●3Dプリンタとの出会い
私が3Dプリンタと出会ったのは2015年頃、CMで見たディアゴスティーニの週刊マイ3Dプリンタ「idbox」がきっかけでした。
ディアゴスティーニの3DプリンタはBS-01を元にアクリルでクリアの外装になっていて一目惚れで購読開始。あまりいい噂を聞かないディアゴスティーニですが、このシリーズは毎号部品とともに3D CADの操作方法や仕組みを学べているので非常にいい教材になりました。
ディアゴスティーニの「idbox」。(クリックで拡大) |
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●3Dプリンタ最初の試練
毎号届くパーツを組み立てて1年ほどで3Dプリンタは完成しました。3Dプリンタが完成するまでは「何を作ろうか?」と夢を膨らませていましたが、いざ造形をしてみると「思っていたのと違う」と現実を突きつけられました。CAD上では上手く設計ができていても3Dプリンタで造形すると寸法がズレたり反りが出たり、印刷自体に失敗したり…。
初めのうちは失敗続きで1ヶ月以上放置することもよくありました。しかしディアゴスティーニで掛かった総額はすでに14万円ほど、いまさら諦めるわけにもいかず、どうにか上手く使えるよういろいろな設定や改造を重ねました。ヒートベット化、Z軸リニアブッシュ交換、モーター水冷化、スタンドアローン化、保温ボックス作製etc…。
いろいろ改造をした結果、さらに1年ほどで満足のいく精度が出るようになりましたが、総額で25万円ほどを費やしていました。その数年後には数万円で同等以上の性能を持った3Dプリンタが登場してきて、正直悲しかったことを今でも思い出します。現在は新たにFDM2台、光造形を1台導入していますが、3台合計しても最初の3Dプリンタほどの価格には届きません(笑)。
改造したidbox。(クリックで拡大) |
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同じく改造したidbox。(クリックで拡大)
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●CNC加工機の導入
CNC加工機は、3Dプリンタと同じようにXYZの軸を持ち動作します。最大の違いは3Dプリンタは樹脂を積み上げて造形していくのに対し、CNC加工機では素材を削り出して造形を行います。そのため3Dプリンタより多くの種類の素材を使用することが可能です。
自分が購入したものは中華製で1.5万円ほどの安価な商品で、主に基板作製に使用するため購入しました。中華製と言うこともあり、はじめは上手く切削ができませんでしたが、機構が3Dプリンタと似ていることもあり、調節や改造を行うことで徐々に使えるようになっていきました。
CNC加工機での基板加工は「生基板」と言うベークライト上に銅箔が貼り付けられた板を加工して作製します。作製した基板に電子部品をハンダ付けすることでオリジナルの基板が完成します。3Dプリンタ同様オリジナルで用途に合った基板を作ることが可能です。電子回路に詳しい方はCNC加工機もおすすめですよ!
CNCの使用風景。(クリックで拡大) |
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中華CNC。(クリックで拡大)
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CNCで作製した基板。(クリックで拡大) |
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●ハードウェア開発での利用
3Dプリンタ単体でも十分さまざまな物を作ることができますが、CNC加工機と組み合わせることで制作物に音や光、動きと言ったさまざまな機能を加えることができます。ここでは私が今までに開発したものの中から3つ紹介したいと思います。
(1)光筆
1つ目はFabLabSetouchiβで開発した「光筆」です。光跡アートとして、空中で書道ができないか? というアイデアから作製したものになります。
アイデアを形にするため、筆の形を維持しつつ筆の内部に機能性をもたせる必要がありました。そこでまずは中が空洞になった筆を3Dプリンタで設計し、内部に収まるよう制御基板、操作部設計をして内蔵させました。
筆後方のつまみを回すことで電源、調色を行い、柄の部分にある感圧センサーを親指で操作することで発光の強弱を操作します。筆の根本に内蔵されたLEDが発光し光ファイバーを通り穂先が発光します。筆の中にすべてを収めることで筆の形をした今までにはない新しいデバイスを作ることができました。
「光筆」。(クリックで拡大) |
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光筆の基板データ。(クリックで拡大) |
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光筆の内部。(クリックで拡大)
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光筆の説明。(クリックで拡大) |
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光筆での作品。(クリックで拡大)
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ツマミで色を選択。(クリックで拡大) |
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(2)水耕栽培装置(HomeFarmer)
2つ目は最近趣味で作製した水耕栽培装置です。水耕栽培では野菜を育てるためにLEDライト、水中ポンプの制御と気温、水温、水位の測定が必要になります。そのため先にCNC加工機で基板の作製を行い、後から基板サイズに合ったケースを3Dプリンタで製作しました。また、外装は木製ですがライトやセンサーの取付け部分にはぴったりに設計した3Dプリント部品を使用しています。やはりぴったりに設計できると気持がいいですね!
基板ケースには光造形で作製した葉っぱマークのアイコンを用意しました。なんとこのアイコンは七色に発光し、装置のステータスをお知らせしてくれます。またアイコンを押すことで装置の設定などが行える設定ボタンの機能も備えています。
3DプリンタとCNCを組み合わせることで完成度の高い装置を作ることができて非常に満足しています! 将来的には販売も視野にフィールドテストなどを行う予定です。
CNCで作製した水耕栽培基板。(クリックで拡大) |
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3Dプリンタで作製した基板ケース。(クリックで拡大)
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3Dプリンタで作製した基板ケースの外装。(クリックで拡大) |
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完成した水耕栽培装置。(クリックで拡大)
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●3Dプリンタのこれから
少し前までは3Dプリンタはいろいろとトラブルが多く、自分みたいな物好きにしか使いこなすことが難しかったですが、最近では安価で使いやすい製品が増えてきました。
今はまだ一般の方たちへのハードル意識が高い3Dプリンタですが、いろいろイベント、メディアでの紹介を通して、さまざまな人たちに触れてもらえたらと思います。特に子供の頃から3Dプリンタに触れてモノ作りに興味を持ってもらえれば嬉しいです。近い将来、インクジェットプリンタと同じように、どこの家庭にも3Dプリンタのある世界が来るといいですね。
次回の執筆はアトリエ猫柳さんです。
(2022年4月11日更新) |