TOP ■ニュース ■インタビュー ■コラム ■インフォメーション

3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第48
0.8mmノズルから見える3Dプリンタの未来

沖川 豊/エンジニア

小中学校の頃にロボットアニメに頭をやられ、工業高校、専門学校でロボットに関する知識を広く浅く学習。工業系の中小メーカーに就職してソフト開発を行い、現在は転職した株式会社CuboRexで機械設計を担当している。業務、趣味の両方でで3Dプリンタを使用して製品開発やプチ量産を行っている。
https://cuborex.com/

 

●はじめに

使用したことのある人なら分かると思いますが、3Dプリンタは夢の道具ではありません。
メリットもありますが当然デメリットもあります。数あるデメリットの内、今回は造形時間に着目します。近年では3Dプリンタを使用した大型造形物(イスや家など)が増えてきました。それらの多くは、大径ノズルによる造形時間短縮を狙っているように感じます。

家庭用3Dプリンタ(FDM)でも大径ノズルの恩恵を受けることができます。大径化によって感じたメリット・デメリットは未来の大型造形物でも例外ではないと思いますので、未来を想像する手助けになれば幸いです。

●背景

私は趣味、仕事でFDM方式の3Dプリンタを使用しています。使用目的は、仕事では機械的、機構的な内容が主です。また趣味では機械的、機構的+造形美的な内容に使用しています。仕事でも趣味でも、3Dプリンタは数万円の家庭用の機種を用いています(Ender-3、ANYCUBICなど)。造形する物のサイズは基本100mm四方以上のものが大半です。


自宅で使用中の3Dプリンタ。(クリックで拡大)


●0.8mmはいいぞ!


現在、家庭用の機種はデフォルトで0.4mm径のノズルが付いているものが大半です。0.4mmは汎用的で印刷における問題の起きにくいオーソドックスな使い心地です。ですが、目的によっては微妙な性能になるのも確かです。また、ノズルは1個数千円と手軽ですが、目的にフィットすれば大きなメリットを得られるため、ノズルの変更はチャレンジする価値が十分にあると思います


ノズルの径を比較。左:0.4mm、右:0.8mm。(クリックで拡大)

●0.8mmノズルのメリット・デメリット

Blade-10.8mmのメリットですが、
・印刷時間が短くなる
・ノズルの詰まりがほぼ発生しない
・ボーデン式でもTPUが刷れる

逆に、デメリットは、
・スライサの設定を理解する必要がある
・サポート材が硬い
・糸引きが多い
・シームが目立つ
となっています。

・印刷時間が短くなる
ノズルが0.4mmから0.8mmになることで、印刷時間の短縮ができます。ノズル径が大きくなることにより、より短い移動で造形物が完成します。3Dプリンタの欠点である印刷時間の長さを解決できます。


スライサにおける印刷時間の差。(クリックで拡大)

・ノズルの詰まりがほぼ発生しない
0.4mmのノズルは、使用時間が長くなるとノズルの詰まりが発生し、メンテナンスタイムが発生するかと思います。0.8mmの場合、ノズルの詰まりが発生しません。正しくはノズルが詰まるほどの大きなスラッジになるまで時間がかかるが正解だと思います。私は0.8mmノズルを使用し、2年でPLAを55kg印刷しましたが、一度もノズルの詰まりが発生していません。

・ボーデン式でもTPUが刷れる

TPUは柔らかく、ダイレクト式でないと印刷できないのが通説ですが、0.8mmなら印刷できてしまいます。おそらく、ノズル径が大きいことでフィラメントの押し出しに必要な力が小さくなるのが原因だと思っています。

TPUを使用するためにダイレクト式に改造するのも良いですが、ノズルの交換もありかもしれません。

・スライサの設定を理解する必要がある

ここまでメリットを紹介しましたがこれからはデメリットを紹介します。そして、そのデメリットを緩和させるためにはスライサの設定を変更する必要があります。世の中のスライサの設定は0.4mmノズルのために最適化されている印象を受けます。

普段は気にしていなかった設定を見直す必要があります。また、私はスライサとしてCureを使用しているためCuraでの用語を用いて説明しております。

・サポート材が硬い

0.8mmのノズルを使用した場合、必然的にサポート材も0.8mm厚になります。0.8mm厚のサポート材は下手な造形物よりも硬いので注意が必要です。

対処としては、
(1)サポート材が少なくなるような形状、スライス方向にする。
(2)サポート材の密度を下げる。
(3)(Curaの場合)サポートインターフェースを有効に使う。


0.8mmで印刷時のサポート材。(クリックで拡大)

・糸引きが多い
0.4mmと同様の動きをした場合、糸引きが多くなります。ノズル径が大きいことにより、意図しないタイミングで樹脂が出てしまうことになります。よって、ノズルから樹脂を出したり止めたりを繰り返す印刷は苦手です。

対処としては、
(1)なるべく一筆書きで印刷できるような形状にする。
(2)サポート材を減らす。
(3)複数個の部品を同時に印刷しない。
(4)コーミングモードの使用
(5)引き戻し距離の増量

・シームが目立つ

糸引きが多いと近しい内容になりますが、0.8mmはノズルから樹脂を出したり止めたりを繰り返す印刷は苦手です。そのため、層と層をまたぐときのシームにも影響が出ます。

対処としては、
(1)シームが造形物の裏側、角になるようスライスする。


曲面で目立つシーム。(クリックで拡大)

・0.8mmノズルまとめ
(1)0.8mmは大きな造形物を雑に印刷するのに向いている
(2)サポート材は固い+糸引きの原因になるのでなるべく少なくする方が良い



●最後に

大型造形用の3Dプリンタは高価で、一般人が手を出せる代物ではありません。ですが、家庭用機を0.4mmから0.8mm、あるいはそれ以上にすることでわずか数万で先端の技術を体験できるなんて素敵だと思います。興味があれば1.2mmノズルや"Volcano Heater"(大径向けの強力ヒーター)で検索してください。愉快な世界が待ってます


次回の執筆は♠NoMuR(XXV-100)さんです。
(2022
年7月12日更新)

 

[ご利用について] [プライバシーについて] [会社概要] [お問い合わせ]
Copyright (c)2015 colors ltd. All rights reserved