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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第59
3Dプリンタはともに成長する制作仲間

村瀬材木/造形作家

村瀬材木(Murase Zaimoku):1989年生まれ三重県出身。長野県在住。大阪芸術大学映像学科卒業後、CGデザイナーとしてアニメ会社に勤務。2020年より独立、フリーの造形作家として活動。「硬さと柔らかさ」をテーマに、水生生物モチーフでメカをデザイン、造形物制作をしています。「ウオメカ」「MechanicalWatercreaturese」を展開しています。
Twitter:@Latimeriaa
Instagram:@murasezaimoku

 

●はじめに

私は小さい頃から好きだった魚や水生生物をモチーフに、立体造形物を制作しています。

2014年に作品制作を始め、3Dプリンタを導入する以前はジャンクパーツや家庭用品をベースにエポキシパテで造形し、立体作品を作っていました。子どもの頃からレゴや変形ロボットが好きだった影響もあり、パーツを組み合わせたり、有り物からデザインを探っていくことが楽しくて作品制作を始めました。


初期の制作方法一例。(クリックで拡大)

●3Dプリンタと私の親和性、そして一度の挫折

大学時代に3D CGを勉強し、大学卒業後はCGデザイナーとしてアニメ制作会社で勤務していました。仕事上でモデリングソフト(Maya)を扱っていましたので、作家活動の初期から3Dプリンタの導入は視野にありました。

ジャンクパーツを扱うことはメリットもありますが、デザインに合うパーツを探す工程に大きく時間を割かれることが懸念点でした。また、想像したデザインを立体作品として生み出す上で、効率的な手法を追求すると、3Dプリンタを扱うことからは避けられないと思い、本格的に導入を検討し始めました。

そんな中、造形作家の1人から「古い機種なら譲ってあげるよ」とご提案いただきました。ご厚意に甘える形で我が家に届いたのが「MakerBot Replicator 2」でした。2018年のことです。しかし、3Dプリンタ黎明期に発売されたReplicator 2はノズルのメンテナンスが昨今のマシンと比べて容易ではなく、出力も失敗続きでうまくいかず…。2018年時点では心折れてしまい、導入には至りませんでした。


「replicator2」。(クリックで拡大)


●作品制作にFDM機導入

導入を断念してから1年間。これまでやってきてたアナログな方法で作品を制作していたのですが、その間にも3Dプリンタの業界はめざましい発展を続けていました。Replicator 2の欠点を把握していたので、そこを補える新機種を調べたり、知人の作家の意見を踏まえつつ検討し、ついに同じくFDM方式の3Dプリンタ、FLASHFORGEの「adventurer3」に巡り合いました。

価格も安価で、扱いも容易。特に問題点だったメンテナンスのしやすさも改良され、セッティングも5分~10分でできてしまう優秀な機種でした。replcator2での挫折を経たことでadventurer3に巡り会えたと結果的には言えます。2019年の導入以来、故障もなく、2023年現在も現役です。しかしadventurer3は私の得意とするサイズを出力するには、やや小さかったのです。ジオラマのような、乗り物や人物がいる「世界」を製作したい、という欲が常にありました。

細かく分割して出力すればよいのですが、やはり強度面の不安や完成形からずれてしまうことなど、adventurer3だけでは制作に非効率的だと感じるようになりました。そこで、同社製かつ出力サイズも増したadventurer4を2022年に導入。これが非常に使い勝手がよく、私の望むようなマシンでした。現在は大きなパーツをadventurer4、小さなパーツをadventurer3、と使い分けて同時に併用して作品制作を行っています。

「adventurer3」と「adventurer4」。(クリックで拡大)

分割してプリントしたパーツを合わせたベースモデルの一例。(クリックで拡大)

●光造形機に驚愕、すぐさま制作の友に

繊細な造形はやはり光造形機が適していると考え、導入のタイミングを伺っていました。値段が手ごろになり始めた2020年頃。造形仲間から「ELEGOO marspro」という機種が、値段もさることながら性能も良いと聞き、飛びつきました。実際、扱ってみて細かいディテールが精細に印刷できることに驚き、すぐ制作に使っていこうと思いました。

marsproの時点では印刷精度は制作において十分でしたが、積層痕の層も大きく目立っており、出力した後に毎回神経を使ってヤスリがけを行わなければならなかったことを唯一不満に感じていました。

その後いろいろな機種を試し、2023年現在はELEGOO Saturn 2を主として使用しています。印刷精度は求める最上級のレベルで、ほぼ積層痕が出ないことに驚きました。印刷後ほぼヤスリがけを行わずにパーツを扱えるので、制作スピードが格段に上がり、私にとっては現状での最良のパートナーです。

また、光造形機は透明パーツも出力することもできるので、透明のガラスパーツやヘッドライトパーツを作るときに重宝しています。

「ELEGOO Saturn2」。(クリックで拡大)



光造形機で出力したパーツ 。(クリックで拡大)

光造形機で出力したパーツ(Saturn2)。(クリックで拡大)

●制作の流れ、私の3Dプリンタの扱い方

私の制作スタイルは、ふとデザインを思いついて制作を始めるパターンと、モチーフの魚を決めてからデザインを探っていくパターンの2つがあります。ラフの段階で作品の3面図を作り、シルエットをほぼ決めてしまいます。

CGモデリングしたものを3Dプリンタで出力するわけですが、出力したものがそのまま作品のフォルムにはなりません。データ上のものは、作品造形の「ベース」なんです。最終的なフォルムはエポキシパテを盛り、指の感触を頼りに心地よさが出るまで曲面出し、削り出しを繰り返しながら造形を追求します。一番楽しく、一番悩む作業です。

ちなみに、骨格となるベースには耐久性や切削性などの造形のし易さがあった方がいいので、光造形機よりFDM機を好んで使用しています。

ボディの成型を進めていく段階で、メカパーツのモデリングも進めます。細部に使うパーツ群の大きさだったり、どこに扱うかによってFDM機で出すか、光造形機で出すかを検討します。

参考として下に掲載した作品に関しては、運転席のコンソールパネルのモニター部分などは光造形機、タイヤやボディ後方の舵びれ部分はFDM機で出力。すべての造形が終わったらエアブラシを使って基本塗装をし、筆で汚し塗装や仕上げを行い、作品完成となります。アナログ造形とデジタル造形を併用していることが、私の制作方法の特徴だと思いますし、想像したものを立体作品として造形できている大きな要因になっています。



(1)ラフスケッチ 。(クリックで拡大)

(2)出力したボディの「ベース」。(クリックで拡大)


(3)エポキシパテで造形を加える。(クリックで拡大)

(4)塗装を終えた作品本体。(クリックで拡大)


(5)同工程で作ったジオラマ展示台と合わせ完成。
「M.W24 Ranzania laevis」 。(クリックで拡大)



●今後の3Dプリンタに求めるもの、願望

1つに3Dモデリング上でマテリアルの色を決め、その色に合わせて細かく精細にフルカラーで出力できるプリンタが欲しいです。人物フィギュアをZBrushで造形し、色やテクスチャ―もPC上で設定したモデルがそのまま精度高く出力されると最高だなと思います。

もう1つはなかなか難しいと思いますが、脳内で想像される立体物をそのまま立体に起こせる3Dプリンタがあったら制作に活用できそうで面白そうです。

それから思うのは……出力する際に出てくるサポートを全自動で取りとってくれるプリンタ。これはすぐにでも出てほしいです!

●終わりに

3Dプリンタの技術発展のスピードはかなり早いと感じているので、その技術発展のスピードに遅れをとらないよう、自分自身の造形技術を日々アップグレードしていきたいと思います。私にとって3Dプリンタは仲間みたいな存在だと感じます。パーツモデルを制作して印刷をかけ、私が寝ている間も働き続けてくれる同僚みたいな(笑)。

今回3Dプリンタに関してテクニカルな点はあまりお話しできませんでしたが、アナログ的なアプローチや造形に重きを置く私のような作家も、3Dプリンタを工程や手法の1つとして大いに活用できることをお伝えできたなら幸いです。読んでいただきました皆様、ありがとうございました。


ウオメカ カラッパとFDM機で出力したデカラッパ。(クリックで拡大)

●作品紹介


リュウキンモチーフの作品「M.W15 Carassius auratus Fantail」。(クリックで拡大)



ジンベエザメモチーフの作品「M.W18 Rhincodon albino」 。(クリックで拡大)

「ウオメカ」作品群。(クリックで拡大)




次回の執筆者は石渡 哲さんの予定です。
(2023
年8月9日更新)

 

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