TOP ■ニュース ■インタビュー ■コラム ■インフォメーション

3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第63
粘土造型から
3Dプリンタ活用へ

イササ/造形作家

1992年生まれ。自主制作で3D CGと3Dプリンタを使用してフィギュアの制作を行いつつ、フリーランスでカプセルトイのデザインや原型、ゲームのキャラクターモデリングをしています。使用ソフト「Zbrush」、3Dプリンタ「Sonic Mighty 4K」「Saturn3 Ultra」。
X(Twitter):@isanatolu

 

●3Dプリンタを導入したきっかけ

2013年頃からイラストの制作でイベント出展や仕事を行っていました。2017年頃から石粉粘土を使用してワンオフのフィギュアの制作を行い、2018年に初めて業者複製を利用してレジンキャスト製のフィギュアを持ってワンフェスに参加しました。


石粉粘土で製作したフィギュア。(クリックで拡大)

石粉粘土で制作したお面。(クリックで拡大)

以降も樹脂粘土やオーブン粘土を利用して立体物の制作を行っていたのですが、耐久性の出しにくさや細かい造形の難しさ、左右対称の制作、シリコンでの複製の難しさやアレルギーの問題で心が折れ始めた頃に、3Dプリンタが家庭用に普及し始めているということを知りました。

当時(2019年頃)、アマゾンでANYCUBIC社の「photon」が3万円ほどで買える時代となり、あとは3Dデータが作れるなら何とかなるだろうと軽い気持ちで、当時の無料Zbrush的なポジションだったSculptrisをダウンロードしました。ざっくり触ってこれならいけるだろうと軽い気持ちですべてを導入したのが始まりです(当初はスライサーソフトなども知らなかったので見切り発車もいいところでしたが…)。

レジンや諸々の備品代などで合計4万円ほど使いましたが、できることの規模感を考えると、初期投資としてはかなり安く済んだなと思います。

自分の作品を商品として販売していく以上、設備投資で上げられる部分のクオリティはどんどん上げていくべきだと考えているので、Zbrush CoreやPhrozen社の「Sonic Mighty 4K」を買ってみたり、Zbrushを無印にアップグレードしたりなど、作りたいものや技術の進歩に合わせて環境のアップグレードを行いながら制作を続けています。

●3Dプリンタでやってみたかったこと

3Dプリンタを使い始めてすぐはデータを作ることに必死でしたが、心のどこかでずっと「粘土造形で苦手だった細かい造形の克服」と「3Dプリンタならではのものを作ってみたい」という気持ちが強かったです。そういう部分から仕上げてみたのが「指乗せドラゴン」の初期型でした。

当時の光造形タイプの3DプリンタはIPA(イソプロピルアルコール)で洗浄するタイプで、今ほど耐久力もないレジンしか手の届く範囲になかったので、「指乗せドラゴン」をいずれ改良したいと思い、しまい込んでいました。2年後、造形の技術やプリンタの買い替え、耐久力が上がり柔軟性も持つレジンが販売されたこともあり、それらを使用することで耐久もクリアでき、リメイク版を製作しました。

正直な話「指乗せドラゴン」の形状などについては3Dプリンタでなくても製作可能です。ただ、3Dプリンタを用いれば、目的に合わせて細部の調整を後から行わなければならない作業ではサイズを変えて出し直しをするだけで済んだり、少し傾きを変えてあげるだけで済んだりと、粘土だとばらしたり一部作り直しをしなければならない作業が簡単にできます。また出力を待っている間に他の作業ができるので、どんどん新しいものが作れるので、そういった面は3Dプリンタならではかなと思います。


指乗せドラゴン初期型。(クリックで拡大)

指乗せドラゴンリメイク版。(クリックで拡大)

●3Dプリンタを使用して感じた魅力

3Dプリンタや造形ソフトに慣れてくると、粘土造形の時には苦手で作れなかった指やヒレなど小さくて細かったり薄かったりするパーツの制作もできるようになり、自分が作ることができる幅をかなり広げられたのはとても大きなことだと思います。

また、シリコンでの複製が苦手である以上、複製は業者に頼るしかないのですが、業者複製は手軽な価格ではないため粘土で作ったものはすべてワンオフのフィギュアとして販売するしかありませんでした。

なのでどうしても欲しいと言ってくださってる方々にお届けするのが難しかった時期がありました。3Dプリンタがあればサポートなどの設定さえミスしなければ機械によって型など関係なく欲しい数の複製が行われ、バリ取りの手間も少なく、結果皆さんの元にお届けしやすくなったことは何物にも代えられないなと思います。


出力した写真。(クリックで拡大)

●参考画像

参考01~03は、苦手な細い線や薄いパーツを多用したデザイン。参考04は、頭部の瓶を出力品で作った作品。ボディはレジンキャストなので強度があり、頭部を出力品にすることでシリコンでは複製できない形状をそのまま再現した。


参考1。(クリックで拡大)

参考2。(クリックで拡大)


参考3。(クリックで拡大)

参考4。:頭部が瓶型の出力品。(クリックで拡大)

●今後への期待

3Dプリンタやそれで作れる出力品ははまだまだ安全性や耐久力、機械としての安定性などクリアするべき課題が多いものではあると思います。ただそれを凌駕するほどの魅力もたくさん詰まった機械だと思います。

IPAで洗浄するタイプのレジンではABSライクのような密度の高い硬度を持ったレジンも出始めていますが、水洗いレジンのような液体自体の粘度の低さも出力の上では重要なので、そういった部分がクリアできるいいとこどりのレジンが出てきてほしい。また、もっと別の形で安定した出力ができるサポートを付けられる3Dプリンタが家庭用に開発されれば、さらに出力品でできることの幅は広がるのかなと思います。

目まぐるしく進化を遂げていく3Dプリンタですが、そのお陰で今の私があるといっても過言ではないので、これからの流れにも乗っていきたいですね。

 


次回の執筆者はまさむねさんの予定です。
(2023
年12月4日更新)

 

[ご利用について] [プライバシーについて] [会社概要] [お問い合わせ]
Copyright (c)2015 colors ltd. All rights reserved