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最新技術の鑑定術

本コラムでは、さまざまな最新テクノロジーがモノ作りや生活とどのように関わっていくのかを考察していきます。毎日のように出来立てのテクニカルタームが飛び交うビジネスシーンで、何が大切なのか? 皆さんが見極めていくヒントになれば幸いです。

 

 
 

New Technology Judgment

第14
道具をドライバーにして革新的なことを行うには

水野 操

米・Embry-Riddle航空大学修士課程修了。1990年代初頭から、CAD/CAE/PLMの業界に携わり、大手PLMベンダーや外資系コンサルティング会社で製造業の支援に従事。2004年に独立し、独自製品開発の他、3Dデータ、3Dプリンタを活用した事業支援などを行っている。著書に、『AI時代に生き残る仕事の新ルール』(青春新書インテリジェンス)など。
http://www.nikoladesign.co.jp/

 


●実績のある道具を使う

3D CADにせよCAEにせよ、用途がはっきりしている道具(ソフトウェアや新しい産業機械)は、ある意味で導入しやすい。もちろん、その組織でやってきたプロセスに馴染むかとか、使用する人が早く慣れてくれるかとか、導入する際の典型的な問題がないわけではない。
しかし、少なくともこの道具はいったい何に使えるの? などという根本的な疑問を投げかけられることは少ない。
さらに、ある程度実績のある道具であれば、導入事例、あるいはベストプラクティスと呼ばれる資料が用意されていたり、メーカーや販売業者が導入支援のサービスを提供してくれることもある。
いずれにしても、先駆者がいるだけにまったくどうしてよいか分からずに途方にくれるということは少ない。
ただ、実績のある道具を導入するということは常に自分がフォロワーのポジションでもあるということだ。道具をドライバーにして自社が何か目立つ革新的なことをやることは難しい。

●新しい道具が新しい事業を開拓する

道具は先行して使いこんでいる人や組織ほど、活用のノウハウも溜めこんでいる。当然だが、資料などにはそれらの核心的な情報はない。

また、昨今では新しい道具がそのまま新しい産業分野、あるいはそこまで大げさでなくても、事業領域を開拓することも多い。

そこに足を突っ込む人や会社は、当然ながら他に誰もやっていない(もしくは実践的な事例がないに等しい)ことを行うので、すべてが暗中模索だ。もちろん成功する保証はどこにもないわけだが、うまくいくとその分野をリードする存在にもなれたりする。

仮にそこに足を突っ込みたかったとする。その場合には何をしたらよいのだろうか。 簡単に言うと、目新しくて実績があまりなく、これは本当に使いものになるのか、と疑問さえ持つ道具を使ってみることかもしれない。

例えば、5~6年前の3Dプリンタだ。もちろん、当時筆者が取材とかでさんざん言っていたように、いわゆる産業用高額な機械はそのはるか昔から使われていたが、現在、一般的に想像するデスクトップの小型のもので使い物になるものはほとんど見当たらなかった。

ところが、今や光造形型のものでも50万円台からそれ以下でも十分な品質を持ち、最近ではそれらの機械を大量に並べて小規模量産に近いことをやっている会社もあるようだ。また、金型の材料といえば当然のように金属を考えるが、今や3Dプリンタ製のものが実用的になってきている。

言い方によっては、これらの会社は新しい事業分野を作り上げたとも言える。そこに至るまで誰もやったことのないことをしているので試行錯誤はたくさんあるが、成功すれば会社の新しい柱になったりすることもある。

誰しも、あるいはどの会社も他が追随してこない、新しいことをやりたい。それもあまりニッチすぎるのではなくて、ある程度の規模のあるものを。

これには常に商売のネタをウォッチする必要があるとともに、それを実現する新しい道具をもウォッチする必要がある。そして、その道具は非常に目新しくて、ユーザーはおろか、メーカーの方も実は需要、あるいはいったい何に使ってもらえば世の中に広まるのか考えあぐねている、というものが最高だ。
数年前の3Dプリンタもこの状態だった。

●新しい道具をドライバーに!

この状態に手を出すのはある意味で酔狂かもしれないが、新しい道具をドライバーにして新しい事業領域を作り出すにはこれくらいのことが必要なのではないだろうか。

ちなみに、今、そんな存在のものがあるのだろうか?
筆者はいくらでもあるのではないかと思う。

例えば、3Dプリンタの一種だが、「セメント用3Dプリンタ」だ。読者のみなさんも、ネットのニュースなどで目にしたことも多いと思う。建物を24時間で建てたというニュースも最近あった。……だが、この域を出るニュースがほとんどない。

さらに、筆者もこの分野に関わった人間としては言えるのは、機械も未成熟だが作っている方も将来のユーザーもいったいどう使ったら価値があるのが、よく分かっていないということだ。筆者も展示会に出た時にそれを思い知った。

筆者としては、ここに忸怩たる思いがあるので、次回はセメント用3Dプリンタのご紹介をして、ひょっとしたら将来のユーザーになるかもしれない皆さんの中にも種まきをさせていただきたい。



セメントブロックを造形中の3Dプリンタ。(クリックで拡大)

セメント3Dプリンタによる造形物一式。(クリックで拡大)



次回は7月中旬掲載予定です。
(2019年6
月19日更新)

 

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