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KeyMan in 3D World

印刷会社による3Dプリンタの
アーティスティックな活用ビジネス

大阪の印刷会社、株式会社ホタルコーポレーションは約1年前に、いち早くミマキエンジニアリングのUV硬化インクジェット方式フルカラー3Dプリンタ「3DUJ-553」を導入した。このフルカラー3Dプリンタによって立体印刷の可能性をさまざまな形で提案する同社の取締役本部長、福永 進氏に話を聞いた

 
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福永 進

1964年生まれ。株式会社ホタルコーポレーション取締役本部長。18歳で製版会社に入社、ドラムスキャナーのオペレーターとして色調補正の基礎を学ぶ。画像処理システムを経験、Macが登場するとPhotoshopでの画像処理、イメージセッター出力業務も経験。立体物へのUVインクジェットプリントを経て2017年、フルカラー3Dプリント事業を開始。
http://htc.hotaru-printing.com/

 



●印刷業界が3Dプリンタを?

3Dプリンタは試作メインだったRPの時代から大きく進化し、モノ作り業界の新たな製品加工機として成長を続けている。一方で新たな動きとして、印刷業界からも3Dプリンタへのアプローチが始まっている。

年々減少傾向にある出版物だが、印刷業界が別の柱となるビジネスとして注目しているのが、フルカラーの3Dモデルだ。大阪にある印刷会社、ホタルコーポレーションはいち早くフルカラーの3Dプリンタによるビジネスに取り組みはじめた。ホタルコーポレーションの親会社となる螢印刷は、主に家電の説明書などの印刷を行っていたが、先細りへの危機感から、新たな印刷ビジネスの開拓に向けて、2011年にミマキエンジニアリングのUV硬化型インクジェットプリンタ「UJF-706」、およびレーザー加工機を導入した。これらによりスマートフォンケースやUSBメモリ、Tシャツなど、さまざまな販促用グッズを企画し生産を始める。そしてその延長線上に「立体カラー印刷」という発想が見えてくる。

そこで、さらなる市場開拓をめざし、ミマキのUV硬化インクジェット方式のフルカラー3Dプリンタ「3DUJ-553」の導入に踏み切った。これは印刷対象物が従来の2Dから2.5D、そして3Dと進んできたわけで、印刷業界的にも自然な流れと言えるだろう。

同社で3Dプリンタ導入による新市場の開拓を推進したのが福永 進取締役本部長。同氏は「弊社が2017年に世界で初めて3DUJ-553を導入してからまだ約1年ですが、各方面に働きかけていた営業活動がようやく実を結びつつあります。ちなみに第1弾の受注は、長崎市と長崎大学が進めていた軍艦島3Dプロジェクトのモデル出力でした」と現状を語る。

そしてフルカラー3Dプリンタによる新規事業に確かな手応えを感じた同社は、2018年5月には2台目の3DUJ-553を導入した。


写真1:ホタルコーポレーションに2台導入されたミマキエンジニアリングのUV硬化インクジェット方式のフルカラー3Dプリンタ「3DUJ-553」。(クリックで拡大)

写真2:手前が作品展示用に出力された「3DUJ-553」によるフルカラーモデル。(クリックで拡大)

ミマキ「3DUJ-553」の可能性

福永氏は言う。「3DUJ-553は2Dプリンタに近い感覚で使える3Dプリンタで、そこが気に入りました。一昔前のカラー3Dプリンタは石膏で造形するタイプで、造形した後処理に研磨や再着色など職人的な工程が必要でしたが、3DUJ-553では、1,000万色を超える色を表現できる上、表現のきめが細かく、再着色などをしなくともリアルで繊細な表現が可能です。透明インクも搭載しているので、光沢表現はもちろん、トンボの羽のような透明さも表現できます。使用している樹脂素材は劣化がほとんどなく、耐久年数が長いのもユーザーにとって大きなメリットとなります」。

出力品質についても福永氏は合格点を与える。「3DUJ-553は、水溶性のサポート剤を使用していますので、水につけておくだけでサポート剤が溶け出すので、簡単にモデルを取り出せます。破損の心配も少ないため、非常に繊細な造形行えるので、デザイン性の高いアーティスティックな表現が可能です」と語る。

福永氏は「この3DプリンタではVTuber(Virtual YouTuber)などの3D CGフィギュアの造形をお勧めしています。また美大や専門学校の卒業制作などアカデミックな分野のビジネスも視野に入れています。単に今あるものの置き換えではなく「新しい市場を創る」ということを目標にしています。もちろん当社だけでは発想にも限界があるので、ユーザーのみなさんとともに、新しい活用法を発見していきたいですね」と展望を語る。


3Dクリエイターたちが「3DUJ-553」に飛びついた!

3DUJ-553のウワサを聞きつけ、同社には日本全国からCG業界の3Dクリエイターたちが集い始め、作品の造形も行っている。

このアプローチも福永氏の戦略の成果だ。「3DUJ-553によるフルカラーモデルは、クリエイターのみなさんに本当に喜んでいただいています。やはりディスプレイの中で完結するのではなく、実際にモノとして出現するのは夢のような話で、フィギュアの造型師の皆さんの間でもこのクオリティには衝撃が走っているようです(笑)」。

3DUJ-553は、繊細なグラデーション表現や髪の毛1本1本のディテールまで出力可能なので、逆に出力を依頼するクリエイター側にもさらなるモデリング技術が求められてくるようだ。


写真3:福井信明氏の作品「この世界とあの世界の狭間でもなくそこいる」から、「3DUJ-553」による造形の部分アップ。(クリックで拡大)

写真4:左に同じく福井信明氏の作品「この世界とあの世界の狭間でもなくそこいる」から部分アップ。(クリックで拡大)


大阪で開催の「Ultra modelars」の展示をサポート

2018年11月23日より3日間、大阪・日本橋のボークスにおいて「Ultra modelars」が開催された(レポート記事はこちら)。これは12人のCGクリエイター、モデラー、造形師によるフルカラー3Dプリント作品の展示イベントで、その出力サポートをホタルコーポレーションが行った。福永氏は今回のイベントに関して、出力を担当した狙い、メリットを以下のように語る。

「目標はミマキエンジニアリング社製フルカラー3Dプリンタの実力の認知度を上げることにつきます。その先にメリットとして市場(仕事)の創出があると考えています」。

質量ともに、今回の展示作品はかなり大掛かりな出力となったが、トラブルなどはなかったのだろうか?
「そうですね、まずデータ制作時に、従来の石膏モデルの造形限界の意識を捨ててもらって、もっと繊細な表現やディテール、フルカラーグラデーション、クリア素材の活用など、3DUJ-553の実力や可能性を作家さん1人1人に説明するのに苦労しました。作家さんは皆さんスキルや作風が違うので、個々の作品に活かせてもらえるように丁寧にお伝えしていきました。トラブルとしては、大きな作品を造形している途中で起きた地震や、台風21号による瞬停でプリンタが停止してしまった時は泣きそうになりました(泣きました)。なにしろ、小さい作品で30時間ぐらい、大きくなると100時間を超える作品もありましたので、天災がいちばん怖いですね」。

クリエイターが3DUJ-553での出力を想定してモデリングを行う際、一番知っておきたいコツはなんでしょうか。
「”ディテールも色も細かく創り込む”この一言に尽きます」。


写真5:上記の福井信明氏の作品「この世界とあの世界の狭間でもなくそこいる」を「3DUJ-553」によって出力していく過程。(クリックで拡大)

写真6:モデル全体の出力が終了。サポート材にくるまれている。(クリックで拡大)


写真7:水溶性のサポート材を取り除く作業。(クリックで拡大)

写真8:サポート材がきれいになくなり、色鮮やかな作品が出来上がる。(クリックで拡大)


●今後のフルカラー3Dモデルの出力ビジネスについて

福永氏は3D出力ビジネスについて現状をこう語る。 「おかげさまで、受注は増え続けています。昨今では企業やブランドのロゴやCI、アニメのキャラクターやブリキ商品などの出力依頼の際に、オリジナルの色に合わせたいという”色合わせ”のご要望が増えていますが、1,000万色以上のフルカラー造形が可能な3DUJ-553と印刷会社としての色合わせのノウハウを生かすことでご満足いただける結果を出しています」。

たしかに色の表現や再現は印刷業界ならではのノウハウであり、おそらくモノ作り業界ではまだ追いついていないスキルだ。この印刷業界の強みを生かすことで、モノ作り業界ではアプローチできない市場を開拓することができるかもしれない。

福永氏は最後に「3Dプリントは、これから益々いろいろな市場で求められてきます。モノ作り業界だけではではカバーしきれない成果物を、印刷のプロならではのアプローチで展開していきたいです」と語った。

(2018年12月4日更新)

 

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