●はじめに
私にとってプリンタと言えば、インクリボンを使って紙に文字を印字するプリンタが最初でした。それが今では立体を出力できるフルカラー3Dプリンタまで登場する世の中で、技術の進化とは凄いですよね。3DCGの初期は数色でのワイヤーフレーム表示が限界でしたが、3DCGはどんどんリアルになり、その立体が出力できるようになるなんて凄い世界になりました。
●CG学科の先生だったのにフィギュア造形学科へ!?
2017年に突然、校長からフィギュア造形学科作ったのでよろしく! と言われました。畑は違いますが3D分野としては同じですし、アニメやゲームのIP知識は生かせられると思い、CG学科を離れフィギュア造形学科へ移籍。アナログ造形からデジタル造形までを教える学科として卒業生をフィギュア業界に輩出して参りました。
最後を過ごした学科の教員準備室(3Dプリンタ出力部屋)
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●フィギュア造形学科から海洋堂へ転職
そんな中、古い卒業生でアニメやCGの学科を経て海洋堂に入社したボーメさんや香川雅彦さん、また私の教え子も海洋堂に入社しており、そのお陰で海洋堂とのお付き合いが始まりました。学校で海洋堂と同じ3Dプリンタを利用していたこともあり、いろいろと情報交換を行っていた中で、海洋堂宮脇センムからのご相談を受けました。海洋堂は未だアナログ造形がメインなので、レジェンド造形師を含めた皆さんを外の世界と同じデジタル造形へ導いてほしいと頼まれ、造形部のまとめ役として転職することにしました。
転職すぐの頃の海洋堂3Dプリンタルーム
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●アナログな世界
転職してビックリしたことは、社内でPCを支給されたのが2年前くらいの方もおり、年齢が上がるごとにデジタルに弱い感じでした。これは大変だと思い、PCリテラシーから始めて、デジタル造形への準備を進めました。
●デジタル造形師育成プロジェクト始動!
まずは授業準備です。半導体不足の影響もあり授業で使うハードの調達に2か月ほどかかるようだったので、並行してカリキュラム制作や授業していただける講師を探しました。
知り合いの3名に講師をお願いし、それぞれ得意とする分野を担当していただきました。基礎講座、実技講座、応用講座の3段階で進めました。講師の3名の内2名は本リレーコラムを過去に書いた方でもあり、何ともご縁を感じております。
●カリキュラム完成
海洋堂の造形師の中には、すでにZBrushで造形している方もいましたが、全員独学で習得していたので、仕事として使っていても、本当に自分の使い方が正しいのかを見極め、他の方はどのような造形方法をしているのか知りたいという声を聞いておりました。そこでZBrushを使える方も含め、勉強会は造形部全員で基礎から受けてもらいました。
●3人の講師による造形授業開始!
基礎講座はまずはZBrushの概要説明、ツール類の基礎講座、最新機能についての説明をしていただきました。実技講座では、操作やスカルプトの基礎、機能説明や応用を教えていただき、応用講座では、キャラクター造形の実務応用や造形師の質問内容の実演を行っていただきました。
オンライン配信も同時に行ったZBrush授業の様子
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●1年後には全員がデジタル造形にスイッチ!
授業の甲斐もあり全員がデジタルに移行できましたが、いろいろ問題も発生しました。アナログ原型は完成した日に終了ですが、デジタル原型は3Dプリンタで出力して、磨いて完成なので、初めは出力や磨きの段取りが大変でした。いろいろな工夫や段取りを重ね今に至ります。
デジタル造形作業風景
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飼育員とライオンセット ライオンのZBrushデータ。(クリックで拡大)
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ARTPLA 飼育員とライオンセット 出力品サポート付き
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ARTPLA 飼育員とライオンセット 飼育員/一輪車 出力品
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●3Dプリンタの進化
メインはFormlabs製のForm2を使っておりました。Form3の登場で導入してみたもののForm2に慣れているせいかForm3が代替えとして良いとも言えず、しばらく騙し騙しForm2をメインで使っておりました。
しかし若い造形師が入社してくると、近年価格も下がったお陰で自宅に3Dプリンタを持っている方が増えてきており、海洋堂も例外ではありませんでした。皆さん使い慣れている3Dプリンタを会社でも使いたいとのことで、中でも利用者が多いELEGOO Saturn 2が増えていきました。
最近社内に増え始めたサターン2
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●そして今…
一部の造形師だけが使っていた3Dプリンタは、今や重要な造形ファクターとして造形師全員を支えております。3Dプリンタ専用ルームも完成し、サポート材の効率化の研究なども進み、以前より3Dプリンタを取り巻く社内環境は良くなりました。
●未来に向けて
今後3Dプリンタに期待することは、出力スピードアップ、積層痕やサポート痕がなくなることですかね。手間のかかる磨きがなくなると大変嬉しいです。
これからも進化し続ける3Dプリンタの未来を楽しみにしております。
次回の執筆者は菅野貴司さんの予定です。
(2023年3月13日更新) |