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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第56
造型人生と3Dプリンタ

田中寛晃(C.S.Model Design)/造形師

クリーチャーフィギュアの原型師になりたいと思い続けるも、恐竜のウレタン造形やテーマパークなどのFRP造形、恐竜化石のレプリカ作成などを経て、現在はBANDAI「いきもの大図鑑」の彩色見本を担当するなど、クリーチャーフィギュアとは関係のない造形人生を歩んでいます。

 

●造形屋になるまで

「クリーチャー」「ガレージキット」「原型師」……。そんな言葉に憧れていた30年前、私はNEE(No Education,Employment)でした。エンプロイメントもエデュケイションもなかったけれど、粘土のトレーニングだけはバッチリしていました。

当時のクリーチャーのガレージキットは30cmくらい(1/6スケール)が主流でした。「このくらいの大きさの粘土細工なら作れる!」。そう思ってエレキギターやエレキベースの演奏で固くなった指先を武器に、昼夜粘土を捏ねまくっていました。

その後数年、原型師としての初仕事をゲット。クリーチャーではなく妖怪でしたが。調子に乗って天狗になった私は、「もうなんでも作れる!」と思い込み、フィギュア原型製作会社(?)勤務の知人から紹介されるいろいろな仕事を引き受けてみました。


初めての原型仕事となった妖怪「首かじり」。昨年調布の鬼太郎茶屋に展示してあったところを撮影。(クリックで拡大)

結果、アニメのキャラクターなどは苦手、誰かさんのソックリさんを作るのも苦手。そしてなにより「小さいのが苦手」ということが判明しました。時代は食玩ブームになっており、もう30cmもあるようなクリーチャーフィギュアの原型仕事など私の元に舞い込むことはありませんでした。
※現在に至るまでクリーチャーフィギュアの原型を依頼されたことはありません。

実物大の昆虫の原型を作る仕事をキッカケに私はフィギュア原型師を諦め、本業となっていた造形屋(大きめのFRP造形をメインにする工房)のオジサンになりました。


フィギュア原型師を諦めようと思ったキッカケの実物大昆虫原型 。(クリックで拡大)

0.3mm径の真鍮線にエポパテを盛り、リューターで造形。限界でした。(クリックで拡大)

●Zbrushをきっかけにデジタル原型師デビュー

そこから約10年。パソコンに詳しい友だちから、「Zbrushってのがあるんですよ。PC上で粘土みたいに造形できるんですよ」という話を聞きました。調べてみると、たしかにそれは素晴らしいものでした。「でも出力はどうするの? 3Dプリンタ? お高いんでしょ? 粗いんでしょ?」と思っていたところに、Form2という超高精細出力ができる3Dプリンタがあることを知りました。予想通りお高かったですが(50万円以上だったかと思います)。

そこでグヌヌと諦めていたのですが、数年後には「Photon」という造形屋のオジサンのポケットマネーでも購入できるお手頃価格で高性能3Dプリンタが登場したのでした。それでもすぐにポンとは買えませんでしたが。

ちょうどその頃でしょうか。「Zbrush」はそこそこお高いので、体験版をダウンロードして軽くイジること数週間。以前使ってみた「Sculptris」とはぜんぜん違う。あれはあんなに簡単だったのに、何故これはこんなに難しいのか。体験版だし失うもの(主に金銭)はなかったので、諦めてもよい、投げ出してもよい、そんな自分を嗤われてもよい。Zbrushの会得を諦めたタイミングで、なんと実物大の恐竜のデジタルモデリング原型仕事が舞い込みました。

これはモノにするしかない。そこそこのお金が絡んでいますし。ZBrushの体験版期限も迫っているし。必死に頑張った結果、ギリギリ体験版期限に間に合わずにZBrushを購入することになりました。そして無事にデジタル原型師デビューも果たせました。


ZBrush体験版で製作中の実物大恐竜のデジタル原型。(クリックで拡大)


●3Dプリンタの普及で原型師に追い風

こんな感じにデジタル原型や3Dプリンタに関わるようになったのですが、造形屋での仕事は発泡スチロールの切削による出力が多いです。数メートルとかの大きさなので。

これまで発泡スチロール原型を包丁やワイヤブラシで彫っていた造形屋のオジサンたちの中には、クライアントから支給された3Dデータを元に機械で切削した発泡スチロールの表面の切削痕をヤスリで優しく撫でるだけになった人も多いと思います。デジタル原型が作れるように進化したオジサンはパソコンでグリグリするようになりましたけど。

造形屋の仕事にもデジタルの風が吹き、家庭用というか、小型で安価な3Dプリンタがフィギュア原型師や原型師ワナビーの間にも普及しました。器用じゃなくても原型師になれる時代の到来です。データさえ作れれば、かなり小さなサイズでもフィギュア原型として通用する立体を3Dプリンタが吐き出してくれます。

私も3Dプリンタのおかげで小さいサイズのフィギュア原型が作れるようになりました。20年前に痛感した「小さいのが苦手」が克服できたのです。※それでも「原型師です」と言えるほど原型仕事は来ませんけど。

●フルカラー原型の時代へ


しかしまだサポート痕、積層痕の処理や、出力物の複製などアナログな部分は残っていて、そこには器用さが必要なのかなと思います。そのへんの問題がクリアできれば3Dプリンタを購入する人はさらに増え、3Dプリンタもより進化すると思います。3Dプリンタだけではなく、レジンも進化するでしょうね。

そうなると複製業者さんなどの「これまで通りに仕事をしてきた」人たちの仕事を奪うことにもなると思うので、そこがジレンマですね。



パッと見は複雑でもデジタルなら簡単でした。粘土で作ると大変ですが 。(クリックで拡大)

フグの全長は約10mm。データでは体表のトゲも作ってありますが、肉眼では確認できません。(クリックで拡大)


かつてエポパテ原型でカブトムシのサナギを作りましたが、デジタルで再挑戦しました。(クリックで拡大)

成虫側の触覚やツメなど、デジタル+3Dプリンタでなければ作れなかったと思います。(クリックで拡大)


いきなり透明な製品が作れるのも3Dプリンタならではだと思います。これはレジンをブレンドしてあえて少し曇らせていますが。(クリックで拡大)

これは蓄光塗料を使用していますが、そのうち蓄光レジンが発売されたら嬉しいです。(クリックで拡大)

現在、私はフィギュアの彩色見本の仕事などもしているのですが、鮮明にカラー出力できる3Dプリンタが普及してしまったら、その仕事もなくなってしまうと思います。私は少数派色覚、いわゆる色弱なので、PC上で色の判別ができません。プラカラーとかは「○○グリーン」とか「〇〇ブラウン」とか書いてあるのでなんとなくそれっぽい色を選べますけど、ZBrushなどのモデリングソフトの「カラーパレットからそれっぽい色をピッキングする方式」だとお手上げです。

デジタル原型にデジタル着彩してフルカラー3Dプリンタで出力する。数年後にはそうなっていそうなので、デジタル原型のみで生き残れるように早くデジタル原型師として食って行けるようにせねばです。


20パーツ以上の出力パーツを組み立てて(内部に鉄骨芯入り)、全長800mmの恐竜も作りました 。(クリックで拡大)






次回の執筆者はnunさんの予定です。
(2023
年5月2日更新)

 

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