしまうなど、それぞれ道具や汚れても良い作業場所など準備と後片付けが必要となります。その点、Zbrushなどを用いたデジタル造形だとパソコンがあればよく、準備や後片付けについて造形をする上でのハードルがかなり下ります。

デジタル造形の良いところはPCを使える場所であれば自宅でなくともどこでもできるところです。喫茶店でも電車内でもどこでも作業可能ですので時間の有効活用ができるという点ではとてもメリットが大きいと感じます。

・3Dデータの活用
3Dデータの良い点は、変更が容易、データの使いまわしが効くことです。出力品の大きさも自由に変更できます。アナログ造形では修正が難しい全体のバランス調整も簡単に行うことができます。

フィラメントが材料の場合、素材が丈夫なのでいろいろな応用が可能になります。過去に作成した作例を紹介します。データを流用してさまざまなものが作成可能です。


ストラップ。(クリックで拡大)

ケーブルタイ 。(クリックで拡大)


イヤリング。(クリックで拡大)

箸置き(耐熱PLA) 。(クリックで拡大)

また、3Dプリンタ以外もデータ活用が可能です。データをスライスして大きな型紙を作り、材料を切り出して特大サイズのフィギュアも作成しました。


スライスモデルより型紙を起こす。(クリックで拡大)

完成した作品 。(クリックで拡大)

最近は作成したキャラクターを3D CGとして動かし、短編アニメーション作品を作成しています。


「そらくじらと ひとりぼっちのロボット」 (2020年 茨木映像芸術祭入選作品。(クリックで拡大)

「リアとモナの不思議な本」 。(クリックで拡大)

●3Dプリンタの今後に向けて
今後、3Dプリンタが一般に普及するポイントはスマホではないかと思います。最近はPCを持っていない人も多く、その場合、3Dプリンタに加えPCも購入する必要があります。またPCがすでにあっても、モデリング用ソフト、印刷用のソフトと複数のソフトをまたいで使用する必要があり、ハードルが高いと感じます。

一方で、ほとんどの方がPC並みの性能を持つスマホを普段使いしており、LiDARスキャナによる3Dスキャンやスマホ上でのスカルプから3Dプリンタに直接印刷ができるようになれば導入のハードルがかなり下がると思います。そして3Dプリンタも進化し、将来的にもっと良い素材が手軽に出力できたり、フルカラー3Dプリンタが安価に利用でき、かつ長期保存に耐えるようになればいいなと願っています。


次回の執筆は歓楽家ねとらさんです。
(2022
年2月18日更新)

 

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