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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第58
趣味の模型と本業のCGをつないでくれた3Dプリンタ

さいそう/CGディレクター・造形作家

さいそう(齊藤壮平):1983年生まれ。CGディレクターとしてCMやMVのCG制作をする傍ら、趣味で行っていた模型制作と本業でのCGスキルを活かして2020年よりオリジナルフィギュアのガレージキットディーラーとして活動中。本業では映像だけではなく、キャラクターデザインも(代表作CM/大和ハウス工業「ダイワマンSEASON2」、米津玄師「POP SONG」MV、SQUARE ENIX「ドラゴンクエストウォーク」発表PV、サカナクション「多分、風。」MVなど)。

 

●はじめに

3Dプリンタについてのリレーコラムという事でnunさんからバトンを受け取りました「さいそう」と申します。よろしくお願いします。3Dプリンタの技術的な部分や注意点など私が言いたかったことは前回のnunさんのコラムで全部言われてしまったので(笑)、今回は私自身が3Dプリンタを使うようになった経緯や、3Dプリンタの造形活動や普段の生活(仕事)との関わり方などを話せていけたらと思います。


「CLEANER」2023年。最新作です。(クリックで拡大)

「BC-1」2022年。既製品のクリアカプセルを組み込んだ設計も、デジタル造形ならぴったりハマります。(クリックで拡大)


「MACHINA」2021年。ごちゃごちゃとしたメカパーツも、3Dプリンタを使えば最小限の分割で量産できます 。(クリックで拡大)


「No Face」2022年。電飾の配線をあらかじめ設計に組み込めるのも3Dプリンタの強みですね。(クリックで拡大)

●趣味で行っていた模型制作

2017年頃より始めた趣味の模型制作でしたが、あくまで趣味なので普段のCGの仕事っぽくならないようにデジタルは取り入れないようにしていました。当時はプラモデルのパーツを組み合わせたり、パテやプラバンなど、いろいろな素材を使ってミキシング(キットバッシュ)と呼ばれる手法でオリジナルのキャラクターやメカの模型を作っていました。


「浮遊邸-墨吉雲上2丁目33番斉藤邸-」2019年 キットバッシュ作品。(クリックで拡大)

「H.A.T. Type L Lynx」2019年 キットバッシュ作品。(クリックで拡大)

●3Dプリンタ導入のきっかけ

そんな中、2020年4月頃コロナの影響で在宅ワークになりました。おうち時間が増えて普段より時間的にゆとりのある生活になったので、空いた時間を使って何か新しいことを始めたいなと思うようになり、仕事にも趣味にも使えるし「zbrushと3Dプリンタを習得してワンフェスでガレージキットを販売する!」を目標にする事にしました。

決めたら行動は早い方なので、PCを新調して板タブ買ってzbrush買って当時1番安くて評判が良かったanycubicのphotonを買って…と、とりあえず始めることにしました。

●いざ、ガレキ作り!

最初に購入したphotonは小さいものを作ってプリントする分には問題なく使えてはいたのですが、これから大きめのフィギュアを作ろうと思ったときに造形範囲やスピードなど少し物足りなくなってきました。そこで、ガレージキット販売を本気で考えるなら良い機材を揃えよう!と勢いで買ったのがPhrozen Sonic XL 4Kでした。趣味で導入するには中々高価(当時25万くらいだったような)でしたが、XL4Kのパワーもあって何とか初のガレージキットを完成させることができました。


「MULE」2020年。Sonic XL 4Kを使って初めて作ったガレージキットです。解像度的には最新の8K機と比べると劣りますが(現時点では12K機も発表されています。)、筐体の剛性の高さ来る安定感や造形スピードの早さもあって今でも現役でバリバリ量産してくれているので、元は取れたかなと思ってます 。(クリックで拡大)


●増える3Dプリンタ

1つ買うと増殖していく(笑)と言われている3Dプリンタですが、最初に買ったphotonは会社の後輩に譲ってしまいましたが、Phrozen Sonic XL 4Kから始まってSonic Mini 4K、Sonic Mini 8K、Elegoo Saturn2と現在では4台体制で運用しています。

「汚くて申し訳ないのですが、3Dプリンタの設置状況です。普段はここに遮光のロールスクリーンで光が入らないようにしています」。プリンタごとにスピード重視、解像度重視、透明レジン専用など、役割を決めて運用しています。あと、複数台あると1台調子が悪くなっても量産にそこまで影響が出ないので、安心感があります。4台あるとイベント前の量産もある程度余裕をもって出来るので、おすすめです。その分、1回で刈り取れる量が多いので洗浄は毎回すごく時間かかりますが… 。(クリックで拡大)

最新作「CLEANER」の出力したパーツです。(クリックで拡大)

●趣味と仕事の相乗効果

3Dプリンタ導入以前も趣味の模型と仕事のCGで感覚やセンス的な部分は共有で来ていたのですが、3Dプリンタのおかげでそこが感覚的な部分だけでなく実際の技術やスキル等も共有することが出来るようになりました。仕事をしていても趣味のスキルアップにつながるし、趣味のフィギュア造形をしていてもそこで培った造形力は仕事に活かせるようになり、ひとつで二度おいしい的な感じで、どちらの作業もより身が入るようになった気がします(笑)

最近で言うと大和ハウス「ダイワマンSEASON2」ではダイワマンや敵キャラクター等のスーツやマスクのデザインと原型データも担当しましたが、ZBrushで作った原型データを造形チームに渡して実際のスーツを作ったりなど、デジタル造形と3Dプリンタの技術のおかげでより仕事と趣味の距離が近くなった気がしています。

●今後3Dプリンタに期待すること

私が初めて3Dプリンタを導入した時は液晶も2KHDでRGBだったのが、今ではモノクロになって露光時間は大幅に減少し、解像度も12Kになって1レイヤー内での滑らかさはどんどん進歩していっています。数字で言ったら6倍ですが、面積で言ったら36倍なので、技術の進歩はすごいなーと日々思っています。液晶の解像度は今後どんどん上がっていくというのは想像できるのですが、Z軸の積み重ねのスピードはどうしても物理的にビルドプレートを上げ下げしなくちゃいけないというのもあり劇的なスピードアップがRGB液晶からモノクロ液晶に変わった時以来起きていないので、造形スピードの革新的な変化が起きることを期待しています。

CGでも表面の凹凸表現がバンプマップ→ディスプレイスメントマップ→と来て、更に3D的に方向性を持ったノーマルマップとどんどん進化していきましたが、3Dプリンタにも光の方向性(ノーマル的な)を1レイヤーのマップに保存して、1度に数レイヤーをまとめてプリント出来るようになったりしないかーなんて夢見ています。

とはいっても、素人では想像もつかないような方法でさらなる造形方式が開発されると思うので、そんな遠くない未来に造形スピードも速くて積層も一切出ないような3Dプリンタが手ごろな価格で販売されると期待しています。

●最後に

現在、私の創作活動は3Dプリンタに支えられていると言っても過言ではありません。
今現在、ある程度皆様に注目してもらってガレージキットという商品を実際に手に取ってもらえているのは確実に3Dプリンタのおかげです。今後の更なる3Dプリンタの発展と進化に期待をさせてもらいつつ、私自身も何かしらの形で業界の発展に貢献できるような活動が出来ていけたらいいなと思っています。

などと堅苦しく書いてみましたが、正直なところ3Dプリンタとデジタル造形を導入して一番良かったのは作業工程の終盤までゴミがほとんど出ないことだと思っています(笑)。今までのアナログ作業ではどんな作業をしていても削りカスや粉塵との戦いでしたが、3Dプリンタのおかげで作業場が汚すぎる問題が解決しました! ありがとう3Dプリンタ!




次回の執筆者は村瀬材木さんの予定です。
(2023
年7月7日更新)

 

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