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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第60
現在のモチーフ「神仏」と3Dプリンタ

石渡 哲/造形作家

石渡 哲:2014年から「金属が自由意志をもって育つとしたらどうなるか」というテーマを軸にオリジナル造形を始め、ワンフェスなどの造形イベントに参加。 2022年初個展「遍(偏)在する神々」を開催。2023年には「遍(偏)在する神仏」を開催予定。
Twitter:@tetuham

 

●造形を始めた理由~3Dプリンタとの出会い


心像『金剛』(クリックで拡大)

心像『帝釈天』(クリックで拡大)


心像『弥勒菩薩』(クリックで拡大)

タマシイ(クリックで拡大)

初めまして。村瀬材木さんからバトンをもらいました、石渡といいます。ここでは主に自分の3Dプリンタを中心とした製作スタイルについて書いていきます。

オリジナルの造形を始めたのは20歳を過ぎたくらいの時で、それまでプラモデルに色を塗る程度のことはしていましたが、自分で1から造形物を作るということはほとんどしてきませんでした。

ある出来事がきっかけで造形イベントであるワンダーフェスティバルに参加するようになったのですが、直前に予定していたものが出品できなくなる事態に遭い、切羽詰まった状況の中、なんとかオリジナルの造形物を作り上げ、出展しました。


「コウノトリ」(クリックで拡大)

今でも忘れられないのですが、初めて作った作品がそこで1つ、手に取ってもらえたのです。その経験は、自分が好き好んで行ったものが誰かを喜ばせることができる、という確信へとつながり、その後複数のイベントに参加するようになりました。

しばらくは樹脂粘土による造形→複製→完成という作業プロセスを踏んでいたのですが、めまぐるしく進歩を続ける造形技術を横目に、技術から新しい発想が生まれるのではと考え、スカルプトソフトのZbrushを購入してラフデザインを起こしてみるなどしていました。しかしながら、3Dプリンタを導入してみようという考えは当時の僕にはありませんでした。価格的な問題と、精度、強度的な懸念がぬぐえなかったためです。

転機となったのはCovid-19の流行です。直接対面しての販売が難しくなると考え、郵送やデータ販売を視野に入れた活動をしようかと迷っていたところ、前述の問題点を解決してくれる「ELEGOO MarsPro」という機材に出会うことができたので、5年続けていた造形手段の一新を決意しました。

初めて触る3Dプリンタは「もっと早く触れておけばよかった」と後悔を生むほど素晴らしいものでした。データであることから「現状を捨てて良いものを目指す」ことへの心理的ハードルも下がり、必要に応じて複数個用意することも可能で、なにより自分が休んでいる間にも働き続けてくれることから、優秀な武器であり助手を得たという感覚がありました。

作業方法を一新したことによって造形物にも大きな変化がありました。それまで良くも悪くも物理的な制約の中で創造されていたものは、左右非対称、非人型という造形物が多かったのですが、より複雑で人型に即したものが作れるようになり、造形の対象にとどまらず、作品を貫くテーマさえも変えてしまいました。

●現在のモチーフ「神仏」について

前述のとおり、人型を製作するハードルが下がったこともあり、さまざまに模索していく中で、人型であり物語を絡めていけるものが良いと判断しました。

神仏にまつわる物語は普遍的で広大であり、神仏を否定して成長してきた近現代を生きる我々においても強く影響している部分があります。また、これまで自分の行ってきた、「金属が自由意志をもって育つとしたらどうなるか」というテーマを組み込みやすいこともあり、モチーフとして選択しました。

もちろん、神仏の像といえば石か木という、時代を超える力のある素材が選択されることや、姿かたちを「自由に」改変してしまうことの是非などの迷いはありましたが、不易な部分を守り、現代の感覚感性や技術に合わせて受容された1つの形を表現したいという思いもあり、今の製作を行っています。

もとより神仏は神話や教義のなかだけに存在し、絵や像は現実世界を生きる人々にも「分かる」ためにあるのだと考えました。

2023年8月現在、その構造と相似形な企画をしたいと思い、元となるデータをネット上に置き、出力した後はあなた「だけ」の像を手にできるという、連作を行っています。

企画『遍(偏)在する神仏』(クリックで拡大)


●製作スタイルについて

3Dプリンタでの製作を軸として以来、作業の大部分はデータと向き合うことが中心です。とはいえ、出力したときに生じるデータとの印象のズレや、サイズに合った各ボリュームの検討が必要なので、データと出力物とを往復するのが常です。

意識していることとしては、データよりも「大げさにすること」があります。データは良くも悪くも細部がはっきり見えているので全体のバランスを見過ごしてしまいがちです。また、各部の適切な大きさは最終的な出力サイズによって多少の変動があるので、その都度修正しています。

仮出力したもの。台座の下部が大きく、光背が小さいので本体の印象が薄まっている(クリックで拡大)

データ修正 (クリックで拡大)


本出力(クリックで拡大)


●3Dプリンタの今後、展望

造形面においてはサポート不在で出力可能な機器が増えると良いと思います。あれに泣かされるのが3Dプリンタの入り口だと思うので、悲しみは少ない方が良いです。

多少背伸びする程度の技術と資金さえあれば、自分が望むような立体物を手に入れられる3Dプリンタは、日常生活においても必須なものであると思います。だからこそ、より環境負荷が低く、人体にも安全な出力が可能なプリンタが必要だと感じます。もちろん著作権や既存の商品との兼ね合いという問題がありますが、それらを克服した先に、多くの人々が「ないなら作っちゃおう」という展望を獲得できる方が、面白い生活が待っていると思います。





次回の執筆者はMiZ_MARUTTOYSさんの予定です。
(2023
年9月6日更新)

 

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