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3Dプリンタの明日を妄想する

本コラムでは3Dプリンタに関係する業界のオピニオンリーダーに、3Dプリンタの現在、未来を語っていただく。明日は誰にも分からない。だからこそ、夢や妄想が明日を創る原動力になる。毎回、次の著者をご指名していただくリレーコラムなので、さまざまな視点での3Dプリンタの妄想をお楽しみください。

 

 
 

Imagination for 3D Printer

第66
3Dプリンタによる
CGクリーチャーの実体化

タンノハジメ/フィギュア原型師

タンノハジメ(たんのはじめ):1999年生まれ。造形作家/デジタルスカルプター。3D CGとの出会いから造形を始め、CG作品は学生コンペにて受賞多数。クリーチャーや神性を主軸とし、その存在の美しさ、力強さや 象徴性を求めて作品制作をしている。
X(Twitter): @tnn_scaltinof


 

●3Dプリンタ導入による作品の立体物化


初めて出力したもの。(クリックで拡大)

大学2年、2021年の夏頃からZbrushにて幼少期から好きだったクリーチャーの制作をはじめました。CGコンペのおかげもあってSNSでさまざまな人に作品を見てもらえるようになりました。2022年の夏に3Dプリンタ代理店のSK本舗さんからお声がけいただいたことがきっかけで3Dプリンタと出会いました。

それまではフィギュアや立体物に強い興味はありつつも、3Dプリンタは学生にとっては安くはない買い物ですし、造形自体始めて日が浅かったので購入に踏み切れませんでしたが、SK本舗さんにお声がけいただき、タイミングが来たなと感じたのでその時に光造形3Dプリンタを購入しました。はじめてプリントした時には3D空間上で写っていたクリーチャーがそのまんまの解像度で出てきて驚愕しました。


初めて出力したもの。(クリックで拡大)

初めて出力したもの。(クリックで拡大)

●3D CG用作品を出力するにあたっての苦難

導入初期は地味な失敗が続きました。複雑な形状はむしろやりやすかったのですが、四角い台座や円形の台座でかなり苦労しました。スライスデータの作り方の正解が分からず、失敗の数を重ねることでうまく出す方法を理解していき解決しました。

また、当時の私の作品はもともとプリント用に作ったものではなかったため、細部が過剰に細かかったり、トゲなどが繊細であったためにプリントするにはある程度の大きさが必要でした。そのため、中空にしないと剥離抵抗で側面が汚くなったり、レジンの使用量がとてつもない量になってしまい、無垢で出すにはとても続けられるものではありませんでした。

中空のものは中が洗浄できているのか不安で、上手くいったデータのものもまずは破壊して中をみたりもしました。 そんなこんなで導入してすぐはなかなか大変でしたが、現在は安定して制作できております。経験がないとうまくいかないことはありますが、自分が作ったクリーチャーが手に取れる造形物になる喜びはひとしおです。現物にしかない魅力は確実にありますね!

プリンタを導入してから怪獣のガレージキットやフィギュア原型もこなせるようになり、作品の幅が確実に広がりました。現在の私の創作、商業活動に3Dプリンタは欠かせない存在です。


「シン胸像」(2023年)。(クリックで拡大)

●今後の期待

・出力サイズ

光造形3Dプリンタの解像度がどんどん上がり、小さいものの出力レベルがどんどん高くなる一方で、大きいものを作るのはやはりまだハードルが高いなと感じます。先日180cm超の大きい作品を出力したのですが、個人用のプリンタサイズ(phrozen sonic mighty 8k:218mmx123mmx235mm)ではあまりにも大変でした。出力限界に近いサイズを50パーツ以上出力したので、分割や構成を考えるのもかなり時間を要しました。

sonic megaなどの超大型プリンタもありますが、現在は価格が高騰して100万円近くなっていますし、LCDパネルもかなりの金額ですので、ランニングコストやメンテナンスを考えると使用は難しいかなと。もう少しだけ大型のものがまともに普及してくれるといいなと思います。


大型の作品は細かく分割して出力し、このように組み立てました。(クリックで拡大)

ある程度組み上がった状態。(クリックで拡大)

・LCDパネル
光造形3Dプリンタは使用しているとFEPフィルムとLCDパネルなどの消耗品を交換する必要があります。FEPフィルムはまだめんどくさいで済むのですが、LCDパネルについては素人が交換するような仕組みとはとても思えません。私自身、phrozen sonic mightyが1台、LCDパネル交換中に基盤との接続部が壊れてしまってガラクタになってしまいました。あまりにもやりにくい作りなのでここはどうにかしてほしいところです。ワンタッチでできるようになれば最高ですね。

・活用情報
3Dプリンタは正直ピーキーな部分があるので、慣れていないとなかなか上手く扱えません。ある程度はすぐにうまくいくのですが、満足いくクオリティで出力するには経験値が必要かと思います。

私たちのように出力品の販売をするような人、クリエイター側は責任もあるし個数が増えて試行回数も増えていくため、ノウハウが溜まりますが、一般の方が使うにはランニングコストも高いし、なかなか使いこなすまでのハードルは高いのではないでしょうか。失敗の先に資金を回収できるのであれば続けられるかもしれませんが、現状なかなか厳しい場合が多いかなと思います。スライスデータや3Dプリントについてきちんと学べる機会というのがもっと増えてくれるといいなと思います。

私自身、説明が足りていない頓珍漢なツイートをしてしまったこともあります。結局個人レベルでの情報発信が多数あっても、最適解は分かりにくいのかなと。教育の場にも常備されるようになったらいいですね。レジンや洗浄液は危険ですし、ある程度の知識が必要です。若い人にとってより身近になれば、業界にとっても今後につながっていくのではないでしょうか。とは言っても進歩が早い業界なので今の当たり前がすぐに当たり前ではなくなるとも思いますので難しそうではありますが…笑。

3Dプリンタは、やはりまだ一般的とは言えないブツだと感じてしまいます。使う人が多くなればなるほど使いやすさも早く進歩していくと思われますので、どんどん一般的になっていくと喜ばしいと思います。 あっという間に誰でも超簡単に出力できる3Dプリンタが登場する未来を待ち望んでおります!



次回の執筆者は中西宏彰さんの予定です。
(2024
年3月7日更新)

 

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