●キミ、誰なの!?
いわゆる「週末モデラーおじさん」です。平日はサラリーマンとして朝から仕事に励み、夜は疲れ果てて就寝。土日には夢と希望とほんの少しのお金をかけて、ガレージキットというレジンキャストなどでできた少数生産模型を制作し活動しています。3Dプリンタに長けた知識も、豊富な経験も…特にありませんね。
「そんなモブみたいな一般人が著名人も執筆するリレーコラムに何しに来たの!?」と言われそうですが、今やモブみたいな一般人の造形スタイルさえ変革を起こしそうなのが3Dプリンタという「可能性を広げるアイテム」なのです。
・デジタル造形ってスゴいんでしょ!?
ガレージキットディーラーの活動を開始した2013年~2017年夏までは、すべての原型制作を手作業で行っていました。しかし、新たに企画するガレージキットのデザイン性や、市販品フィギュアとも遊べる機能性を追求すればするほど、原型制作も比例して複雑難解に。さらに手作業の遅さから土日の作業時間が圧迫され「なんの成果も得られませんでした!!」と嘆きながら、哀しい月曜日を迎えることが多くなってきたのです。
手作業時代の作業風景1。(クリックで拡大) |
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手作業時代の作業風景2。(クリックで拡大)
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完成したガレージキット。(クリックで拡大) |
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そんな悩みを抱えていた頃、CADソフトを活用して原型制作を行っているガレージキットディーラー仲間から、デジタル造形のイロハを教えてもらいました。最初のデータ作成こそ時間はかかりましたが、完成したデータを「DMM.make」へ発注すると、なんと数日でアクリル樹脂製の原型が届くではありませんか!?
CADソフトで作成したオリジナル武器シリーズ1。(クリックで拡大) |
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CADソフトで作成したオリジナル武器シリーズ2。(クリックで拡大)
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CADソフトで作成したオリジナル武器シリーズ3。(クリックで拡大) |
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CADソフトで作成したオリジナル武器シリーズ4。(クリックで拡大)
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DMM.makeに発注しアクリル樹脂に出力してもらった原型。(クリックで拡大) |
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原型の表面に付着したサポート材や積層痕はサーフェイサーやパテを使い研磨して仕上げます。(クリックで拡大)
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原型が早く完成すれば表面処理、シリコン型での複製にも時間を割くことができます。おかげで当時参加したコミックマーケットでは過去最多の商品を量産し、ディーラー史上最高額の売上を記録。手作業しか知らなかった私が「デジタル造形しゅごい! もう哀しい月曜日は来ないぞ!!」と叫んだ瞬間でした。
ところがぎっちょん! そうは問屋が卸さないってのが世の常です。CADソフトで原型データ作成、「DMM.make」への外注を繰り返す中で、データ上では見逃した問題箇所が実際に出力されてから見つかり、「使えない原型」を生んでしまうことが何度もありました。デジタル造形では「あるある」な笑い話ですが、ウッカリの多い私にとっては笑いごとではありません。小さなミス1つで諭吉さんが何人も「グッバイ……」と言い残して財布から飛び去っていくのですから。
・3Dプリンタってスゴいんでしょ!?
「市販のプラモデルみたいに組めるガレージキットを商品化したいな」。そう思い描いても、外注頼みとあっては実現も遠いまま…モブの週末モデラーおじさんには過ぎた夢なのでしょうか…? いや、どんなにウッカリミスが多くても、あこがれは止められねぇんだ! 「データ作成ミスもチェックできる試作品が、早く安価に入手できればいい」。その課題解決に選んだのが3Dプリンタです。主役が遅れて登場しました。遅すぎですね。
時は2020年。造形イベントでも3Dプリンタ出力のガレージキットを販売するディーラーが増えてきた頃でした。ちょうど1年ほど前から交流を始めた原型師さんが光造形方式の「ELEGOO MARS」シリーズで出力したキットを販売されており、その高精度な造型と表面の滑らかさ、手の届きそうな価格に興味を持った私は3Dプリンタの導入について相談しました。
結果、当時の最新モデル「MARS2 PRO」が9月に発売されるという情報をGET! しかもその頃には、政府から遣わされた10人もの諭吉さんが我が家にいるではありませんか?! これは渡りに船! いや渡りに黒船!? とにもかくにも原型作業の頼れる相棒がやって来るよワクワク! 週末モデラーおじさんの願い、さあ、かなえてよ! 3Dプリンタ!!
自宅に届いたELEGOO Mars 2 Proと洗浄硬化機。SK本舗さんで購入したので水洗いレジンがオマケで付いてきました。(クリックで拡大) |
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●思ってたのと違う!?
ま、そう簡単には上手くいきませんよね。うん、知ってた(涙目)。ネットで3Dプリンタ関連の情報を漁り、動画と睨めっこしながら悪戦苦闘の日々……。まともに出力できるまでに費やしたのは、半年分の貴重な土日時間と、500mlレジンボトル1本分の失敗作(プリントミス)……とほほ。
気を取り直してサポート材の数、太さ、プラットホームのモデル配置を見直し、失敗作からさまざまな原因を切り分けて推理したところ……まさか真犯人が「気温低下」だったなんて! そりゃ半年も経てば気温も上がって、ちゃんと出力できるようになるって話ですよ。コナン・ドイルも激オコなひどいオチでした。
●3Dプリンタ、活用します!
シリコン型を作る際に「ねんど埋め」という作業があります。直線の多い原型を柔らかいねんどで埋めると、どうしても分割線(パーティングライン)が歪みがちになるので、ねんど面を丁寧にならさなくてはいけません。
また、形状によっては土手と呼ばれる部分を作る必要がありますが、これも結構めんどうな作業。手の遅い自分では半日から1日がかりになることもあり、当然パーツが増えるほどシリコン型も増え、作業工程が増えます。そこで考えたのが、原型のデータから半面型のデータを作成し、3Dプリンタで出力するというもの。
外注ほどの精密なクオリティは必要ないので、自宅の3Dプリンタで出力して軽く表面処理してみました。結果は見事、成功。やったねたえちゃん! 時間短縮ができるよ! 何度も繰り返し使えるので、現在も大きく貢献してくれています。
半面型は原型データを基に作成しますが、原型とピッタリ密着し過ぎないよう少し緩めに調節します。(クリックで拡大) |
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ねんど埋めの状態。ねんどをくり抜いて型ごと埋めるだけ。とても簡単です。(クリックで拡大)
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●「匣-85式計画」って何なの!?
3Dプリンタの扱いにも慣れてきた2021年初夏、以前から計画していたブロック玩具式ガレージキット「匣-85式よつかど」の制作を本格的に開始しました。これが前述した「市販のプラモデルみたいに組めるガレージキット」案の1つです。
全高約160㎜、総重量約125g。可動部に使用している市販の関節パーツを含まなくても全部で50パーツあります。「ブロック玩具」はパーツを自由に組み換えることで遊びの幅が無限に広がりますが、形状が合わなかったり、重量が重いと転倒してしまったり……と組みかえどころではないストレスが溜まってしまい、玩具としての魅力も失われます。
そのためデータ設計の段階で形状や重量に注意を払いつつ、試作品で遊び、修正し……を繰り返しました。最低でも3人以上のチームで開発するのが適切なこの工程を、たった1人でやろうと考えたあたり、私の無謀っぷりがお分かりになるでしょうか。
匣-85式の三面図。(クリックで拡大) |
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匣-85式パーツ一覧です。上半身と下半身が同じパーツで構成されています。(クリックで拡大)
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基本となるデザインやデータ作成に半年ほどの時間をかけたものの、すべてのパーツがプリンタから出力され揃ったのは、なんとたった2日ほど。なんたる…なんたる早さっ?! アナタ…勤勉デスね? しかも、それらのパーツも接着剤を使用せずにしっかりと組める状態じゃありませんか! この高精度な造型と表面の滑らかさ…鬼がかってます!
パーツ分解図1。(クリックで拡大) |
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パーツ分解図2。(クリックで拡大)
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「よつかど」の試作品は2021年11月に完成し、自身のTwitterアカウントにて発表しました。
完成した「匣-85式よつかど」の試作品。(クリックで拡大) |
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組み換え例1。(クリックで拡大) |
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組み換え例2。(クリックで拡大)
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組み換え例3。(クリックで拡大) |
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組み換え例4。(クリックで拡大)
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組み換え例5。(クリックで拡大) |
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組み換え例6。(クリックで拡大)
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組み換え例7。(クリックで拡大) |
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3Dプリンタ導入から約1年と2ヵ月。土日祝日しか作業の時間がとれない週末モデラーおじさんにとって、この成果がどれほど嬉しいものだったか……まこと筆舌に尽くし難いです。
夢のようですが、私の手に握られている手触りと重みが「夢ではない」と実感させてくれましたね…。もし手作業でこの試作品を生み出そうとしていたら、はたしてどれほどの時間が消えていたことでしょうか。想像するだけでウンザリしてきます。この話するのやめましょう、ストップ、やめやめ!。
●まだ終わりじゃありません
そうでした。まだ試作品。ゴールじゃありません。真のゴールはまだまだ果てしなく先の先! この「よつかど」をガレージキット商品として仕上げ、興味を持ってくれる方々の手元に届けるまでが、私の夢なのですから。まったく時間はいくらあっても足りませんね……週休3日制度、早く来てぇ~!
まだまだ「万能の願望機」とはいかない3Dプリンタですが、現時点でも「これは手作業ではできないかなぁ」と、ため息をついていた週末モデラーおじさんに、大きく可能性を広げてくれました。きっと、未来の3Dプリンタはもっとスゴいんでしょ?! だってフューチャーなんだし! なんだしなんだし!。
次回の執筆は山形恭平さんです。
(2022年3月14日更新) |