●手原型からデジタル造形と3Dプリンタへ
私は元々特殊メイクや特殊造形の仕事をしたいと思い、大学では特殊メイクのサークルを立ち上げて活動をしていました。
大学1回生のころに初めて作った着ぐるみスーツ。作り方が分からず全身粘土彫刻を型取りして作成しました。(クリックで拡大) |
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大学の映像学科の特撮作品の特殊メイク。朝4時からメイクスタートした長丁場の現場でした。(クリックで拡大)
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当時は粘土での原型やウレタンでの怪獣造形など手原型をしていました。ご縁があって特殊メイクの本場であるハリウッドのプライベートスクールで特殊メイクを学んだ際、造形スタジオではCGがメインになっているという現場を見て、今後はCGの勉強をしていかないと思い、就職先をゲーム会社に決めました。
就職するまではアナログ1本だったので、配属されてからCGを触り始めたのですが、ビシバシと学べる環境のおかげで、ZBrushを用いてある程度自分の作りたいものを造型できるようになりました。
自分が新人の頃にも3Dプリンタはありましたが、まだあまり光造形は普及しておらず、個人で買うにしても委託するにしても、とても高額で手が出なかったのですが、Photonという3Dプリンタが3万円ほどで販売されたのでダメ元で購入しました。これが想像以上の精度だったので、今では当たり前ですが、自宅で3D出力できるということに当時は感動したのを覚えています。そこから本格的にデジタル造形と3Dプリンタにのめり込んでいきました。
手原型で制作したプトゥン(右)と初めて光造形で出力したプトゥン(左)。(クリックで拡大) |
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●さまざまな3Dプリンタやレジンの試行錯誤
Photonで3Dデータを出力していくと、だんだんやってみたいことが増えてきて、より大きなものを出力したいなと思うようになりました。そのあたりからSK本舗さんと仲良くなって、いろいろレジンや3Dプリンタを教えてもらえるようになりました。
その頃できたばかりの水洗いレジンは個人的に画期的なもので、肌があまり強くない自分にとってはとてもありがたいものでした。ただ登場当時は、アルコール洗浄のレジンよりも扱いが難しく、しっかり洗浄したつもりでも2日くらいで割れてしまったり、出力失敗が続いたりしました。当時はいろんなクリエイターさんが実験していた印象があります。僕もレジンの設定や露光時間などいろいろなテストをして自分の家の環境に合った数値を探しました。
露光価間が足りず脱落した様子。これを見たときの絶望感が凄い(笑)。(クリックで拡大) |
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ベースの露光時間が足りずに失敗。露光時間チキンレースは出力する時期とレジンによって数値が変わりますね。(クリックで拡大)
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当初このレジンの出力品は販売をメインにしようと思っていましたが、その当時は割れてしまうことの問題解決などのクオリティコントロールが難しいと感じたため、複製販売に切り替えました。
そこから数年で水洗いレジンはSKさんオリジナルでだいぶ品質も安定してきて、ここ最近だと「高靭性水洗いレジン」が登場し、従来のレジンよりも軟性があって細いパーツが折れにくく、また壊れにくくなったので、現在はそれをメインに使っています。
また3Dプリンタ本体の進化も早く、4kが出たと思ったら今は主流は8Kになり、すでに12Kも登場しているので、追いつけていない状況です笑。
3Dプリンタや素材は、技術的なノウハウが溜まったのか、露光時間が激減したり壊れにくいものも増えてきて、だいぶ使いやすくなりました。それでもいまだにさっきまで綺麗に出力されてたのにー!? みたいな失敗もたまにあるので、大事な出力の時はいつもプリンタを祈ってます。笑。
●3D造形を制作する際に意識していること
複製するにせよ出力品販売するにせよ、立体映えするような面構成やデザインはわりと意識して制作するようにしています。具体的に挙げると正面からみた時と横から見た時に印象が全然異なるようするなど、いろんな角度から見たくなるようなデザインにします。
「観測義体」という作品で正面から見たときはヒロイックに、横から見たときは骸骨のような不気味さを意識してます。(クリックで拡大) |
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「観測義体」を横から。(クリックで拡大)
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自立しなさそうなデザインを台座などなく自立させるなど、造形ならではの面白さというのは意識して制作しています。とくに3D出力品だと複製のことを意識しなくてよいので曲線で交差させたトラス構造にしてみたりと、いろいろ調整することができました。
●今後の3Dプリンタに期待すること
「虚人」という作品。この見た目で自立します。(クリックで拡大) |
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「虚人」の別アングル。(クリックで拡大)
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いろいろ夢はありますが、現在のサポートを付けて出力するフローがなくなるとめっちゃ嬉しいですね。だいぶマシになったとはいえサポート跡を処理したり、そこで失敗することもあるので、まったく別の出力方法とか出るといいなぁと思っています。
またフルカラー3Dプリンタも少しずつ進歩はしてますが、まだまだ伸び代はありそうなので、強度やクオリティがより上がるといいなぁと思っています。どちらも数年のうちに実現しそうな勢いで日々新しい情報が出ているので、しっかり情報は追って自分の作品に取り入れ続けたいですね!
次回の執筆者はイササさんの予定です。
(2023年11月7日更新) |