●ウルトラモデラーズとフルカラー3Dプリント
2018年に、私とご縁のあるクリエイターや造形家の皆さんにお声がけして、「ウルトラモデラーズ」という3D造形集団を立ち上げました。ミマキエンジニアリングさんのフルカラー3Dプリンタ「3DUJ-553」を使った3Dプリントの造形物をアート作品として展示するイベントを行いました。
この企画の大きな目的は3つあります。
1つは現状の3Dプリントで一体どこまで表現できるのか検証する、ということ。
2つ目に、3Dプリントの造形物がアート作品としての価値を持つことができるか否かということ。
3つ目は3Dプリントの業界を一般の方に広く知ってもらうこと。
著者の作品より「シンギュアラリティ」(2017年/ワクイアキラ)。(クリックで拡大)
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実際のところ得られたことは、この3つだけにとどまることなく、もっと多くのことが検証され、得られた結果もたくさんありました。ここでは特に3Dプリントの面で書かせていただきたいと思います。
まずはフルカラー3Dプリントでどこまで表現できるのかと、2つ目のアート作品たりうるか…ということですが、個人的な見解として結論から率直にいうと、アナログ的な手作業で作品を作って販売してきた経験から判断した時に、まだまだアナログ的に人の手が生み出したものにはかなわない、ということでした。
特にカラーという部分ではクリエイターが求めるクオリティとして、まだまだ技術的には未来に期待する、という思いでした。現状では、プリントアウトしてから最後に表面に何らかの加工を施してのフィニッシュが必要だと感じます。
とはいえ現状でこの3DUJ-553と言うフルカラー3Dプリンタは最高に素晴らしいプリンタだと思うので、単に私自身が求めるアート作品としてのマテリアルクオリティのイメージが高すぎるのが原因だと思います。
このマテリアルのクオリティについては、アナログ的な作品制作の上で経験してきたことを頼りに、次回3Dプリンタで作品を作りたいと思うことがあれば、その時にはぜひまたさまざまな側面からトライできればと思います。
●3Dプリンタに期待すること
造形の部分に関しては、クリエイターが意地悪なくらい細かく作っても、3Dプリンタが現状の最大限の機能を使って昼夜問わず造形をしてくれることは1つの革命です。しかもこのプリンタが世界中にあって、それを扱える技術者がいれば、作品のテレポーテーションが可能になるわけです。
現在、美術品の配送や保管は大きな課題ですから、その部分に関しても3Dプリンタは「配送や保管」における革命を起こすカギになっていくはずです。これは新たなサポート材の開発によってもたらされるのかもしれないと妄想を膨らませている部分でもあります。
近い未来において実現目標になると予想できることは、「データ転送から仕上げまでがどれくらい高いクオリティで自動化できるか」ということだと思います。あまりにも意地悪な造形はプリンタやそれ扱う技術者へのストレスにつながるとともに、プリンタを扱う技術者の技術力やメンタル、フィジカルの影響によって作品の仕上げや扱いを一定に保ちにくいからです。
●ウルトラモデラーズと未来
2018年は、ウルトラモデラーズとしてのグループの活動に多くの時間を使ってきましたが、2019年は個人の動きに特化しました。それは2018年で多くの課題が見つかったからです。
フルカラー3Dプリントの世界を盛り上げるには、やはりウルトラモデラーズが実現したような動きが必要であることは証明できましたが、同じことを行うだけでも多くの時間とお金が必要ですし、過去以上の規模での展示などは、あまり現実的ではありません。
さらに2020年、春の騒動は、イベントやエンターテイメントの世界に暗い影を落としました。2020年の始まりに起こった騒動は、社会を混乱させ、人同士のアナログ的な対面のつながりは分断され、会社も学校も、その機能をデジタルのオンライン空間へとシフトさせています。
人々が集まるイベント、文化施設、エンタメも止まり、家から出られない日々が続く中で、経済活動が制限され、生産も消費も滞る中で、今後の3Dプリントに一体何が可能なのか、できることは何か、考えました。
とはいえこの記事を書いている現在も、明確な回答もなく思考し続ける日々です。この騒動が一時的なもので、そのうち収束するなら、今までの日々に戻るのかもしれませんが、私は悲観的に今後の未来を捉えておこうと考えています。
つまり今までの日々はもう戻ってこないと考えます。仮にそのような未来になったとして、それでも造形は可能か、アートは可能か、3Dプリントは可能か、ウルトラモデラーズは可能か。そういった思考を継続していきたいと考えています。
2019年に個人事業主から法人化して、3D造形を発展させてVRやARの研究とコンテンツ開発の世界へと進み始めました。それは5年ほど前から少しづつ計画してきたことで、私自身としては必然的な流れなのです。それと同時に陶芸や土偶作家もやっていて、これもなかなか筆舌に時間がかかりますが、僕にとっては極めて自然体なことです。
アナログ的なこととデジタル的なことを自分の中で両立することは、アイデアの化学反応を生みますし、世界が大きく変わっていく時代にはピボットを複数持つことでリスクヘッジになります。
一昨年くらいから特にGAFAと呼ばれるシリコンバレーの4強がVRやARに大きな資本を投入してハード、ソフト、プラットフォームを構築していることを見ても、その大波の予兆を感じることができます。目に見えない大波はすぐ目の前です。
大波を乗り越えるのは、「つながり」です。スキルの高さだけを競い合って、奪い合って疲弊したり、出し尽くされたアイデアで勝負をするのではなくて、企業も個人も、こちらの長所と、あちらの長所をつないで…というように、お互いの強みを持ち寄って点を線に、線を面にして3Dモデルを作るように、面白がって動ける人同士でイメージを形にしていきたいと思っています。
そうやって今までの知識と、経験と、人とのつながりと、直感とを使って、人間同士の関係性の中で未来を実現させたいと思います。どちらかというと引きこもりがちな自分なので人とのつながりはあまり得意なことではありませんが、それでもつながっていく必要がある時代になったと感じます。
夜明け前の闇がもっとも暗い、と誰かが言っていました。これから数年はとても厳しい世界になりますが、その後に待ち受けるクリエイティブな新世界に、もうすでに内心ワクワクしています。
そういった夢見たいなイメージを共感できる人と人が集まって愛ある未来のイメージを共有していきたいと思います。その愛ある未来には、人々の問題や悩みを解決するために3Dプリンタが大活躍するようなイメージがあります。。
●僕と福井さん
2020年春、ウルトラモデラーズにとって大きな存在である福井信明氏がこの世を旅立たれました。
福井さんはフルカラー3Dプリントでの作品を数多く発表し、個展を開催したり、勉強会で多くの人に3Dモデリングの楽しさを伝えてこられました。福井さんのパワフルで優しい言葉と行動は、ウルトラモデラーズにも多くの力を与えてくれました。
福井さんとはウルトラモデラーズの未来の話をたくさん共有してきたので、これからもともに歩んでくださると思っていました。今でも自分の中で信じられず、時間が止まってしまいました。
これからもさまざまな場面で、福井さんならどう考えるかな…と自分で自問自答するんだろうと思うのですが…僕はこれからも先に進み続けたいと思います。福井さんと話した、あんなことも、こんなことも、さらにもっと夢を膨らませて、実現したいです。
ウルトラモデラーズの活動の次の一手は? とたまに周りの人に聞かれます。2018年の段階ですでに2025年までの話は、福井さんとも共有しました。今でもその計画に向かって僕は進み続けています。きっと福井さんも面白がって見ていてくださると信じています。
福井信明氏 |
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福井さんの作品「この世界とあの世界の狭間でもなくそこいる」(2018年/福井信明) フルカラーアクリル樹脂。(クリックで拡大)
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※福井氏による本コラム「第3回:AIベースのミニFab工房」
●これからの3Dと教育について
福井さんはこれから造形を始めたい人に向けて、3DモデリングについてのコンテンツをYouTubeで精力的に発信し、応援をされていました。
私もまだまだ福井さんに及びませんが、私が世の中に働きかけることができることとして福井さんのようにこれからもYouTubeで3Dモデリングについてのコンテンツを発表していきたいと考えています。これは個人でやっている動画制作配信ですが、ウルトラモデラーズの活動の1つだとも思っているところもあります。
動画コンテンツを発信して福井さんがやりたかったことを僕も挑戦し、継続していきたいと思っています。
●これから期待しているもの
今、特に興味を持っているのが、陶芸素材としての粘土を3Dプリントする技術です。陶芸は窯で焼くことはデジタルで置き換えれないので、この部分に価値を感じます。また素材としても歴史があり長い年月の風雨に耐える強みがある素材です。
陶芸は、デジタルに置き換えることがまだまだ発展途上ですが、それゆえに、多くの魅力が詰まっていると感じています。
金属などかなりのマテリアルが3Dプリントできるようになってきていますが、個人的にはまだ世の中に出ていなくてこんな素材があればいいな、というアイデアがいくつかあります。
関西のいくつかの美術系大学や専門学校で講師をさせていただいているのですが、いろいろな専攻があり、またアナログやデジタルの表現が学校のそこかしこにあり、さまざまな学生さんが面白い試みをしています。彼らの作品の様子を見ているとまだまだ3Dプリントは美術や芸術の領域にまで浸透しきれていないことを感じます。
若い学生の学びの場に3Dプリンタは根付いていません。まだまだ素材も高価だったりして実験できる機会も少ないこともありますが、そもそも3Dに関する教育の遅れが大きな原因になっていると感じます。
奇しくも2020年の春の騒動による各学校のオンライン化はデジタル化を一気に押し進めました。デジタル化を先延ばしにして時間と予算を割いてこなかった学校も企業も個人も、大きく遅れをとり、淘汰の渦に飲み込まれる寸前なのではないかと感じます。
やる気さえあれば、今の時代はお金もかからず、スマホさえあれば、タダで学ぶことができる時代です。もう学ばない理由はありません。
これからの時代は本当にサバイバルの時代なので、企業も個人も、とにかくお互い学び合って情報を生かし合い、志を共有できるつながりを大切に育みたいと思います。未来の出会いとつながりに期待してワクワクしています!!
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の執筆は奥井花音さんです。
(2020年5月15日更新) |